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告白 20

 瞬時に体が冷え、伊太郎は凍りついたようにドアを凝視する。

 司が戻って来たのだ。

 どうしよう。どんな顔をすればいい?どう、装えば……。

 伊太郎の心が定まらないうちにドアはその隙間を広げていく。そしてあの、いつも通りの優しい声がこう言った。


「おはようございます。伊太郎君」 


 司は自分が起きているのを知っている。ってことは、気づいてたって事か!?

 伊太郎の身がすくみ、体が凍りついた。

 入って来た司は、缶コーヒーを手に部屋にその身を滑り込ませた。


「朝は冷えますよね。どうですか?コーヒーでも」


 缶コーヒーを差し出すその様子は、自分の知っている司と微塵も変わりはない。

 でも、伊太郎は、彼が普段と変わりがないほどに不気味さを感じ、差し出されたコーヒーを受け取る事も、声を出す事すらもできず、ただただ彼を見つめ立ち尽くした。


「どうしました?僕に何か?」


 司が首を傾げる。白々しいまでの柔らかな笑みに、伊太郎が後ずさりしかけた時だった


「宮司さんのご家族の方!」


 少々せわしない声が飛び込んできた。看護師だ。

 二人は同時に振り返る。手術着だろうか、緑色の大きなかっぽう着にシャワーキャップをかぶったいで立ちの女性がそこには立っていた。

 女性は二人を交互に見つめると、少し誇らしげにこう告げたのだった。


「手術、終わりましたよ。成功です」


 すぐに風香と重清を起こし、4人は医師の説明を聞きに部屋を出た。宮治はICUで意識の回復を待ってから、しばらく様態を見て、安定しているようなら一般病棟に移されるのだと、その看護師は道すがら教えてくれた。

 まだ若い看護師だろうか、4人のうち、だれよりも司を意識しているのは視線でわかる。

 罪というのはこう言う事もはいるのかな。

 伊太郎は緊張から一時的にも解放されたからか、そんな事を考えた。

 ムンテラ室という、簡単に言えば医師が患者や家族に病状や治療の状況、方針を説明する部屋に通された。

 全員で入ろうとすると、看護師は少し困った顔で「ご家族の方意外はご遠慮いただきたいのですが」と制したが、ここで誤魔化されても気持ちが悪い。伊太郎は誰かが口を開く前に「僕たちはみんな親族の様なものです」と答えてしまった。

 部屋の中には大きな机と6脚の椅子。レントゲンなどを見る為の光を放つ事の出来る真っ白なボードがあった。

 中にいたのは中年の男性医師で、黒ぶち眼鏡と茄子の様な形の鼻が、パーティーグッズを連想させる顔だった。

 医師はこの4人の顔触れに一瞬驚き、戸惑ったが、今度は司が事情を説明するのに口を開いた。


「ご存知だと思いますが、宮治さんにはご家族がいらっしゃいません。ここにいる松重清さんが同居人ですが、私達も家族の様なものでして……同席させてはもらえないでしょうか?」


 医師は司とは20cm以上の身長差があると思われた。並んでいないのでわからないが、風香と同じかそれより小さく見える。まさに白衣に着られているといった感じで、まるで威厳はないがプライドだけは高そうだった。


「看護師が通したんですよね。どうせ、貴方が頼んだんでしょう。まぁ、松さんが宮治さんの代理として、貴方方の同席を了承するのなら、私は構いませんが?」


 棘と角のある口調に、司は眉を下げ、重清の方を見た。重清は黙って首を縦に振る。


「では、どうぞ。おかけ下さい」


 医師はため息交じりに、疲労感たっぷり、厭味てんこ盛りに席を進めて来た。

 さっきの看護師とはまるで正反対の視線を司に向けている。

 この小柄な医師は美形を敵視する性格なのかもしれない。

 これもまた、司の罪なのかな?

 伊太郎は肩をすくめると、風香の隣の椅子を引いた。

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