5 まいごのまいごの、ふわふわさん
目をあけると、きりがかかってまっしろな空がみえた。
首をまわしてみわたせば、あたりはみどりの草っぱら。
……しらない場所だ。
ここは、どこだろう。おれは、どうしちゃったんだろう?
「きみ、だいじょぶ?」
ふいに頭のほうから、やわらかな声がふってきた。
首をそらしてみあげると、やさしそうな顔をしたにんげんが、おれを心配そうにみていた。
さらさらしたかみの毛は、あにきよりちゃいろっぽい。背の大きさとか年とかは、おれよりデカくてあにきよりちっさいかんじ。
なんていうか……やわらかそう。
おれは、ホンモノのにんげんのことはよく知らないけど、まあ、わるいかんじはしない。
「えっと、……平気。
ていうか、だれ?」
「うーん。だれだったかなぁ。
ここにきてから、よくおもいだせなくって」
「ええっ?! じぶんの名前わかんないって、やばいじゃん!
おうちは? おれが送ってってやるよ!
あっと、おれはイチって呼ばれてる。
こうみえてちょー悪いようか……いがだいすきなんだ!! あやしくないから!!」
「そうなんだ~。よろしくね、イチくん!」
こえも、しゃべりもやわらかい。
こくびをかしげるしぐさも、ほほえむ顔も、みんなみんな、やわらかい。
そいつはなんだか、あいつっぽかった。
そういうわけでか、わからないけど――
おれはなぜかそのにんげんを、ただの『エモノこうほ』とはみれなかった。
っていうか、じぶんの名前がわかんないなんてやつ、ほっとけないし!
とりあえずは、おうちまで送ってやろう。そう、あにきならそうするはずだし。
はね起きたおれだが、そのまんまずっこけそうになった。
そいつときたら、はにかんだ笑みでこういったのだ。
「ただね、そのー……それもわかんない」
「まじかよ!」
「あ、でもね、いきたいところはあるの。
っていうか、さがしているひと」
「ほんとに? どんなやつ? 名前は?」
「えっとね……かおはわかんないの。あったことがないし。
なまえも……サイトでつかってるなまえだけなんだ、しってるの」
「へ?」
そして、そいつが口にした名前に、おれはこおりついた。
それは、あの『小説とうこうサイト』でつかってる、おれの名前だったからだ。
「あのー……えっと……そ、そいつって……どんなや……つ?」
きまずい。さすがにこれは、きまずい。
おれはなんとかごまかすために、ひっしで質問をした。
すると、やつはちょっぴりもじもじとして、こうのたまった。
「あのね……そのね……わたしのファンさま一号!」
「え?!」
「わたしね、ずっと趣味で、小説書いてたんだけど……
こないだはじめて、小説投稿サイトに投稿してみたんだ。
そしたらそのひとが、評価してくれたの。
そのひと、いろんなひとにいっぱい評価をしててね。
こんなすごいひとがわたしにって、とってもうれしかったの!」
「は……はあ……」
ことばづかい、話す内容。まちがいない。こいつは、あのさくしゃ本人だ。
やつはほっぺたを桃色にしてうれしそうだが、おれはひやあせダラダラだ。
いったいどうやってさぐりあてたんだ、こいつ。
あのとうこうサイトでは、ひょうかしたやつのなまえはわからないはずなのに。
「そのひとね、そのあとお兄ちゃんにもわたしの作品、紹介してくれて……
お兄ちゃんが、そのひとのぶんも、感想くれたの。
『弟もすっごく気に入って、毎日読み返してます。すっかり大ファンみたいです』って!
うれしかったなあ。
それから、ほかのみんなも、そのひとの紹介で、読みにきてくれるようになった。
そのあともそのひと、いつもまっさきにわたしの作品に評価をくれた。
いつか会ってみたいなって、ずーっとずーっと思ってた!」
「はあ……」
そういうことか!! ことばをにごしながら、おれはひそかにふんがいしていた。
もう、あにきのやつ。おれはそういうようかいじゃないのに!
あにきのことはソンケイしてるし、だいすきだけど、これはひとこと、いっとかなきゃいけない。
けれどそんなかんがえは、つぎの言葉でぶっとんだ。
一体なんという試練……!((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
次回は明日朝投稿です。
妖怪ものらしく、ちょっとだけこわい感じになります。
どうぞ、お楽しみに!