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異世界ラスボス~助けて勇者~  作者: 飛縁魔
第1章 チュートリアル
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第3話 魔王さま、初めて戦う。(前編)

 相当遠くに見える、地平線を埋め尽くすほどの異形の数々。その進行速度は相当遅い。到着までまだしばらくかかりそうだ。タイムリミットは夜明け後と言ったところだろうか。結界を張るくらいの時間はまだ残されているはずだ。勇者に負ける程度とはいえそこは腐っても最強の魔王、考えうる限り最高の強度の結界を夜明けまでに張ってみせようではないか。

 この村には大きい恩がある。奴らからの防衛、および撃退をもってその恩を返すことにしよう。


 「村長、私がやろう。」


 「お前さんに※※※※を任せろと言うのか!?不可能じゃ!あれは※※※※※※※※!人では※※※※できん!」


 完全に理解することはできないが、その焦りようから相当ヤバいやつらのようだ。人には倒せないのであろう。だが私は魔王であり人ではない。彼らには隠しているが、本質は全く異なるものだ。ならば撃退くらいはできるであろう。……これがフラグにならないことを祈るばかりだ。


 「大丈夫です、任せてください。」


 「しかし、そういうわけには……。」


 「信じてください、村長。」


 「……なぜそう言える?」


 「さあ、なぜでしょう。」


 「はあ、わかった。儂らは村の外に行くからの。」


 一応どうにかする許可はでた。ならばさっそく作業に取り掛かるとしよう。

 結界の作り方自体は簡単だ。地面に3つ以上魔力を込めた魔方陣を描けば、それらが呪力線でつながり結界となる。3つならば三角錐、4つならば四角錐、といった形になる。空間に描き、てっぺんへの中継地点を作ればドーム状にすることも可能だ。

 そして結界の強さは魔方陣の数で決まる。3つで作ればあまり時間がかからない代わりに、鉄で作った盾よりも脆くなる。それとは対照的に、大量の魔方陣を使い大きい結界にすれば、よほどの攻撃では破れない。あれを簡単に突破してくる勇者がおかしいのだ。毎回48個もの魔方陣を使って30分かけて作っているのに。

 しかし今回は事情が違う。奴らの進軍速度ゆえ、夜明けまでは時間がある。48個など目ではない。時間の許す限り魔方陣を描き続けよう。一体いくつのポーションがなくなるのか見当もつかないが、それで村を守れてもまだ足りないのだ。村を守り、人も守る。両方とも達成しなければ、返すべき恩を返せない。ここは出し惜しみをしている場合ではないのだ。

 幸いにもまだ日は沈んだばかり。どうやら時間は地球と同じくらいの速度で進んでいくようだから、まだ8時間ほど残っている。全力を出してやろうではないか。


----------------


 いつもより気合が入っていたようだ。48個使って30分かかるのであれば、8時間ならば768個作ることになる。しかし今回は軽く1000個は作っただろう。どれくらい強靭なのか、私自身にもわからない。

 結界を張り終えた村の外に出ると、異形の群れは目と鼻の先にまで迫ってきていた。骸骨兵(スケルトン)小鬼(ゴブリン)大鬼(オーガ)豚型兵(オーク)。どれもこれも武装している。もともと私がいた世界でもよく見かけていたような存在だ。その数、目測で1万強。

 村人は避難していて村の中にはいないが、一匹でも逃せば追いつかれてしまうかもしれない。そうなれば目も当てられない状況になるのは火を見るより明らかだ。つまり、ここが防衛ラインとなる。


 「かかってくるがいい、雑兵共。私はそのことごとくを粉砕し、この村を守る。必ずだ。」


 コミュニケーションが取れるのかすらわからない奴らに、そう投げかける。

 ここに戦いの幕が開けたのだ。

 異形の者共は私に目もくれず、村に入ろうとしている。しかし、結界が邪魔で1匹も入ることができない。その手に持った剣を振り下ろしても弾かれるばかりで、結界を壊すことはできない。そのことに何の疑問も抱かず剣を振り続けている。奴らからはおよそ知性と言うものは感じられなかった。私の世界の奴らとて少しくらいの知性は持ち合わせている。操られている?誰が?なんのために?

 ……まあ気になることは多々あるが、そのまま放っておいていいものでもないだろう。


 「中位魔法、篝火(カガリビ)。」


 この世界に来て初めての攻撃系魔法を奴らに放つ。篝火はそう強い魔法ではない。圧縮した炎を敵にぶつけ、圧縮を解くとともに炎を燃え広げるだけの技だ。炎魔法と風魔法の合わせ技ではあるが、魔法の素養を持ち合わせているものならば割と簡単に習得できる魔法である。

 ではなぜそのような簡単な魔法を選んだか。一つ目は燃費が飛びぬけていいから。炎魔法だけでは燃え広がらない場所まで燃えるという威力に反し、そもそもあまり魔力を使わない風魔法を合わせているため非常に燃費がいいのだ。二つ目は奴らの耐久力を推し量るためである。これで簡単に倒せるのであればこれを連発、できないようであればそれよりも位の高い魔法を使っていけばいい。

