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7 なるほど違いますねこれは



「えーと、ステータス……ですか? なんです? それ」


 エリーレア曰く、なんでもこの世界においてステータス表示なんてものは存在しないとのことで、自他にかかわらずそのようなものを確認することは不可能であるという。


 彼女の体力ガン振りステータスについて話を振ったら、なに言ってんの? という感じの答えが返ってきた。


「ああ、ただし、レベルというものはわかりますよ! ものスッゴく集中すると見えるあの数字のことですよね? こう見えて私はなんとレベル76もあるらしーんです! えっへん! その割にまったく強くないと街でも評判ですが……」


 彼女は大きく胸を張った後にしょんぼりとしてみせる。

 喜怒哀楽が激しくて見ていてとても楽しい。


 どうやらレベルだけは皆が見えるものであるらしい。

 そしてエリーレアの76はやはりいくらか高い方であるようだ。


「まあしかし、そうは言ってもユウさんには足下にも及んでいないのでしょうね! 私なんかが威張ってしまって恐縮です。こんな危険な”腐れ村”のど真ん中で生き残って人助けまでしていて、しかも先ほどのあの見事な身の捌き! ただ者ではない! それはそれはもう、たいへんな高レ――」


 彼女はそう述べながら嬉しそうにぼくの方に目をこらした。


「あ……」


 そして止まる。


「あー……その、ほら、大丈夫です……、そうです、男性の価値はレベルなんかじゃ決まりませんから。は、ハートですよハート!」


 なにかもの凄く気を遣われてしまった。


「てゆーか”1”って!」


 そして今度は唐突に突っ込みを入れてくる。

 忙しい子だ。


「ユウさんいったいどうやってここまで来れたんですか! ていうか助けてくれてホントにありがとう! レベル1で助けようとしてくれるなんて、ユウさんやっぱりとってもいい人です!」


 ここでは”すごい人”ではなくて、”いい人”であるというのがミソだな。


「あ、いえ――ある意味では、そうですね……、すごい人でもあるとは思います! レベル1で果敢に死地に飛び込むだなんて、並大抵の神経でできることではありません!」


「もしかして馬鹿にしてる?」


「し、してないですよ!」


 気を遣いすぎると嫌みになってしまうんだな。気を付けよう。


「エリーレアさんこそ、どうして――」


「エリーでいいですよ?」


「……エリーこそ、どうしてこの村に?」


「実は……その、」


 エリーは訳を話し出す。

 それは以下のようなことだった。



 なんでも彼女は”学術都市 リバースタンド”という街の”大聖堂 ムーンブラッド”に所属する”聖女”という存在であるとのことだ。

 聖女は大聖堂の枢密を継ぐ存在であり、故に時としてその身を狙われることがある。

 事実、先日とある集団に拉致されてしまったらしいのだが、そこを大聖堂三騎士(カテドラルナイツ)と呼ばれる精鋭の騎士の一人に救出された。

 しかしその帰路の途中――この村にて馬を失い、骸骨の襲撃に遭い、騎士とはぐれてしまった。

 そして例の永遠に腸をほじくり返され続ける地獄の拷問を受ける羽目になった――


 と、そういうことであるらしい。



「つまりこの村のどこかに、はぐれたその”カテドラルナイツ”がいるってことか」


「はい――」


 エリーはぼくの問いに神妙に頷くと、やがておずおずと訊ねる。


「あの……、ユウさん。危ないところを助けてもらったばかりで、しかもレベル1の人にこんなことを頼むのは大変気が引けるのですが、もしよければその騎士を探すの……手伝ってはもらえないでしょうか? ここは相当な難所であり、さしものあの人でも一人では厳しいと思うのです」


「ちなみにその学術都市というのはどれくらいの規模の街なんだ?」


「え? あーそうですねー、ここらの地域では最大規模といっていい主要都市の一つです」


 お、いーねー。


「じゃあ助けたら、その街まで一緒に連れてってもらえたりも……?」


「お望みとあれば勿論! あの、それに当然、他にも最大限のお礼も用意させていただきます! 聖堂の方からもたっぷり出るでしょうし、それに、その……もし私個人にも出来ることがあれば……な、なんでもさせていただきます!」


 この子いま何でもって言っちゃった?


