4 食らう、妖怪
「あいつのブクマを……ほかのやつらに?」
「なんだよ、いやなのか?」
「え、いやっていうか……そのう……
あ、あにきだから、いいけどっていうか……その……」
おれはこんらんのまま、言葉をさがした。
あにきにだったら、食べられてもいい。それは、ほんとだ。
だってあにきには、そのしかくがある。
でも、ほかのやつに食べられるのは……
それも、何人もでどんどん食べられたら、どうなってしまうだろう?!
目のまえでブクマがどんどんなくなっていく。そんなとこなんかみたら、いくらなんでもあいつだって……
かんがえたら、泣きそうになった。
やがて、あにきのためいきがきこえてきた。
「……しかたないな。
わかった、知らせるのはやめとく。
でも、あいつらが独自にあの作者のことを知って、ブクマを食うようになったら、それを止めることはできないからな。
俺たちは『妖怪ブクマはがし』。ブクマをはがして食う妖怪だ。
その生まれ方やありようはさまざまでも、それだけは譲れない。
俺たちが『妖怪ブクマはがし』である限りはな」
「……はい」
それからおれは、ようかいPCに張りつくようになった。
一日になんども、あいつの作品の『情報ページ』をまわった。
まだ、ばれていないよな。まだ、だいじょうぶだよな?
ひとつへっては冷や汗をかき、ふたつふえてはほっとして。
でもじっさいに、あいつのブクマがみんなに食われるようになってしまったら、どうしたらいいんだろう?
おれはまだまだ、チビのようかいだ。
それが、あにきたちみたいな、一人前のようかいに、かなうかといったら……
そんなふうになやんでいるうちに、それははじまってしまった。
さいしょはぽつぽつと。やがて、ながれるようにブクマがへりはじめた。
ショックをうけたのだろう、作品の更新はとまり、活動報告もかかれなくなった。
これはひどい、あんまりに、ひどい!
そのとき、はげしくドアがたたかれた。
「おいイチ、開けろ! 俺だ!!」
ドアを開けると立っていたのは、あにきだった。
かたい表情をして、おれがなんにも言わないうちに、早口で言いだした。
「はじまっちまったな。
前も言ったが、俺はこれをどうにもできないぞ」
「え……そんな……だってこんなの!」
「運営さんに報告するか?
『おかしなことは何もない』が回答だろうな。
俺たちは、そういう存在なんだから」
そうだ。
ひとのちからでは、とめられない存在。
それがおれたち、ようかいだ。
だったら、打つ手はひとつだけ!
「あにき。
心当たりのひと、おしえてください!
おれが、自分でひとりひとりまわって、決着をつけますっ!
だから、あに」
「俺もこいつのブクマを食ってんだ、そんなことをする資格はない。
というより見抜くだろうな、こいつなら」
おれは、あにきに『メッセージを送って、あいつをはげましてやって』と言おうとした。
でも、それは言いだすまえから『きゃっか』された。
そうだった。あのさくしゃ、ほわほわしてるかと思うと、ときどきみょうにするどい。
へたなことをいったら、ますますキズつけることになるだろう。
ただでさえたいへんな、こんなときに。
「どうすれば……どうすれば」
「メッセージは、お前が送れ。
あいつにいちばんに評価をつけてやった、お前のアカウントから。
お前自身の、すなおな言葉で」
「ええっ?!」
かぶせるように告げられたことばに、おれは心底おどろいた。
「だ……だってあにき。おれは『ひょうか1:1』ですよ!
さくしゃのこころをおっておんねんを食う、そのために1:1ばっかりつけていた、すっごいわるいようかいなんですよ?!
こいつのことだって」
「俺だって悪の大妖怪なのに、お前の頼みを聞いて評価を入れたぞ。
それでも俺はここにこうして立っている。
お前にはできないのか? この俺と、おんなじことが。
お前、俺をみならって、いつかりっぱな大妖怪になりたいって言ってたな。
だが、いまここでやれなくて、いつかなんて日はないぞ!」
「っ!」
いつでもいつも、やさしかったあにき。
そのあにきが、いきなりこんな、きびしいことをいうなんて――
おどろいて息をのむ、と同時に、世界がまっくらになった。
この次の投稿は本日夕刻~夜の予定です。
どうぞ、お楽しみに!