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4 謝って返せるなら下着ドロなんていねえよ




「――――はあ、またかよ」


 ぼくはまた目覚めていた。

 同じ村、同じ部屋、同じ時間。


 すべてが元通り。


 隣の部屋には素手の骸骨がいる。


 そのさらに隣の部屋にはあの三体もやはりいるのだろう。


 ぼく自身も、負った怪我はもうない。

 ちぎれた胴体もきちんと下半身と繋がっている。

 落とした命も、まだこの手にある。


 でも、だからといって、それが本当に幸運なのかどうかは怪しいところだ。

 だって、


「どうやってここから出ればいいんだよ……」


 逃げ場がない。

 普通とは違い、死んでお終いというわけにはいかない。

 死という究極的な逃げ道がないとするならば、へたするとこの地獄は永遠に続くことになってしまう。


 死ねる。

 普通にぼくのメンタルの方が。

 殺されても記憶と意識が保持されているのが本当にヤバい。

 トラウマを抱えながら、もう一度はじめから挑戦しなければならない絶望。

 発狂しそうになる。

 ていうか発狂しそう。


「くそ……」


 生き地獄とは、よくいったものだ。








「あーまーじどーしよっかなー」


 窓の外で刻一刻と沈んでいく太陽を眺めながら、ぼくは何度目かになるそれをボソリと呟いた。


 なかなかに手詰まりだった。

 というのも今はもう、七度目の目覚めの世界であるからだ。

 つまりあれから更に五回死んだ。


 そしてその五回とも、すべてあの三人衆への挑戦に費やしていた。


 初見時、見事に惨殺されはしたものの、奴らが遺骨の動きはどこかシンプルなものに感じられたので、もう一度挑めば、案外簡単にパターンを掌握し、その守りを突破できるのでは――と、そう考えたのだ。


