53 彼女を守ると誓ったのに……
シズが売り出したシャワーヘッドは、瞬く間に王都に広がった。
だが、買いに来る人を思って、日々寝る間も惜しんで作業を続けるシズが心配で仕方なかった。
何度、無理はするなと言っても「これくらい大丈夫です」と言って、頑張り続けてしまうのだ。
無理やり寝かしつけても、いつの間にか起き出して作業しているシズに何度説教したことか。
彼女は、それでも自分が蒔いた種だと言って頑張り続けていた。
本当は、彼女に付きっきりでそれを諌めたいところだが、最近変な男に後を付けられていることもあり、シズのことを考えると迂闊に彼女に行くことが躊躇われた。
その他にも、最近シズの家の近くで不審な行動を取る男が目撃されていたため、騎士団で警戒中だったことも重なっていた。
俺が変な男に、周囲を嗅ぎ回られるようになったのは、数日前からだった。
初めは、気配を消して俺の様子を窺っていたようだが、一昨日からは俺の後を付け回すようになっていた。シズに迷惑をかけることを考えると彼女に会いに行くのを躊躇ってしまっていた。
シズの家に行く時は、不審な男を撒くために回り道をしているくらいだ。
その日も、いつも以上に時間を掛けてシズの家にたどり着いた。
彼女は、どんなに疲れていても俺とアークのために温かく迎えてくれたのだ。
だけど、その日は違っていた。
家のチャイムを鳴らしてもシズが出てくる気配がなかった。
まさか中で倒れているのではないかと、渡されていた合鍵で中に入っていった。
すると、リビングで丸くなって眠る彼女の姿があった。
目の下には隈ができていて、起こすのは忍びないと思った俺は、彼女を抱いて二階の部屋に向かっていた。
シズを抱き上げて、ゆっくりと彼女の部屋に歩いていると、彼女がなにか寝言を言ったのだ。
駄目だと思いつつも、つい彼女の寝言に耳を傾けていた。
「……、いや……。ちかこちゃん……、やめて……。たすけて……」
悪い夢でも見ているようで、目尻には涙が浮かんでいた。
起こしてあげたい気持ちはあったが、疲れている彼女を起こしていいものか悩んでいると、彼女の口から初めて聞く名前があった。
「かっちゃん……」
誰なのか分からないが、その名前を聞いた時、俺の心の中に黒い感情が広がった気がした。
シズは、その知らない誰かに助けを求めたいたように俺には思えたからだ。
俺は、無意識に眠っているシズを抱きしめていた。
そっと、優しく。
腕の中に閉じ込めて、彼女を守るように。
「シズ、俺がいる。俺が側に居るから。だから、安心してくれ。俺が、シズを守るから」
何度もそう言って、シズを抱きしめていた。
眠っている女性に対して、こんな事してはいけないと思っていても自分を止めることが出来なかった。
いつの間にか、腕の中で眠るシズは安らかな寝息を立てていた。
彼女の寝顔を見つめながら、俺は強く誓った。
「シズを守るよ。絶対に、守るから」
そう誓った後、俺はそっと部屋を抜け出した。
リビングに戻ると、アークがソファーに座っていた。
「ああ、アークも来てたのか」
「はい。シズ……、大丈夫ではないですね……。それに、最近この辺りを荒らす輩の行動が活発化しているみたいで……」
「絶対に犯人を捕まえる」
「はい」
俺とアークはしっかりと戸締まりをした上でシズの家を後にした。
だけど、このことを俺は後悔することになった。
守ると誓ったのに……。俺は……。




