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異世界ラスボス~助けて勇者~  作者: 飛縁魔
第1章 チュートリアル
7/22

第6話 魔王さま、旅立つ。

本日2話目です。

 朝日が昇る。

 結局昨日はあの後、お互いに目も合わせずに帰った。そう、私はシェリルのあの表情に、何の反応も示すことができなかったのだ。悪いことをしたと思う。だがそれくらいひどいものだったのだ。まるでこの世の地獄をそのまま見てきたような顔。あれを前にしては、だれしも何も言えなくなるだろう。

 横たわったベッドから起き上がり、借りている家を出ると、前にはシェリルが立っていた。


 『おはようございます。』


 『あ、ああ、おはよう。』


 き、気まずい……。だがそうも言ってられない。まずは謝らなければなるまい。彼女には失礼なことをした。


 『シェリル、昨日はすまなかった。』


 『そ、そんな!頭を下げないでください!』


 『いや、そういうわけにはいかない。何も言わなかったのだから、心配しただろう。』


 『心配だなんて、そんなことは……。無理なら、私一人でやりますから……。』


 よほど大切な友達なのだろう。だが年端もいかぬ少女が一人でこの村を出るなど、危険極まりないのではないだろうか?それに、昨日話を聞いた時から心は決めている。


 『無理なわけがあるか。言っただろう。シェリルには大恩がある。それを返さなければならない。その友人、私が助けるさ。』


 元々どんな頼み事も聞くつもりであったのだ。何の問題もない。

 恩人の悲痛な顔などそう長く見ていたいものでもないし、すぐにでも助けに行こう。


 『それで、その友人はどこにいる?』


 『あ、でもその前に。』


 む?ほかに何かあるのか?


 『あなたの名前、決めてきましたから。』


 名前を……。本当か!?まだ一日しかたっていないぞ!?


 『ありがとう!私にとって初めての名前なんだ!』


 『そんなに興奮することじゃないような……。コホンッ!では発表します!』


 『鼓動が早くなるな!』


 『恥ずかしいこと言わないでくださいよぅ……。えー、あなたの名前は。』


 『名前は?』


 自然と生唾を飲む。いかんな、緊張で体ががちがちに固まっている。


 「ダリヤ、です。ダリヤ・トート」


 「ダリヤ……トート。」


 『すみません、これだけはちゃんと声に出して言いたかったので。』


 ダリヤとは、こちらの世界に咲く花の名前である。日本に生えているキク科・テンジクボタン属の花とは似ても似つかない、どこにでも咲く普通の花だ。


 『なぜ、その花の名前を私に?』


 『自生するダリヤの花は、昼間に吸収した光を夜に放出するんです。だから、「旅人の道標」と呼ばれています。私があなたにとって恩人と言ってくれたように、あなたは私にとっての道標なんです。』


 『道標……。私が?シェリルの?』


 『もちろん嫌ならまだ考えます。でも私には、これ以上いいのは思いつきませんでした。』


 シェリルは何をもって私を道標だと思ったのだろうか。私は彼女にまだ何もしてあげることができていない。できたことは村人たちと仲良くし、脅威から村を守ったことだけ。

 それでも彼女が考えてくれた名前だ。私にとって初めての名前だ。それを考えたからだろうか?私の頬をつぅっと涙が流れたのだった。


 『泣くほど嫌でしたか!?』


 『そんなことはない!嬉しいんだ。ありがとう、私はこれから、ダリヤ・トートだ。』


 『気に入ってくれてよかったです!そうですよ!これであなたも、この村の一員です!』


 そう、トートの名を冠されたということはそういうことだ。私は少なくともシェリルには、この村の者であると認められたわけだ。


 『えーっと、食事の用意ができたので呼びに来たんでした。いつものところです。』


 『ああ、ありがとう、シェリル。』


 『私は先に行きますね!』


 そういうとひときわ大きな家屋に入っていったのだった。私も支度をしなくては。目が覚めて、何もしていない。シェリルと会話していただけだ。

 今日の料理は何だろうか。


----------------


 食事はいつも同じ場所で摂る。先程シェリルが入っていった立派な家屋で、村人たちはそれぞれ思い思いに食事を摂っている。食事時には村人のほぼ全員がいるが、それ以外の時間では休憩所として機能している。

 だが今日は少し雰囲気が違っていた。いや、私が入ってきたとたん変わったというべきだろう。

 よくよく考えてみれば、昨日、人間では太刀打ちできないという黒曜共と戦い、村を守ったうえで生きているのだ。警戒されても仕方ないのかもしれない。


 「昨日はありがとうございました。」


 村長に声をかけられた。


 「しかし、黒曜の群れを※※※※※など、あなたは何者なのですか?」


 村長はある程度簡単な言葉でゆっくりと話してくれる。いや、村長に限った話ではないが。

 そんな村人たちに魔王だということはできないだろう。


 「人間でないことはわかります。では、あなたは何なのですか?」


 「……。」


 村長の質問に、無言で返す。何も言えない。自らを「人間ではない」と行動で示したようなものなのだ。それに戦いの跡は消えていない。門の前の大地は隆起したままだし、草木はところどころ焼けている。人間業でないことくらい見ればわかるだろう。むしろ何も持たずにあのようなことができる人間がいるのなら教えてほしいくらいだ。


