6 ほ、本当にヒロインなんですか?
「大丈夫ですか?」
ぼくはすぐに血みどろの少女に駆け寄る。
「はい、ありがとう……ございます……ぅうぅ」
彼女は感激と感謝のあまり、むせび泣くようにして頷く。
よかった――
素直にそう思ったが、しかしぼくはすぐに気持ちを切り替える。
彼女に突き立てられたままの剣を抜き、腕を縛っているロープを切る。
「まだ一体います」
家を周回する剣盾の個体。
あれがもう間もなく戻ってくる。
「はい……、もう少し、頑張らないと……ですね……!」
そう伝えると、彼女も小さく頷き、傷口からはみ出していた腸を中にしまいつつ何ごともなく立ち上がる。
(え、動けるの?)
なぜその大怪我の状態で普通に立てるのか不思議で仕方ない。
――が、とりあえず今は目の前に迫っている敵に集中する。
もう間もなく、あの角を曲がり、骸骨がやってくる。
「きた」
ぎくしゃくと歩いている骸骨はこちらに気がついていない。
室内ならとっくにバレていてもおかしくはないが、どうも屋外だと多少は音が伝わりづらくなるらしい。
(ならばこのままやり過ごし、背中を向けた瞬間に詰め寄り斬りかかるか)
そう思った矢先、
「えーいっ――!」
信じられないことに、ぼろ切れを身にまとった血だらけの女の子が骸骨に向かって跳びかかっていった。
言わずもがな、それはたった今助けたあの少女だ。
(おおおおいいいいいなんで飛び出してんのおおお!?)
わけがわからなかった。
でもきっとこの状況でわけもなくそんなアホなことをするはずもない。
そうだ、きっと彼女はメチャクチャ強いに違いない。
だから真正面から向かって行っても余裕で倒せる自信があるのだ。
きっとそうだ。そうじゃないとこの行動に説明が――
――グザリ。
「……は?」
しかし驚くことに、彼女は骸骨の剣をまともに頭蓋に受けた。
「きゃーーーーーーーー!」
めっちゃ突き刺さっていた。
それで頭から鯨の潮みたいに血を噴き出させて、アホみたいな悲鳴をあげていた。
(どゆことおおお――――っ!?)
もう本当にぜんぜん理解不能だったが、しかし幸か不幸か剣は彼女の頭で塞がっていた。
「うおおおおおおおお!」
信じられないがチャンスである。
ぼくは骸骨を仕留めた。
崩れ落ちる骸骨。
盾を拾ってイベントリに収める。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫……ですぅ……うぅぅ」
(び、ビックリするくらいそうは見えないんだが)
剣を頭にぶっ刺したまま大丈夫とか言われても……。
ぼくは彼女の頭から剣を抜く。
血が脳天よりピューと吹き出た。
「い、痛いですう」
そりゃあな!
刀身は彼女の頭蓋でへしゃげてしまっている。
使い物にはならなそうなのでその辺に捨てる。
「ところであなたなぜ死なないんです……?」
聞いてみた。
「なぜなんでしょう……、でも昔から私ってなぜか丈夫で、お母さんからもあんたはまるで大きな豚のようだって言われて育って」
「豚?」
ぼくは彼女のとても立派な胸部を見た。
布きれでかろうじて隠れているものの、それはとても見応えのある代物だった。
「あ、知りませんか? ヘイミットの方面に生息するあの巨大モンスターのことです。大きくて、とても丈夫な、豚の見た目をしたアイツです。お母さんは私をまるであの豚みたいだねってずっと言ってて。ふふふ」
彼女はなぜかそのエピソードをとても誇らしげに説明した。
頭から血を噴き上げながら。
身体からも血が溢れ、内臓が僅かに飛び出している。
顔だけ見れば天使みたいな素敵な笑顔を浮かべているというのに、ちょっと視線を移すとスプラッター映画顔負けのグロ製造器だ。
「い、痛くないんですか……?」
「とても痛いです……ぐすん」
し、信憑性が……。
涙ぐんでるけど、普通に動いてるし笑ってるしで。
最早同じ人間だとは思えない。
「もしかしてあなた、実はゾンビか何かだったりしますか?」
「えー!? ちゃんと人間です! もうっ失礼ですよ! これでも私、女の子なんですから」
けっこう本気で怒られた。
さっきは喜喜として豚と呼ばれていたという話をしていたのに。
「あの、私、名前を”エリーレア”といいます。助けてくださって本当にありがとうございました」
彼女――エリーレアが、そう言って丁寧にお辞儀をした直後、視界に次の表示がされる。
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名前:クーゼ・エリーレア
レベル:76
◎スキル
・癒しの陽炎
◎特性
・自動治癒Lv.1
・物理耐性Lv.5
・魔法耐性Lv.5
・奇跡耐性Lv.5
・時空耐性Lv.5
◎ステータス
・筋力:1 ・魔法:1
・技量:1 ・奇跡:5
・体力:70 ・時空:1
・敏捷:1 ・深淵:1
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ぼくは目を疑う。
(レベル、な、ななじゅうろく……!?)
高すぎ!
いや、それとも単にぼくが低すぎるのか?
というか、
(ステ振りおかしいだろ!)
”体力”ガン振りすぎ。
おそらくは”体力”はゲームで言うところのHPに直結するステータスで、これが高まると打たれ強さみたいなものが上昇するのだろうか。
彼女のゾンビじみた――というよりは完全なるゾンビ体質は、このピーキーなステ振りによるものだった。
「つまりは肉の盾か」
ぼくの何気なく述べた感想に、彼女はハッとする。
そして今さらながらにあられもない自身の身体を隠し、
「そ、そんなに太ってますか……わ、私ってそんなに幅広ですか……?」
と何かの勘違いをした。
読んでくださり感謝。
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