 何かと便利な魔法なのである。


 「「「「「G、GYA、A、(グ、ギャ、ア、)AAAAAAAAAA(アアアアアアアアアア)!」」」」」


 断末魔の悲鳴が聞こえる。どうやらこの程度で何とかなるような相手であるようだ。ならば手加減する必要もない。とりあえず篝火を連発していく。

 いたるところで火の手が上がり、巻き込まれた異形の者共はそのまま焼き尽くされて消えていく。足元に黒い石を残しながら。

 それがいったい何なのか気にはなるところだが、今は防衛のほうが重要だ。そちらに意識を注ぐとしよう。


----------------


 ……あれから何時間経過したのだろうか。夜明け直後に開始した戦闘だというのに、日が天高く上ってもいまだに続いている。

 敵勢力はいまだ衰えることを知らず、結界を攻撃し続けている。相変わらず私に攻撃をしてくる奴はいない。結界には傷一つついていないためその心配はしていないが、敵勢力が衰えないとはどういうことだ。篝火の連発で相当数を減らしたというのに、開始直後から敵の数が減っていないように思えてくる。

 いや、本当に減っていないのではないだろうか?心当たりはないわけではない。

 あの黒い石だ。あの石が核となっていてそれがある限り復活する……?ありえない話ではなさそうだ。 

ではそう仮定したとして、どうすればいいのだろう?石の砕き方はわからない。篝火以上の衝撃を与えればそれですんなりと砕けるのだろうか?それとも物理的干渉でなければ破壊できないのか?そもそも壊すことにより何か良くないことが起きる可能性は?

 そういった考えが頭の中をぐるぐる回る。何が正解なのか、何が不正解なのかがわからない。特に3つ目の考えがある以上、実験することもできない。

 それにポーションのおかげでMPは減らないといっても、体力は減るのだ。6時間ほど戦い続けたため、もうへとへとだ。

 勇者よ、こういう時、お前たちはどうしてきたのだ?どのように切り抜けてきた?いっそ助けてほしいくらいだ。

 そう弱気なことを考え始めた時、身体のうちに声が響いた。


 『負けないでください!まだ名前、考えてないでしょう!?』


 念話だと?この声質はシェリルか!?あいつ、念話など使えたのか!?しかしこの世界にも似たような魔法があったとは思わなかった。

 念話とは魔法の一種であり、己の考えを他者に届けることが可能になる魔法だ。この魔法の前に、物理的な距離や言語の壁など関係ない。私は使えるが、この世界で使っていいものかわからなかったため、今まで使ってこなかった。念話で会話するには双方ともに念話が使えなければならないためだ。自分の考えのみ伝えるなど愚の骨頂である。


 『ありがとうシェリル、おかげでもう少し頑張れそうだ。』


 『あなたも使えたんですか!?もっと早く使えばよかった……。』


 しかしシェリルが使えるのであればそれを考える必要はない。遠慮なく使わせてもらおう。


 『こいつらは何だ?数が減らんぞ!』


 『そいつらは黒曜(コクヨウ)です!倒した後に落とす石を壊さないと永遠に復活し続けます!』


 『壊す方法は?あるのか?』


 『そこまではわかりません!』


 『威張って言うことじゃないだろう……。』


 こいつらの正体はわかった。対処法も理解した。しかし実行に移せない。どうすればあの石を破壊できる?

 というかもう余裕がなくなってきている。一度ここら一体の黒曜共を吹き飛ばしてしまおう。結界の強度には一抹の不安が残るが、ある程度考える時間が欲しい。

 地面に手をつき、その名を口にする。


 「上位魔法、隆起する大地(クレッシェンドアース)!」


 とたん、せりあがる周囲の大地が鋭い刃となり、黒曜共を霧散させていく。前方広範囲にわたって広がるこの魔法のおかげで、しばらく時間を取ることができた。

 今のうちにポーションで魔力を回復し、休憩しながら落ちている魔石の回収に取り掛かろう。

 そうして石に手を伸ばした矢先、声が響いてきた。


 「そんなことされるとさァ、困るんだよねエエェェ!」


 どこまでも不快で不愉快な声だが、なぜか自然と聞き取れた。()()()()()()()()()()であるはずなのに。


 「オマエタチほんっっっっっとおおおおおに使えないねェ!何であんなに小さな村一つ滅ぼせないのさァ!ボク戦いたくなんかないのにさァ!」


 まるで金属音と黒板を引っ掻く音を混ぜたように感じるその声の主は、いつの間にか私の前に立っていた。

 額に青筋を浮かべた、年端もいかぬ少年のような姿をした()()は、不遜な態度で私の前に立っている。


 「その石ゴシュジンサマから頂いたモノなんだァ!てめえなんかにゃ渡せねえんだよォ!あんたが誰かは知らないけどさァ!邪魔するなら殺すよォ!?」


 「少し黙ってくれないか?君の声は頭に響くんだ。」


 面倒なことになったな。こいつ、何者かは知らんが相当強いぞ。ともすれば私よりも。死ぬわけにはいかんが……。覚悟は決めるべきだろう。

誤字脱字等報告よろしくお願いします。

魔王さま、(この世界で)初めての戦いです。

地の文長いですかね・・・?

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