 「村長!何はともあれこの村を守ってくれたんだから、いいじゃない!」


 「いやしかしだな、シェリル……。」


 村長がシェリルに引き連れられ姿を消した。ありがとう、シェリル。村長は任せる。

 その後、数多くの視線は感じたもののなにも尋ねられることはなく、食事を終え家に戻ったのだった。

 私が何者か、人間におびえられぬように答えろ、とは……。それこそシェリルが前に言っていたように、勇者と名乗ればいいのだろうか?不用意に名乗ってしまえば無駄におびえさせることになるし、何より私が生きていることが奴にばれてしまう。

 やはり早急にこの村を出るべきだろう。

 村人たちと暮らしたこの数週間は楽しかったが、ずっとここにいるわけにもいかないのだ。遅かれ早かれ旅に出るつもりであったし、シェリルのお願いのこともある。

 準備をしてシェリルと話をし次第村を出るとするか。


 『あの、ダリヤ、さん?いますか?』


 『シェリルか。入っていいぞ。』


 考え事をしていると、シェリルの声が聞こえてきた。いつの間にか家の外にいたのだろう。今朝のような立ち話もなんだし、入ってきてもらいたい。


 『じゃあ、失礼しますね。』


 『丁度いい。私もシェリルと話したかったんだ。』


 『ふぇ?何のことですか?』


 『その友人のことについてだ。』


 友人、としか聞いていないため、誰を助ければいいのかわからない。その詳細が知りたかったのだ。


 『あの子のことですか……。わかりました。でも先に私の話を聞いてください!』


 『なんだ?』


 『村のみんなにあなたは悪い人じゃないと言い含めておきました。ですから、もう今朝のようなことはないと思います。』


 『そのことか。私は勇者ではないのだがな……。まあ白い目で見られるよりはいいだろう。』


 『それと、あの子についてですが……。』


 次のシェリルの言葉は、耳を疑うような内容だった。


 『あの子を助けに行く時は、私もついて行きますから。』


 『は?』


 今何と言った?ついてくる、だと?それはだめだ。彼女にはまだ言っていないが、私といると魔王同士の戦いに巻き込まれてしまう。そうでなくともあのような顔をして頼んできたのだ、それが安全なわけがない。そんなことに彼女を連れていくことなどできやしない。


 『だが……。』


 『この通り、お願いします!』


 『頭を下げるな!……しかし。』


 『危険なのは百も承知です!でもあの子は!私を待ってるはずなんです!』


 自ら危険なところに乗り込もうというのか?その覚悟ができているということか?


 『絶対に守れる保証はない。命を落とす可能性もある。』


 『それでも、です!』


 決意は固い、か……。それならば仕方ないだろう。連れていくことにしよう。


 『はぁ……。わかった。シェリルのことは全力で守る。命に代えてもな。ついてくるがいい。』


 『ありがとうございます!』


 いつ頃出発するか……。この村から外に出てしまえばそこはもう知らぬ土地、地図を用意したり路銀を稼いだりしなければならない。

 この村のことも心配だ。次またいつ襲撃されるか分かったものではない。そのことも考えなければな。


----------------


 翌朝、いつものように休憩所に行き食事を摂る。昨日とは打って変わってキラキラとしたまなざしを向けられているが、反応は返さなくていいだろう。

 食事の後、隆起した地面から土製のゴーレムをいくつか作っておく。村の前の地面の撤去ができるとともに、村を守る兵力を作ることができる。一石二鳥だ。このゴーレムはいつでも私と視界をリンクさせられるとともに、壊されても時間がたてば元に戻る。優秀だ。


 『シェリル、私の家に来れるか?』


 『うわっ!いきなり話しかけないでくださいよぅ!まあ行けますけど!』


 昨日と同じようにシェリルを家に招く。


 『それで、何ですか?』


 『今から旅に出るぞ。』


 『今からですか!?それはまた急ですね……。』


 『村の皆に迷惑をかける可能性がある。できる限り早く出たいんだ。』


 私が生きているのは百歩譲ってばれてもいい。だがこの地に留まり続けて村人に傷がついたらそれこそ一大事だ。そのような不義理なことはしたくない。


 『わかりました。村長に言ってきますね。』


 『俺も行こう。』


 その後、シェリルは別れの挨拶を、私は感謝を、それぞれ村人に伝えた。シェリルとの別れを惜しみ、皆泣いていた。やはり良い村だ。家族でない者と家族同然に接することができるのは、人情が篤い証拠だ。

 旅装に着替え、村長からここら一体の地図と数日分の食料をもらい、私たちは村の門をくぐった。次に帰ってくるのはいつになるのだろうか。案外もう帰らないのかもしれない。


 『シェリル、この道をまっすぐ行くとある程度大きな町に着くようだが、今のペースで歩いてどれくらいかかるかわかるか?』


 『ざっと四日ほどじゃないかと思います。』


 『ならばその間、この世界の言葉を私にもっと教えてくれぬか?』


 『お安い御用です!』


 最初の村から旅立つ勇者は案外こんな気持ちなのだろうか?これから何があるのか、年甲斐もなくわくわくする。

 シェリルへの恩を返すために、そして私が帰るために。私とシェリルは旅に出たのだった。

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