9 『ようかい『ひょうか1:1』とわたし』
こうしておれは、とあるさくしゃの『守護天使』になった。
今日もようかいの世界と、にんげんの世界を行ったりきたり。
入院しているやつのところに、おみまいにいっては、げんきづけ。
ちょっと元気でたからって、しょうせつ書きすぎてないか、ちゃんとみて。
こっそり夜ふかしなんかしてたら、退院がおくれるだろ、ちゃんとねろ、て言ってやって。
ときには、なれない子守唄なんかも、小さな声でこっそり歌って……
――その一方でおれは、過去のおれとの決別をすすめていた。
ひとりのさくしゃをおうえんしながら、ほかのさくしゃのココロをおろうとする。
そんな生き方だって、ないわけじゃない。
でも、おれはそれは、いやだった。
これまでのおれがしたことを、アカウントごとさくじょしちゃって、何もなかったかのように出直す。
そんなやりかただってないわけじゃない。
けど、おれにはそれは、できなかったから。
おれはやつに、すべてをうちあけた。
そして、ほんとうにごめんなさいとあやまった。
やつはおどろいてたけど、すぐにふんわりわらって、おれのあたまをなでてくれた。
「イチくんは、さいしょはそんなつもりだったんだね。
でも、そのあとからは、ちがってきたんでしょ?
だったら、わたしにとってはやっぱり、イチくんの評価1:1は、『いままでよんだなかでいちばん!』だよ。
……それにね。
イチくんの評価は、なにをどうやったってわたしのいちばん、なんだよ。
わたしがいちばんにもらった評価、それはイチくんの評価なの。
わたしの作品に、わざわざ、評価を送ってくれた。
ただなにもなく、スルーするんじゃなくて。
そのことがとにかく、ひたすらうれしかった。
だからわたし、もっと小説書いてみようって思ったの。
ありがとう、イチくん。みんな、イチくんのおかげだよ」
それをきいて、おれは泣き出してしまった。
おれは、なんてひどいことをしていたんだろう。
こいつは、このとおりの天然だからよかった。
でももうちょっと、ふつうだったら――
おれのつけたひょうかで、こころをおられて。
小説やめて、おちこんで。
そんなときにバス事故にあったら。意識不明の重態になったなら……
いまごろ、もういいやって、死んでしまっていたかもしれないのだ。
目の前の、あったかな手の持ち主が。
いや、もうすでに、ほかのさくしゃはそうなってるかも。
おれは、取りかえしのつかないことをしてしまったのかもしれない!!
がくぜんとしたおれを救ったのは、やつのやわらかな声だった。
「それにね、あのサイトでは有名なんだよ。
『2は2希望、3は魅力的、4はよかったよ、5はそれいけゴーゴー。
それじゃあ、1は?』って。
……でも、イチくん。
イチくん自身がそれじゃ、納得できないっていうならば……
もういちどちゃんと、評価をつけ直してみたらどうかな?
ほら、評価1:1って、ブクマがわりに使われることがあるから。
それのつもりで、もういちどちゃんと読んで、評価したらいいと思う。
だけど、おねがい。
わたしのは変えないで。
だってイチくんの1は、わたしにとって、とくべつなものだから」
そういってやつは、ほっぺたを桃色にしてほほえんだ。
ああ、おれはこいつに、ぜったい一生、かないそうもない。
でも、かなわないってことは、ずーっとそばにいれるってことだ。
いままで感じたこともない、あまいあまいきもちにつつまれて、おれは決めたのだ。
おれがこれまでに1:1をつけた、すべての作品をマジメに読みなおす。
そして、評価をしなおし、書けるかぎりで感想も書く。
できるなら、こいつの退院の日までにぜんぶ。
そうして、こころもからだも、完全にすっきりとして、こいつを迎えにこようと。
それは楽しくも、かこくな日々だった。
あにきの布団にいれてもらわなきゃ眠れないくらい、こわい作品もあった。
チビのおれにはしげきが強くて、はずかしくなっちゃう作品もあった。
それでもおれは、がんばった。
特製の目薬を何度もさして。しまいには、片目ずつ休めながら。
うちにいる時間のほとんどで、読んでよんでよみまくって……
読みはじめから、ジャスト一週間。
ついにおれは、さいごの作品にたどりついた!
その晩は、あにきとにいちゃんをはじめとしたみんなが、おれの部屋につめかけた。
もちろん長屋のちいさな部屋の中に、ぜんいん入りきるわけもない。
満月のあかりのした、縁側や庭、外の通りまでもが、たくさんのようかいたちであふれた。
「い、いいいいいかイチ、お、おおおおちついていけよ!」
「うん、まずはお前が落ち着こうな?」
そんなやりとりを背中でききつつも、作品タイトルをクリック。
あらわれたのは、一部分につきひとつの掌編をおさめた、和風ファンタジー短編集。
ねこやの『季節の和菓子セット』のような、上質の、どこかなつかしい作品がつまっていた。
ゆっくりとひとつひとつ、味わって読みすすめ、さあ、最後のタイトルは――
『ようかい『ひょうか1:1』とわたし』
なんてこった!
おれはばたっと後ろにひっくり返った。
そしてようかい長屋は、みんなの明るい笑いにつつまれた。
おしまい
天使になってしまったちいさなようかいのおはなしは、これにておしまいです!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!