告白 27
病室に駆け込むと、看護師が宮治のベッドの傍で処置を終えた所なのか顔を上げた。
少々吊り目の看護師は、その目をすっと細め同情を寄こすような視線を投げた。
「宮じぃは!」
「心拍が……落ちてきています。延命措置はされないと伺ってますので、このままモニターで……」
見ると確かにモニターの心拍を示すグラフの山と山の間隔が伸びている。電子音の間延びした音が、宮治の命が途切れ行くのを教えていた。
風香は飛び込むように宮治にの傍まで身を躍らせると、その細くしなびた手を握り、その額をすりつけた。
「やだ。やだ。嘘でしょ。宮じぃ。まだ逝かないでよ。やだよ」
風香の声が病室に痛々しく響く。
伊太郎は身じろぎ一つ出来ないでその光景を見つめた。
自分にはどうしようもできない。宮治を助ける術何か一つもわからない。でも、でも、宮治はまだ生きている。
モニター音が早くしろと急かしていた。
「司さん! いいんですか! こんなの。こんなの」
「伊太郎君は……本当に、頭がいいんですね」
司は血の気のない顔にあやふやな笑みを浮かべた。幽幻ともいえるうすら寒いほどの美しさに、伊太郎は言葉を噤んだ。
司はそっと風香の隣に立つと、宮治を見下ろす。
「伊太郎君は、どこまでわかったんですか? 宮治さんが倒れた原因を作った人間ですか? それとも、僕が宮治さんを風香ちゃんを利用して、ずっと監視してた理由ですか?」
「え?り、よう?」
風香の顔が挙げられる。伊太郎にはその言葉を彼が敢えて選んだのがわかった。
司は、どこまでも悪人を最後まで演じるつもりだ。
それほどまでに首謀者を庇って……。
「ええ、そうだよ。風香ちゃん。僕はね、この爺さんの所有する施設の権利権を奪うつもりだったんだ」
口調はあくまでも柔らかく、そして冷たい。でも、伊太郎にはそれが痛々しく見えた。
「それには協力が必要だった。その協力者が君と、重清だ。宮治は天涯孤独の身だ。このままなら重清に遺産は相続されることになる。でもね、一番怖いものがあった」
「怖いもの?」
「遺言状さ」
司はそういうと宮治の顔を覗きこんだ。顔を覆う神の髪の合間から覗くのは、感情を消し去った顔。
伊太郎はそれが見覚えのあるものに様な気がした。
どこで?
ふと窓の方を見る。窓ガラスに映る自分の姿。
「あ」
そうだ。迎えを待つ、自分の顔のそれと似ている。
もしかして、司が彼らを庇う理由は……。
「司さん! そんな考え間違っている!」
「伊太郎君?」
司が振り返った。
司は、きっと自分と同じ孤独を知っている人間なんだ。だから、利用された。司は始めから自分の為じゃない、利用され、その罪を全て引っ被るつもりで、黙ってたんだ。
「どうして、もっと直接宮治さんと話さなかったの? 話せば違ったかも知れないのに」
「なにも、違いませんよ」
司は頑なな態度を崩そうとせず、顔を上げると、ふとその動きを止めた。
「あ〜!」
風香も声を上げ、眉を吊り上げる。
伊太郎は二人の視線の射す方に振り返った。そこに誰がいるのかは見当がついていた。
伊太郎は腕を組むと、精一杯、怒りを込めてその二人を振り返った。
「遅い、到着ですね。重清さん。そして……」
この計画の首謀者。
「柳さん」
可哀想がりの豚ババァだ。