 ぼくはゴクリと唾を飲み込み、その布きれなんぞでは隠しきれていない瑞々しい体を上から下まで目でなぞった――。

 が、それは血まみれで腸とかもはみ出てるとてもグロテスクなものだった。

 う、うーんやっぱり素直に金銭でいいかな……。


 でも念願の大きな街に行けて、貴重品までゲットできるチャンスってのは願っても無いことだ。


「よし分かった手伝おう」


「あ――ありがとうございます!」


「うむ、苦しゅうないぞ」


 でもレベル1なんだけどな!

 むしろぼくの方が助かってるまである!


「しかし出発する前にエリー、きみに一つぼくから与えておきたいものがある」


「……与えておきたいもの? なんです?」


 首を傾げるエリーに、ぼくはインベントリから白いワンピースを取り出して手渡す。

 彼女はそれに目を見開いて驚きを表明した。


「え――っ!? それをいまどこから取り出したんですか!? たった今まで手ぶらでしたよね?」


 そのリアクションからして、やはり他の人にはインベントリというものは存在していないらしい。


「まあぼくの魔法です」


「なるほど……! でもそんな魔法聞いたことがありませんよ? ユウさん……やはりただ者ではありませんね! レベルは1ですけど」


 褒めるならちゃんと最後まで褒め通して欲しい。

 まあいいけど。


 ていうか、やはりこの世界には魔法があるのか。

 ステータスからなんとなく予想はしていたが。



 あとステータスには奇跡、時空、深淵と他にも三つくらい魔法っぽいのがあった。

 それについて聞いてみると、いわゆる攻撃魔法全般をこの世界では”魔法”と称しており、先ほどエリーが使っていたような回復魔法は”奇跡”に分類され、”時空”は防御やバフデバフを操るのだという。

 しかし”深淵”については、寡聞にして聞いたことがないとのことだ。


 ……ふうむ。



「それでユウさん、この服を、私にくださるのですか?」


「うん、あげる。その恰好でいつまでもいられると……さ、」


「あ――! もしかすると私の裸体に欲情し、これからの戦闘に支障をきたしてしまいますと?」


「ていうか、えー……と、………………うん、まあそうだな」


 本当は単にきみのいまの身体の惨状があまりにもグロテスクすぎて見ているのが辛いからなんだけど。

 でもそれを正直に伝えるのと、言うとおりエロいからと頷くのとで、いったいどちらが女子的に傷心が浅く済むのか秤にかけて検討した結果、ぼくは後者を選んだ。


「まったくもう、ユウさんも男の方ですから……しかたがありませんね」


 エリーは恥ずかしげにまた身体の要所を手で隠すようにしたが、しかしどこか満足げではあった。


(正解だったか……)


 彼女のプライドは守られた。


「でもいりません。これはお返しします」


 しかしなぜかその後でワンピースを突き返された。


「なぜ?」


「綺麗なお洋服を汚しては申し訳ありませんし、それに……、私は服を着てもあまり意味を成さないので」


 よく言っている意味がわからなかったが、



 その後の戦闘ですぐに察した。


「ユウさん、あぶなーい! ッぎゃあああああああああああああ――! ば、ばやぐうう、ユウざんはやぐごいづをををををおおおお!」


「お、おう。え、えーい」


「あっ、ユウさん、そっちからも敵が! あ、あっぶなぁーーーーーっいぎゃああああああああああああユウざあああんッ! ぎゃああああああああ!」


「う、うわああ」


「ゆうざんだいじょうぶですか!? なにを怯えているんですか!? だいじょうぶ、こわがらないで! わたしが、わだじが守りまうぎゃああああ! は、はやく、ばやぐ今のうちにこいづをおおこいつをおお!」


 そう――。

 歩く肉盾こと、この脱腸半裸スプラッター聖女は、敵を見つけると「私があなたを守る!」とイケメンなことを言って一目散に敵の前に飛び出していくのだ。


 それで敵の攻撃を一身に受ける。

 盾や魔法で防ぐとか、華麗に避けるとか、そういうのでは一切無く、普通に当り前のように身体で受ける。


 おかげでぼくはその隙に敵を簡単に仕留められはするのだが、


 そうだね、


 まずは囮になってくれてありがとう。


 でもあまりにグロいよ。

 グロすぎるよ。

 むしろきみのが怖いくらいだよ。


 そしてそう、

 血みどろで全身から出血し、身にまとうぼろ切れが更なる縮小を遂げているのを確認して、たしかに彼女に服は勿体ないなと納得をした。

読んでくださりありがとう。


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