 実際、二度目の挑戦にして既に、ぼくはかなり奴らの攻撃を見切れるようになれていた。


 どんな攻撃をしてくるのか知らない初見時とは異なり、二回目は”意外と速い振りの攻撃がくる”と分かっている。

 加えて今度はこちらには積極的な攻撃の意思はない。

 完全なる”見”の姿勢。

 故に初撃で瀕死になどなることもなく、敵の観察にいそしむことが出来る。


 前の世界における空手や格闘技、武道にも、いくつかの”型”というものが存在していた。

 この世界における敵の攻撃もそれと同様である。

 まずいくつかの(パターン)があり、状況――主に、こちらの体勢であったり距離感であったり――に応じてそれらを使い分けてくる。


 そして奴ら(スケルトン)のパターンはそれほど多くない。



 剣の個体は以下の三つのパターンに準ずる――


 ①縦の大きな振り下ろし

 これは見てから回避余裕。ただし間違っても受けてはならない。パワーで押し切られる。


 ②袈裟斬り

 これも見てから余裕。注意点としては三度ディレイで追加攻撃がくる。全部出し切らせるまで手を出さない徹底した忍耐が肝要。


 ③踏み込みを伴う素速い薙ぎ払い

 初見時に致命傷をもらった攻撃動作がこれ。予備動作が皆無に等しく、わずかなそれを見逃さない集中力が必要。



 以上により、結論から言えば、剣の個体は③の薙ぎ払いにのみ全神経を集中させておけば良いということになる。



 槍の個体に限ってはパターンは大きな予備動作の突きのひとつだけ。

 リーチは長いが、動き自体は単調であり鈍重である。



 更に三体目の斧の個体だけは(やり直して初めて気がついたのだが)実は自身のいる部屋の入り口を決して超えて来ることはしない。

 つまり剣と槍を誘い出せれば、とりあえずは無視して良いということになる。



 これらのパターンを把握するまでに三度の挑戦を必要とした。

 死ぬのが辛すぎるしまた生き返られるかも不明だったしで正直くじけそうだったが、少しずつ良くなる自分の動きをもっと見たくて、やめられなかった。


 次こそは勝てるのでは――次こそは――

 そんな射幸心的ななにかで挑戦し続け、

 ついに四度目の挑戦にしてぼくは、剣と槍の攻撃を完全に見切ることに成功する。


 実に三十五分――

 ぼくが剣と槍の二体を相手に、その攻撃を回避し続けられた時間だ。


 三十六分目でいよいよこちらから攻撃をしかけ、そして返り討ちに遭った。

 攻撃と回避はまるで別の問題であることをその時知った。


 ”攻撃は最大の防御”と言うが、実際は相手にとっての最大のアタックチャンスでもある。

 攻撃しようとすると、どうしたって隙が生まれる。

 特にぼくの使っていた得物(鉄くず)はお世辞にも攻撃力に秀でているとは言いにくいものなので、より大きく振りかぶる必要があり、尚更である。


 駄目元で最後にもう一度挑んだが、同じだった。

 結論は、攻撃力がいる。

 もしくは、能動的に相手に隙をつくれるなにか。


 そうじゃないと今の状態ではあの三人衆は突破できない。


 それが、五度の死を経て導き出した結論。


 なにそれ、悲しみすぎる……。

 でも、一応、他にちゃんと収穫らしい収穫もあった。


「インベントリ」


 呟くと目の前に例のステータスが表示される。


====================

【ステータス】


レベル:1

???:8


 ◎スキル

  なし


 ◎特性

  なし


 ◎ステータス

・筋力:1    ・魔法:1

・技量:1    ・奇跡:1

・体力:1    ・時空:1

・敏捷:1    ・深淵:1


====================


 お気づきだろうか?

 そう、”???”の数字が以前見たときよりも減っている。


 前にあのマンションの部屋で確認した際、その数値は14であったはずだ。

 それから6マイナスされて今は8だ。

 十中八九、死んだことによるマイナスなのだろう。


 ”???”は、一度死ぬごとに、1マイナスされる。


 だから何なのか?

 わかんない。

 だって”???”だからな。わかりようがない。

 でもとりあえずそういう変化も見逃さないよという話。


 次――

 もうひとつの発見。


 インベントリ表示を【ステータス】から【所持品】に変える。

 その項目には、以前はただ”なし”だったが、


====================

【所持品】


 ◎武器

・朽ちた鉄の棒 :2


 ◎防具

・アルテアナのワンピース :1

・生温かいアルテアナの黒ブラジャー :1

・生温かいアルテアナの黒パンツ :1


====================


 なんと今はこんなに持ち物が追加されていた。


 すごい!


 そして増えた品にはすべて心当たりがある。


 武器は過去の突撃で手にしていたあの鉄くずのことであり、防具はあのマンションの脱衣所に脱ぎ捨ててあった衣服だ。


 ということはつまり、死んだら全てリセットされるわけではなく、持ち物だけは(・・・・・・)次の命に持ち越すこと(・・・・・・)が出来る(・・・・)ということ。


 しかもそれだけではない。

 大事なのはこの先。


 なんとこの世界は、死によるリセットの際に、ぼくが所持して持ち越した物も(・・・・・・・)同じ場所に復元させる(・・・・・)

 これはぼくが以前に二周にわたって取得したにもかかわらず、相変わらず今回もあの鉄くずが落ちていることからも分かる。


 つまりこの世界、アイテム増殖が可能。


 その為には死ぬ必要があるので完全にノーリスクとは言えないが、少なからず一個スーパー高価なアイテムを手に入れられればそれに見合う報酬になり得るかもしれない。


 上手くこの地獄を脱出できたらぼくはどこか大きな街に行こう。

 それで今の錬金術を使って大金持ちになってやる。

 ふふふふっふ……。


 ちなみに、街は間違いなくある。

 この村を抜けても永遠に地獄が続いているわけではない。

 そのことは、あのマンションからの景色で判明しているので、断言できる。


(ああ、あと、そういやマンションと言えば……)


 あの時の服――その持ち主の名はアルテアナというのか。

 持ち物に追加することで持ち主も判明する仕様は、これから知っておくと便利かもしれない。

 今回はいつの間にか所持品に追加されていたのでビックリしたけれど。

 わざとではない。

 断じて。

 わざとではない。


 生きていれば、いつかそのアルテアナとかいう人にも会えるのだろうか。

 その時にごめんなさいと言って返そう。





 ということで野望も出来たことなのではやく頑張ってここから出たい。

 でもどうやって……?


 唯一のルートは四体の骸骨でふさがれてしまっている。


(マジ覚えてろよあいつら……。いつか強くなってボコりに来てやるからな)


 呪詛の念を送り、そうしてふと気がつく。


「…………ん?」


 窓から見える外の景色――


 そこでぼくはやっと思い至る。



 あ……、窓から出ちゃえばいいんじゃん。

読んでくださり感謝。本日中にまだ更新します。


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