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告白 26

「え?」


 重清!?

 伊太郎は思わず司と顔を見合わせた。司も意外だったらしく驚いた顔をしている。

 風香は「もう」とこんな状況にのんきな声を漏らし


「ほら、司さんの二回目の電話で私、宮じぃの大切なものを持ってきてって言われたでしょ?だから、ここに取りに来たの」


「私は、一度しか電話してませんよ」


「え?嘘!?」


 風香は目を丸めると、携帯を取り出した。携帯はやはり電源が切られていた。

 すぐに起動する音が聞こえ、風香は着歴を確認する。


「あ、だって。ほら、朝に公衆電話から二回。一度目は一般病棟に移されたって。で、その後すぐに二回目があって……」


 おかしい。伊太郎は顔をしかめると風香の手元の携帯を見た。


「な、二回目って本当に司さんだったのか?重清さんってことは」


「ないよ。だって、うん、ちょっと聞こえにくかったけど、どもってなかったもん」


 宮治の容態を知る男でどもりのないのは伊太郎を覗いて、確かに司だけだ。伊太郎はもう一度司の方を見た。しかし、司は知らないと首を振る。


「でもさ、重清、変なのよ。私がこの部屋で『見つけたぁ』て言った途端、すっごく怖い顔してさ『よこせ』なんて言って。で、気がついたら伊太郎の顔があったわけ。でも、なんであんなもの欲しがったんだろ」


 風香はどうやら意識を失った原因となる襲撃はよく覚えていないらしい。首をひねり天井を見上げている。


「あんなもの?遺言状の事かい?」


 司の声。

 そう、それだ。伊太郎は緊張の面持ちで風香を見つめた。

 やはり、風香は遺言状のありかを知っていて、それを取りに来たのを重清に持ち逃げられたのか。

 しかし、風香は「ゆいごんじょう?」とまるで初めて聞いた言葉であるかのようにそれを反復し首を傾げた。

 そして、一度開けたCDプレーヤーの蓋を閉めながら


「違いますよ。ディスク。昨日、宮じぃに持ってきた、CDですよ」


 と答えたのだった。

 どういう事だ?

 再び混乱し始める状況を整理するように、伊太郎は思考を巡らせる。

 状況の構成因子を集め、分析、全体像の再構成。再びその構造が崩れ始めたら新しい要素を付け足し再び分析、再構成。

 その繰り返しを続ければ、必ず見えてくるはずなんだ。

 靄の向こうが。

 ここで新たに加わった因子は、重清が、風香を襲ってCDを奪って逃げたという事だ。

 何のために?

 まだ司が演技して無いとは言い切れないが、どちらかというとこの状況は……。


「あ」


 伊太郎は声を思わずあげた。

 そうだ、初めから何かおかしかったんだ。

 掴めそうで掴めなかった事実。

 でも、やっと、やっと見えた。

 伊太郎は顔を上げると、司を正面から見据えた。誤魔化されないように、逃げられないように。

 この答えで自分の推測はほぼ確信に近くなる。

 まだ動機だけは見えないが、全体像の構築に置いて、最後のピースが埋められる。


 ボランティアへの協力

 宮治の容態悪化

 重清の嘘

 2回目の電話

 風香を襲った犯人

 持ち去られたCD


 すべてが繋がっていく事になるのだ。そしてその先にいるのは、この計画を練り、彼らを捜査した首謀者。

 伊太郎は興奮を抑えると、ゆっくりとその口を開いた。


「司さん。司さんはここに、何しに来たんですか?」


 伊太郎は最後になるだろう彼への質問を口にした。

 司は一度口を開け、すぐに閉じる。そして伊太郎から視線を反らすと眉を寄せた。


「それは……」


 司は言葉を濁す。なぜ、庇う? 何故、司は。


「このままだと、全部、司さんのせいにされますよ!」


「……」


「なに?どういう事?」


 風香が声を上げる。伊太郎は司ににじり寄るとさらに言葉を繋いだ。


「司さん。利用されたのはアナタの方です。アナタは嵌められたんですよ!」


 力なく司の首がもたげられた。しかし、その瞳には驚きも憎しみもなく、ただただ悲哀が揺れているだけだ。


「わかって、ましたよ」


「え?」


 伊太郎は司の目に嘘がないのに戸惑った。靄の向こうがまた、遠のいて行こうとする。

 司は、重清は、一体……。


「伊太郎君! いる?!」


 玄関が乱暴に開け放たれる音がした。三人とも身を強張らせ、玄関の方を振り返る。

 廊下を慌ただしく駆け抜ける足音がし、晴美が飛び込んできた。


「あ、あの?」


 晴美は三人がそこにいるのをすぐに確認すると「ちょうど良かったわ」と呟き、一呼吸置いて、それを告げた。


「宮治さん、今、危篤状態に……急いで病院に行きましょ!」


 三人の息が飲まれる音だけが、室内に響いた。

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