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異世界ラスボス~助けて勇者~  作者: 飛縁魔
第1章 チュートリアル
6/22

第5話 魔王さま、説明を受ける。

 バカな奴ではあったが、死んでしまうと後味が悪い。だから殺そうとはしなかったわけだ。能動的に殺したいものではない。弱い勇者はその限りではないが。

 後ろから声が聞こえてきた。


 「そいつ弱かったろ?だから誰でもできるような仕事任せてたんだ。それもろくにこなせないとか、使えねえ奴だったなあ。」


 振り返ってみても誰もいない。


 「ああ、声だけ飛ばしてっから姿は見えねえよ。」


 「君がご主人様とやらか?」


 「ん?そうだけど?」


 本人が聞いているのなら話は早い。ストライスが言っていたことには疑問しかない。


 「ならば聞きたいことがある。一度に何度も質問するが、許せ。」


 「俺に答えられることなら大概のことには答えてやるよ。」


 「一つ、私がここに来た意味。二つ、君も魔王なのか。三つ、なぜ魔王を配下としているか。四つ、なぜおまえらの言葉が通じる。五つ、ここから元の場所に返る方法。」


 「一気に答えるから聞き逃すなよ?魔王によるバトルロワイヤルをこの世界で開催するため。俺は魔王で、会う魔王みんな俺より弱いから配下にしてやってる。魔王同士は言葉が通じるだけ。帰る方法はない。ほかに質問は?」


 「帰る方法がないだと!?いや、それよりも誰がそんなものを開催したのだ?」


 「それは知らん。」


 これは面倒くさいことになった。帰る方法がないというのもそうだが、バトルロワイヤルだと?誰がそんなふざけたことを思いついたのだ。


 「待て、バトルロワイヤルだといったな?つまり最後の一人に残る者がいるということだろう。そのものは帰れないのか?」


 「そもそも一方通行なんだよ。帰る方法があるわけねえだろ。」


 では帰ることはもうできないのか?あの生活は確かに良いものではなかったが、私は必要とされていたのだ。私がいなければあのゲームはどうなる?一生クリアできないゲームになってしまうのではないか?


 「……君は帰りたいと思わないのか?」


 「誰が帰りたいかよあんな世界。こっちのほうが居心地がいいんだよ。」


 「……そうか。」


 私もそう考えることができれば楽だったのだろう。結局何においても真面目過ぎるのはよくないのかもしれん。


 「でも聞く意味なかったと思うぜ?」


 「何?」


 「だってあんた俺のところに来ねえだろ?だから殺そうと思って。」


 相当短気な奴だな。しかし先程から感じるこの気配に対し、私の直感は警鐘を鳴らしている。たぶん私が普通に戦っても勝てないだろう相手だ。何とかしてやりすごさければならない。


 「ほれ、死ね。」


 自然界ではありえない圧力がかけられる。重力操作か?

 どうあれ今ここで死ぬわけにはいかないため、気取られぬように魔法を使う。 

 中位魔法、分身と超位魔法、透過(バニシング)の同時使用。分身はそのままの意味である。私と同じ形をした身代わりに過ぎない。私の完全なダミーとして作用してくれる。透過(バニシング)は存在を視覚的にも感覚的にも消す魔法である。身体全体を消すには相当高度な技術を要する。また、常識的な倫理観を身につけていなければ使えない。二つとも消費魔力はそう多くない。今の会話で回復した分で十分賄える。

 それらの魔法を使って分身に圧力をかけさせ、自らは全力で退避する。あれをくらい続けるのはまずい。本気で死にかねない。


 「簡単に潰れたな……。あいつを倒したから期待してたのに。ま、いいか。これで敵が減ったし。さーて、帰って適当にやりますかね。」


 存在感が消えていく。どうやら声を飛ばすのをやめたらしい。特段興味もないようだ。もう魔法を解いても大丈夫だろう。


 「あいつは何なんだ……。」


 体中から冷や汗が流れ、私の体は膝から崩れ落ちる。息は荒くなり、魔法で作り出した氷手鏡にして顔を見ると青ざめている。

 奴の物言いは大雑把だし、使う技も単純なものだ。しかしあの圧倒的な存在感は何だ?実際に目の前に存在していたら、技でなくあの存在感で潰されてしまいそうだ。弱いやつとしか会わない、というのは比喩でも何でもないのだろう。

 私は参加するつもりはないが、バトルロワイヤルだということはつまり、魔王だと知られればあのレベルの者にまで襲われるということだろう。ストライスは簡単に対処できたからまだよかったが、あのレベルはだめだ。対処が思いつかない。


