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2 私は回想する

 私は、何処にでもいるような平凡な高校一年生。だけど、ちょっとだけクラスで浮いた存在だった。そんな私に話しかけるのは、このクラスでも限られた人だけだった。

 私に話しかけるのは、従姉妹で幼馴染の千歌子ちゃんと幼馴染の由利克人(ゆりかつひと)君だけだった。

 たまに、かっちゃんの親友である、野上総司(のがみそうじ)君が話しかけてくるだけ。

 

 高校一年も、もうすぐ終わるという時期なのに、結局友達を作ることはできなかった。

 昔からそうだった。千歌子ちゃんとかっちゃんはクラスの人気者だけど、二人のおまけの私は、空気みたいにいつも扱われた。

 

 でも仕方ないの。だって、私は人と関わるのが得意ではないというか、あまり関わりたくない。

 私は、自分の顔が大嫌いだった。だから、極力顔を合わせたくないという思いから、顔を隠すようにいつも俯いていた。

 もともと目が悪く、日々視力が落ちていることから、分厚いレンズのメガネをしていることに加えて、長く伸びた前髪のせいで私の素顔を見たことのあるクラスメイトはきっといないだろうな。

 

 

 でも、小学生まではそうじゃなかった。

 私がまだ小さい頃、父さんも母さんもまだ生きていた頃は、今のように俯いてはいなかった。

 

 だけど、私がそうなったのには理由があった。


 あの日、いつものように、かっちゃんと千歌子ちゃんと三人で遊んでいた。そうしたら、経緯は忘れちゃったけど、かっちゃんが急に私に言ったんだ。

 

「ブース!!何笑ってんだよ!!ブスがヘラヘラ笑ってんなよ!!ついてくんなブス!!」


「待って、かっちゃん!!」


 なんでそうなったかは覚えてないけど、そう言って私を置いて走り出してしまった。

 私はと言うと、追いかける途中で転んじゃって、走っていく二人を見失ってしまったんだ。

 それで、泣きながら家に帰る途中で、血相を変えた父さんに出会った。父さんは、青い顔で私に言ったんだ。


「母さんの容態が急変した。急いで病院に行くよ」


 母さんは、病気で入院していた。だけど、この日容態が急変して私と父さんが病院についたときには意識がなかった。

 父さんと二人で、必死に母さんの手を握りながら声を掛けたのを覚えている。

 母さんは、薄っすらとだけど目を覚まして私と父さんに言った。

 

「泣かないで……、私は、二人に笑って見送られたい……な」


 母さんの言葉を聞いた父さんは、涙を流しながらも笑顔で頷いていた。それを見た私も、涙は止まらなかったし、引きつったものだったけどなんとか母さんに笑った顔を向けることができた。

 母さんは、私と父さんを見た後に、私の大好きな綺麗な笑顔で笑ってくれた。

 それが、母さんとの最後の思い出となった。

 

 それからは、父さんとの二人暮らしが始まった。

 もともと、母さんの入院生活が長かったから、家事全般は問題なかった。だけど、母さんのいない日常は、私と父さんから心からの笑顔を奪っていった。

 父さんは、母さんの最後の言葉を思い出してなのか、笑顔をみせてくれたけど、それは作ったような笑顔で、心から笑うことはなかったと思う。

 私も、できるだけ笑顔でいようとしたけど、どうしても引きつったものになってしまっていた。

 

 でも、私が中学に上がってすぐに父さんが交通事故でこの世を去った。

 学校に連絡があって、急いで病院に向かった。

 手術は成功したと先生は言っていたけど、難しい手術だったらしく今夜が峠だと言われた。

 私は、意識のない父さんの直ぐ側で声を掛け続けた。

 私の祈りが届いたのか、父さんは目を覚ました。

 だけど、小さく細い声で父さんは私に言い遺した。

 

「静弥……、お前を一人ぼっちにしてごめん。酷い父さんだけど、静弥には笑っていてほしい……。お願いだ、笑って……」


 父さんの言葉は、いつかの母さんを思い出させた。

 私は、やっぱり泣きながら、引きつった笑顔で父さんを見送った。

 だけど、父さんは私の引きつり笑いを見て母さんが生きていたときのような柔らかくて温かい笑顔を返してくれた。

 

 それから、二人を失った私は、近所に住んでいた叔父さんが後見人となってくれたことで、生まれ育った家で暮らすことができた。

 初めは、反対した叔父さんたちだったけど、私が頑としてこの家で暮らすと言って譲らなかったから、最終的に折れた叔父さんから一人暮らしを許してもらった。

 私は、父さんと母さんの残してくれた遺産で、二人の思い出の詰まったこの家で一人暮らしを始めた。

 

 それからの私は、父さんと母さんの願うように出来るだけ笑顔で暮らそうとした。

 だけど、どうしても引きつったものとなってしまった。

 

 そんな引きつり笑いをする私に、いつかのようにかっちゃんが言ったんだよね。

 

「しずのそんな顔見たくない。無理に笑おうとしなくていい。ブスがさらにブスになるから、無理すんな」


 必死に父さんと母さんの思いに応えるべく、笑っていようとしている私にそんな言葉を投げつけたかっちゃん。最初は、ショックで仕方なかったけど、傷心の私になんてこと言うのって、頭にきた私は、それ以降かっちゃんに顔を見られるのがものすごく嫌になったんだよね。

 それが次第に、かっちゃん以外にも顔を見られるのが嫌になってきて、自分で自分の顔を見るのすら嫌になっていたんだよ。

 そういう訳で、私は俯いて顔を隠すようになったの。

 

 話がそれちゃったけど、そんな訳で私はクラスで存在感のない空気みたいなモブとして過ごしていた。

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