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告白 29

「そして、宮治さんは倒れた。計算通り、宮治は手術になり、その間に司さんは風香を連れて病院に来た。これで風香も宮治の命が危ない事を知る事になる。あとは、司の指示で風香が遺言状を差し出し、宮治が死に、司と風香を消すことができればいい。そして、二人を消す方法も重清にはあった」


 伊太郎はそういうと、重清に背を向けたまま手を差し出した。

 声のトーンを僅かに変え、まるで誤字を指摘するような軽さで言葉を放り投げる。

 

「重清さん。あなたが風香から奪ったディスク。それは遺言状じゃないですよ」


「え?」


 重清はむくり、顔を上げた。


「昨日、あの場にいなかったから知らないでしょうが、それは風香が宮治さんにプレゼントした、司さんのバイオリン演奏を録音したCDです」


「え?ええ!?」


 重清は慌ててそのジャンパーのポケットからそれを取り出して見つめた。

 やっぱり、重清はこのディスクを遺言状と間違え、風香を襲ったのだ。

 伊太郎は自分の推理が合っていた事を確信し、今度はちゃんと向き直ると重清の手からそれを奪い取る。


「風香に二回目の電話をしたのも、重清さんですよね」


「あ」


「おそらく、重清さんは、司さんが風香に電話をかけるのを待ってたんだ。司さんには帰ったと言ったのか、一緒にいたのかはわからない。けど、風香への電話を確認できるようにこの病院にいた。ここで、長年の吃音の演技も生きてくる。電話だけじゃ、簡単には誰かは分からない。肝心なのは、相手に電話主が誰かを信じさせること。重清は司さんが電話した直後に電話し、風香にこう言ったんだ『宮治さんの病状はおもわしくないから、彼の大切なものを持ってきてくれ』と。それから重清さんは宮治さんに家に行って、風香がこのCDを探し出すのを見た。だからそれがてっきり遺言だと思い、襲った」


「待って!じゃ。重清は、CDを遺言と間違えたわけ?」


 風香が声を上げる。伊太郎は頷いた。


「これまで探しても見つからなかった。それに宮治さんは半身麻痺で痴呆も進み始めている。文字を書くのは無理なのではないか。なら、紙じゃなく別の形で残しているのかもしれないとでも思ったんだろう。重清さんは知らなかったんだな。遺言はパソコンや音声で残したものは無効なんだって事」


「そうなのか?」


「この馬鹿」


 柳が小さな声で舌打ちする。


「とにもかくにも、重清さんは、遺言状を手に入れたと思った。最後の仕上げは、司に全ての罪を被せる事。そして相続人の可能性が考えられる風香の始末だ」


 テレビで聴くような物々しい単語は、意外に口にするのは気恥ずかしかったが、伊太郎は揺さぶりの効果を狙い、続けた。


「秘密を知る司は邪魔だった。普段から宮治に親しく、宮治が『娘』といってはばからなかった風香の存在も、同じくね。だから、一石二鳥を狙った。風香を殺し、司を宮治の家に寄こして風香殺しの犯人に仕立てるつもりだったんだ。図らずも僕が目撃者になってしまったんだけど、司さんがつく頃を見計らって通報でもしたのかもね?今頃、警察が空っぽになった宮治さんの家にいるかもしれない。警察に通話記録があるはずだから、調べればすぐわかるよ」


 伊太郎はそういうと、風香にCDを投げた。

 放物線を描き、それは風香の手元に届けられる。

 

「僕も、風香がもし意識を取り戻さなかったら、司さんを犯人と思いこむ所だった。重清さんの思惑通りにね」


 ずっと、司を怪しいと睨んできた自分が情けなかった。

 司はきっと、伊太郎が考えていたよりもっと、複雑、だ。

 そんな反省に萎えかけた伊太郎の気持ちを、だみ声が蹴り飛ばした。 


「そう。立派な推理ね。証言も証拠もある。重清さん。あなた、最低ね」


 柳が重清を突き放すように吐き捨てる。


「そんな。俺は、アンタの為に!」


「お黙り! 司さんの次は、私を犯人に仕立て上げるつもり!?」


 柳は伸ばされた重清の手を汚らわしそうに払うと、いつもの押し付けがましい笑顔で伊太郎の方を向き直った。


「話はわかりましたわ。この重清が全て悪いんですね。私が警察に突き出しますわ。貴方方は宮治さんに……」


「待ってよ」


 そのまま重清と去ろうとする、その丸太を伊太郎を思いっきり掴んだ。痛みに柳が声を上げる。


「な、何するのよ!」


「首謀者のあんたが逃げるつもり? 罪を被せるのが最低なら、あんたは最低最悪だ」


 そういうと、伊太郎はそのまま乱暴に、宮治の前い彼女を突き出すように引っり手を放した。

 柳は勢いに二三歩進み、司と風香の間を割り込むように宮治のベッドの前で立ち止まる。


「僕がね、もう一人いる可能性があると思ったのは、このままじゃ一人足りないからなんだ」


「え?」


 柳が振り返る。頬の肉が揺れ、いつの間にかかいた汗で髪がそこに貼りついていた。


「早朝の司さんの電話の相手、そして死ななかった宮治の監視役さ」


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