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告白 25

「え?」


「だから、僕は何にも言えなかった。風香に知られる前に、アンタより先に遺言状を探し出して何とかしようと思ってた。でも、甘かったんだ。今朝、僕はアンタの電話を聞いていた。アンタがそれに気が付いているのなら、僕が動くより先に行動してもおかしくないんだ。僕は、それに気がつけなかった。僕が……」


 ごめん。風香。

 僕が話していれば。

 僕が動いていれば。

 僕にもっと行動力があれば。


 伊太郎は歯を食いしばり風香を抱きしめた。

 もう、あの笑顔が見られない、そう思うと深みのしれない沼に突き落とされたような気になる。

 これが絶望か……。

 その声が聞えた時は、伊太郎の瞑られた目から涙がこぼれ落ちかけた、その時だった。


「い……たろ」


「!!」


 伊太郎は耳を疑い、そっと目を開けた。

 そして目に映ったのは……。


「風香」


 風香が薄らと目を開けて微かにその口の端を上げていた。

 信じられない。

本当に!?

 伊太郎は息を飲みながら風香を見守る。


「風香ちゃん!?」


 司も驚き、身を起して二人の方を凝視した。

 風香は二人に見つめられる中、顔をしかめながら上半身を起こすと、不思議そうに周囲を見回した。

 伊太郎はその、白い肌に徐々に生気が戻っていくのを奇跡でも見るような気持ちで見守る。いや、実際奇跡なのかもしれない。風香が死んだのを確認したわけじゃないが、でも、これは。


「風香ちゃん?」


 司が声をかけた。風香はその声に我に返る。

 奴に襲われたせいで意識を失っていたのだ。当然、拒否の態度をとると伊太郎は思っていた。が、


「きゃっ!やだ!」


 風香が拒否したのは伊太郎の方だった。

 風香はすぐ傍にいた伊太郎の胸を思い切り突き飛ばすと、倒れた伊太郎に一瞥もせずにいつものように、恥じらいの表情で司を見つめた。


「いやだ。勘違いしないでくださいね。私、気を失ってたんですか? でも、伊太郎君と私はそんな中じゃ。ね!? 伊太郎君」


 こんな時も伊太郎『君』かよ。ってか、自転車すっ飛ばして助けに来た自分にこの仕打ちはねぇんじゃねぇの?

 伊太郎は顔をしかめながら体を起こすと、さっき流した涙を返せ、と心の中で愚痴りながら風香の方を見つめた。

 それにしても、何だ? 風香のこの態度は。本当に司じゃないのか?


「風香。それより」


「それよりとは何よ! ハッキリ否定してよ。ここは」


「それより、ですよ」


 口を挟んだのは司だった。

 司は風香の傍まで来ると、その手を取り、間近で風香の顔を見つめる。風香の顔はさっきの白から今度はゆでダコの様な真っ赤に変色していく。

 お前はマンガか。伊太郎は呆れながら彼女をねめつけた。


「風香ちゃん。ここで何があったんです?」


「え? あ、そうだ!」


 風香は一瞬目を瞬かせてから、急に大きな声を上げた。そして立ち上がると、今度は怒りの形相に変わり周囲をぐるりと見回す。


「もう、ビックリしたんだから!ねぇ、どこに行ったの!?アイツ。それに……あ!」


 風香は自分の手の中に何もない事に気が付いたのか、手を見つめると、今度は大股で持ち運べるような大きさのCDコンポに近づき、声を上げた。


「酷い! やっぱり持ってかれてる!」


「なんだ。強盗にでもはち合わせたのか?」


 伊太郎が訊いた。しかし、風香は唇を尖らせ首を横に振る。


「違うよ」


 風香はまだその失った何かを諦めきれないらしく、キョロキョロと周りを見回しながら答えた。


「重清だよ」

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