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16 私とハサミの音

 私は全力で拒否したかったけど、イケメンの顔面パワーにヤラれて最終的には折れていた。

 だって、ヴェインさんのあのイケメンな顔面を捨てられた仔犬みたいにされたら頷くしか無いじゃないの!!

 私の周りにいたイケメンと言えば、かっちゃんが思い浮かぶけど、いつも怒ったみたいな顔で怒鳴られたり、呆れられたり、バカにされたりで……。こんな無防備な……、そう乙女心をくすぐるような顔なんて耐性がない。

 

 そんな訳で、私はイケメンに押し切られる形で久しぶりに前髪を短くすることになってしまった。

 だけど、これだけは言わないといけないと思って、何故か嬉しそうに準備をしているヴェインさんに向かって言った。

 

「あの……、ヴェインさん……。あまり短くしないで下さい……。今まで、ずっと長い前髪で過ごしていたので、急に短くなったら……。私、恥ずかしくて死んじゃいます……。だから……」


 私よりもずっと背の高いヴェインさんを見上げて、恥ずかしいけどあまり短くしないでくださいとお願いした。

 背の高いヴェインさんを見上げていると、首が痛くて苦しかったけど、言うことは言わないといけないという思いから、私にしては頑張って気持ちを伝えた。

 すると、ヴェインさんは何故か一瞬顔を赤らめてから、慌てた様子で口元を手で覆って何かをモゴモゴと早口で言っていたけど、高い位置で発せられる小さな声を私は聞き取れず首を傾げるしか無かった。

 

「うっ!前髪の間から見える少し赤くなった顔が可愛すぎるんだが……。前髪を短くして本当に大丈夫だろうか……。だけど、可愛い顔が見たい……。いやいや、前髪が長いと前が見えなくて危ないからな!そうだ、俺はシズの安全のためにだな……。別に、可愛い顔をよく見たいからとかそんな欲望まみれの気持ちなんかじゃ……。でも、こうして首を傾げて見上げてくる顔も可愛いなぁ」


 どうすればいいのか分からない私は、ひたすらヴェインさんの次の行動を待つべく頭上にある彼のことを見ていた。

 すると、背後からアーくんの咳払いが聞こえてきた。

 一瞬、ヴェインさんがビクッてなってから、視線を泳がせながら言った。

 

「よし、じゃぁ切ろうか」


 こうして、私は自称自分は器用だと言う、ヴェインさんに前髪だけでなく髪全体を切られることになった。

 

 リビングに大きめの布を敷いて、その上に置いた椅子に座った私の背後に周ったヴェインさんは、慣れた手付きでチョキチョキと私の髪を整えていく。

 室内には、ハサミのチョキチョキと言う音と、私の髪がパサパサと床に落ちる音だけがしていた。

 アーくんは、静かに私達というか、器用にハサミを操るヴェインさんを見ていたみたいだった。

 

 全体を切り終わった様で、ヴェインさんは私の前に回り込んで、長い前髪を切りやすいようにダッカールで留めながら言った。

 

「よし、それじゃ最後に前髪を切ろうな?目に入ると危ないから目、瞑ってくれるか?」


 私は、ヴェインさんはの言葉に大人しく目を瞑った。

 でも、何故かヴェインさんは中々髪を切ろうとはしなかった。どうしたんだろうと思いつつも、身動き一つせずにヴェインさんを待っていた。

 だって、私が動いた所為で、ヴェインさんが間違って髪を短く切ったらと思うと、動くこととも口を開くことも出来なかった。

 でも、ヴェインさんが、またゴニョゴニョ言っているのが聞こえて私は、急に緊張してきてしまった。


「やっぱり可愛いな……。緊張してるみたいだな……。長いまつ毛が震えている……。ごくっ。はっ、俺は何を?いや、これは純粋にシズの髪を切ろうとしているだけで何も他意はない。そうだ、これはただ髪を切ろうとだな……」


 何事かをゴニョゴニョ言っているヴェインさんの様子が気になって、恐る恐る目を開けた私は、何故か真っ赤な顔で私のことをじっと見つめているヴェインさんと目があって、何度も瞬きを繰り返す羽目になった。

 パチパチと、瞬きを繰り返していると、ヴェインさんが急に取り乱してように言い訳をしていた。

 

「あっ!これは、あれだ!!その、どのくらい切ろうかと……。別に、シズの可愛さに見とれて疚しいことを考えていたわけではないぞ!!俺は、前髪の長さについて真剣に考えていたんだ!!」


 ヴェインさんが、私の前髪の長さについてここまで真剣に考えてくれたことが嬉しくって、私は無意識だったけど、表情が緩んでしまっていた。

 口元が自然と弧を描いていたことに遅れて気がついた私は、慌てて表情を繕おうとしたけど、出来なかった。

 だって、私の緩んだ顔を見たはずのヴェインさんは、一瞬驚いた顔をしたけど、その後にとっても優しい顔で私に笑いかけてくれたんだもん。

 その優しい微笑みに、私は見入ってしまっていた。

 ヴェインさんは、その優しい微笑みのまま私の頬をひと無でした後に言った。

 

「悪い。それじゃ、今度こそ前髪を切るから目を瞑ってくれ」


 私は、ヴェインさんの微笑みに見とれていたことが気まずくて慌てて目をぎゅっと瞑っていた。

 ヴェインさんの楽しそうな笑い声が聞こえたけど、私は硬く瞑った目を開けることはなく、じっと前髪を切るハサミのチョキチョキという音を聞いていた。

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