1 となりのとなりの、ブクマはがし
「……というわけなんです、あにき」
あわてたおれは、あにきの部屋にかけこんだ。
『ようかい長屋』のとなりのとなり。大ようかい『ブクマはがし』がすむ部屋だ。
まさか、あの大ようかいが、こんな近くにすんでたなんて。
しかも、あこがれのあまりに部屋をのぞいてしまったおれを、わらってゆるして弟分にしてくれたなんて……
いまだに、ゆめみたいだ、っておもう。
あにきたち『ブクマはがし』は、とってもおそろしいようかいだ。
ブクマを、ぺろっとはがしてたべてしまう。
ブクマとは、『小説とうこうサイト』の作品につけられる、お気にいりのあかしのこと。
いっこつけてもらえると、ひょうかポイントが2プラスされる、さくしゃにとってはうれしいものだ。
ぎゃくに、いっこはがされると、ひょうかポイントが2マイナスされてしまう。
おれなんかでさえ、ひょうかポイントを『1』+『1』で、『2』のこしていくというのに……
『ブクマはがし』は、それとおなじポイントを、ただ、うばっていく。
むじひな、なさけようしゃのない、ようかいのなかのようかいなのだ。
だから、そーっと部屋をのぞこうとして、あにきと目があっちゃったときは、おれももうおしまいだ! と思った。
あたまからばりばりと、食べられちゃうんだと思った。
けど、あにきはそんなことしなかった。
泣きだしちゃったおれを、縁側にまねいてくれて。
あったかなお茶と、おっきなだいふくもちをごちそうしてくれて。
そうして、おれを弟分にしてくれた――
そのやさしさにあまえておれは、いま、ここにいる。というわけだ。
いつもの縁側に正座したおれは、さっきの大じけんを、そしていまの正直なきもちを、あにきにうちあけた。
「まさか、ひょうか1:1で、よろこばれちゃうなんて。
おれは、せかいのみんながおそれるような、すっごい大ようかいをめざしていたのに。
もう、いったいどうしたらいいか……」
「なるほどなあ……」
おさらにならんだスイカのむこう、あにきはうーんとうでをくむ。
あにきのかみと色をあわせた、シンプルな黒のタンクトップ。そして、てきどにやぶれたブルーのダメージジーンズは、『ほそマッチョ』なあにきに、よくにあってる。
かおもとってもかっこいいし、なにをしてもきまってる。
なんていうか、くろねこみたいな、ちょーイケメンだ。
おれもおっきくなったら、こんな風になれたらいいなあ……
なんて、おもわずみとれたおれだったけど、そんな気分はすぐふっとんだ。
「いや、俺のほうでもこのあいだ、とんでもないのに出くわしたんだよ。
ブクマをはがされたことをよろこぶ作者なんか、ふつういないだろ?」
「はい」
「ましてそれをわざわざ、ほかの奴らに報告するとか」
「ええ……」
「それも嬉々として、『ネタになった』って!」
「えええっ」
「作品リストをみたらそいつ、俺たちブクマはがしのことを作品にしてやがったんだ……」
「えええええ!!」
「あれはたぶん、触れちゃいけないモノだ。
妖怪キラーなんてチャチなものじゃない……もっと恐ろしいものの片鱗を俺は見たぜ……。」
「……な、なんて、……こと……」
あまりにショッキングなはなしに、おれはがくぜんとした。
ついで、むかむかといかりがこみあげてきた。
「あにきのプライベートをネットにあげるなんてっ、ようかいプライバシーのしんがいじゃないですか!
はがしちゃいましょうよ、そいつのブクマぜーんぶ!!
おれもひょうか1:1つけてきますから! えっと、えっと、じゅっこぐらい!」
「やめろ! 10こも評価がついたりしたらあの底辺作者、それだけで狂喜乱舞する!!」
「そうなんですか?!」
「それにおまえ、そのためだけに10こもアカウント作るのか? ばれたらサイト永久追放だぞ!
かわいい弟分が、そんな危険なことをするなんて……
俺はぜったい、見すごせないからな!」
「あにき……」
あにきが、こんなにおれを心配してくれてる。
もうしわけなさと同時に、うれしさがこみあげて、おれはちょびっとだけ、目がうるんでしまった。
「それに、書かれていたのはおなじ『ブクマはがし』でも、別の奴らのことだったからな。
安心しろよ、俺はそんなヘマはしないって」
「……はい!」
そういってあにきは、ぱちんとカッコよくウインクしてくれた。
きれいなきれいな、あかいひとみで。
気がつけば、はらだちはどっかにきえていた。
「ま、とりあえず足くずしてさ、スイカ食おうぜ。
このことは、俺もちょっと考えてみるから。
いいか、ひとりで思いつめんなよ? イチには、俺がいるんだからな!」
「はいっ!」
あにきは、おれのあだなをよんで、おっきな手でわしわしと、あたまをなでてくれた。
やっぱり、あにきはたのもしい。そしてとっても、カッコいい。
いつものごとく、ちょびっとドキドキしながら、おれはスイカに手をのばした。
いやはや、世の中こわいものしらずの作者もいるものですね(すっとぼけ)
次回は朝の投稿となります。どうぞ、お楽しみに!