 「バトルロワイヤル(生き残れ)、か……。」


 酷なことをするものだ。死にたくないものも多くいるだろう。ストライスがそうだったように。だが最後の一人になるまで生き残り続けなければならないのだ。生かされていても、最後には殺されるのだろう。

 弱気になることは許さぬ。私は生きて帰るのだ。帰らねばならぬのだ。

 決意は固めた。他の者に何を言われようと、必ず帰る方法を見つけ出す。


----------------


 延々とこうしているわけにもいかない。黒曜共は奴の気配が消えるとともに姿を消したし、村人を呼んでこなければならない。

 しかしどうしたものか……。いや、あの手があったか。


 『シェリル、村の皆を戻せ。もう黒曜共はいない。』


 念話でシェリルに呼び掛ける。これが一番早い。


 『い、いきなりなんですか、もう!……え?もう大丈夫なんですか?』


 『問題ない。危険は過ぎた。村は、守ったぞ。』


 シェリルは困惑しているが、危機が過ぎたのは事実だ。村に害意を持つものはこの周辺にはいない。そのことを伝えると、小一時間後に村の皆がそろりそろりとやってきた。


 「おお、本当に、黒曜を※※※※※※※※※※か!?」


 「村長、すまないがわからない。」


 「す、すまない……。」


 「村長は、謝らないで、いい。」


 互いの顔を見合わせながら喜ぶ村人たち。いかんな、顔がほころんでしまう。誰かのために守るというのは、こんなにも気分がいいものだったのか。今までずっと誰かを傷つける立場にいたからわからなかった感情だ。これは……いいな。

 胸中に突然シェリルの声が響いてくる。


 『()()……()()()()()()!お願いがあります!』


 『いきなりどうした!?シェリル!私はそんなものではなく……』


 『いいえ、あなたこそ伝説の勇者に違いありません!』


 当然、私は魔王だ。勇者などであろうはずがない。しかしシェリルの言葉を無碍に扱うわけにはいかない。


 『落ち着け、シェリル。その話は後程、誰もいないところでできるか?』


 『そう言うのでしたら……。』


 今されてもこんがらがるだけだ。奴との会話で分かったことをまずまとめたい。


----------------


 誰もが寝静まった深夜、私はシェリルと近くの沢に来ていた。


 『それにしてもみんなすごかったですね。飲めや歌えや大騒ぎで。すみません、みんなが。』


 『いや、別に構わない。それよりも、話を頼む。』


 『わかりました。』


 シェリルが言ったことはおおむねこんな感じだった。

 曰く、この世界には勇者の伝承が伝わっており、滅びゆく世界を救った英雄として描かれていること。

 曰く、その勇者は肌が青く、角が生えた者だったと。

 曰く、黒曜の発生はつい最近のことであり、世界を脅かしていると。

 曰く、シェリルは「世界の巫女」と呼ばれる存在であり、世界の均衡を保つために存在していること。

 曰く、私をここまで連れてきたのは打算によるものもあると。

 曰く、勇者ならば願いを聞いてくれるかもしれないと思ったと。


 『すみません。私は嫌な人ですね。』


 『いや、いいさ。』


 『私の話……。どう感じましたか?』


 『特に何も思わんよ。強いて言うならば、できすぎている、ということくらいか。シェリルが嫌な人間だとは思わん。』


 『嫌な人ですよ……。え?できすぎている?』


 『この状態、まるでその伝承と全く同じではないか。黒曜という世界の危機に対し、勇者と見た目が酷似している私がシェリルの前に現れた。』


 『言われてみればそうですね。』


 『まあそこは考えても仕方がない。それよりお前だ。』


 『私?』


 『そう、お前だ。お前には大恩がある。たとえそれが打算によるものだとしても、私をこの村に連れてきてくれたことには感謝しているのだ。』


 『そんな!軽蔑されこそすれ、感謝されることなんて何もないですよぅ!』


 『そうやって卑下するな。まあだからその、何だ。わがままの一つや二つくらい聞くさ。私にできることならな。』


 『勇者さま……。』


 『その呼び方はやめろ、むず痒くなる。それで、なんだ?』


 『私の友達を、助けてほしいんです。』


 そう言ったシェリルの顔には、哀しさ、痛み、期待、そういった感情がない混ぜに、ごちゃ混ぜに混ざり合っていた。

 私はその表情を前に、何も答えることができなかった。

 夜明けは、近い。

誤字脱字等報告お願いします。

最後の会話パート、地の文あったほうがいいでしょうか?これからに生かしたいのでよろしければお願いします。

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