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異世界ラスボス~助けて勇者~  作者: 飛縁魔
第1章 チュートリアル
3/22

第2話 魔王さま、言葉を覚える。

昼に時間が取れず少し前話から時間が空いてしまいました。申し訳ありません。

 私がこの世界に着て幾日が経過した。時間にしておよそ240時間といったところだろう。まあ10日だな。おかげで「おはよう」や「こんにちは」、「こんばんは」といったような挨拶はかろうじて覚えることができた。

 村人たちも身振り手振りを使ってコミュニケーションを取ろうとしてくれている。それに私は完全な部外者であるのに、食料も住居もいただいている。かなりの好待遇であることは間違いない。嬉しい限りだ。その気持ちに応えたい。帰りたい気持ちがあるのは事実であるが、ここまでよくされると恩返しもしたくなる。私をこの村に連れてきてくれたあの娘には、とくに。

 

 「おはようございます!※※※※※※※※※※?」


 「ああ、おはよう。」


 ジェスチャーで元気なことを伝える。たぶん「気分はどうだ?」とかそんな意味だろうと思ったからだ。英語で言う「How are you?」だな。その程度の会話は毎朝ほかの村人たちもしているから、ニュアンスはもうわかっている。だが返答の仕方はわからない。そこはもっと観察が必要だろう。

 ただ、そろそろ観察だけでは難しくなってきた。能動的に言葉を覚える必要がある。そこで、昔知った知識を活用することにした。

 紙にぐちゃぐちゃと書いたものを人に見せる。それで返ってくる言葉は十中八九「これは何?」だ。もちろん一人だけに聞くわけではなく、一応大人数に聞くべきだろう。

 そうして私は能動的に「これは何?」と聞く方法を手に入れたわけだ。


 娘に聞く。


 「これは何だ?」


 「これ?これは魚ですよ。」


 少年に聞く。


 「これは何だ?」


 「これは木の実だよ!※※※※※※!」


 笑顔だから食べれるものだろう。おいしい可能性が高い。


 村長だと思われる、村で最も慕われている老人に聞く。


 「これは何だ?」


 「これか、これはかごじゃ。」


 それからさらに1週間が過ぎだ。そんな行動を繰り返し、私はある程度村にある物の名前を覚えることができた。村にあるものではすべての名詞を思えることはできないだろうが、そこは仕方ないと割り切るしかない。次は動詞だが……こっちは観察でしかわからないだろう。

 言語の一つ二つ、簡単に理解できずして何が魔王か。……まあ理解することと使用することは全く違うことであるのだが。

 まあ気長にやろう。時間はあまりないが、村に来たおかげで余裕はできたのだ。さっさと覚えて帰る方法を探しに行こう。


----------------


 最近あの人が私たちの言葉を理解しています。まだここに来て21回日が昇っただけなのに、もう挨拶と物の名前は覚えてるみたいです。やっぱり普通の人じゃありませんね。初めて会った時からわかってはいましたが。ほんとに一体何者なんでしょうか……。


 「これは何だ?」


 あの人はよくこの言葉を言います。こちらの言葉を早く覚えたいのでしょう。

 でも気のせいでしょうか?どこか焦っているように感じます。そんなに早く覚えて何をしたいんでしょうか?帰りたかったり……とか?何にもないところから現れたのです。実はほかの場所にいたとか、ありえない話じゃないでしょう。


 「おい、娘。」


 もしそうでも私としてはまだ帰ってほしくはありませんが……。あの人は多分()()ですから、まだいてもらわないと困ります。

 私はあの人を打算で助けました。あの人がいればきっと……。


 「おい、おい、娘。あー・・。き、聞いているか?」


 「え?ああ、すいません。考え事をしていました。」


 「そうか……。えーっと……お前の、名前が……・※※※※。」


 拙いながらも彼はそう言いました。最後は何て言ったかわかりませんでしたが。名前……そういえば言ったことがありませんでした。彼の名前も知りません。えっと、できるだけ簡単に。


 「私は、シェリル・ミア・トートです。」


 「ありがとう。シェリル・ミア・トートか。」


 「シェリルでいいですよ。あなたの名前は、何ですか?」


 「私の……名前か。」


 そのまま黙ってしまいました。な、何かいけないこと言っちゃいましたかね!?だとしたら謝らないと……!


 「ごめんなさい!その、私……」


 「大丈夫だ。えっと、その、何だ。」


 彼はまた黙り込んで……。いえ、ぶつぶつつぶやいてますね。


 「その、ない。」


 「ない?」


 「ない」


 名前が……ない?そんな人がいるんですね。


 「じゃあ何と呼べばいいんですか?」


 「?」


 ああ、この言い方じゃ通じないんですね。じゃあ、えっと、えっと。そうだ!


 「私はシェリルです。あなたは何と?」


 「……?あ、ああ!私は……※※※※、シェリルが決めてくれないか?」


 「私が?」


 「ああ。それがいい。」


 私が名前を考える?本当に?責任重大じゃないですか!名前なんてそう簡単に思いつくものじゃありません!そんな簡単に言わないでください!まったくもう!

 ……でも頼まれた以上考えないわけにはいきません。


 「あー……時間、かかります。それでも?」


 「時間は、かかっていい。名前がないのは、※※※。」


 時間をいただけました!これでじっくり考えられます!一日くらいなら遅れても問題ないでしょう。それにしても名付けですか。初めてですから不安ですが、精いっぱい考えることにしましょう!


 「明日までに!」


 「ありがとう。」


----------------


 娘の名前はシェリルと言うらしい。シェリル・ミア・トート。シェリルとトートはよく聞いていた。シェリルでいいと言っていたし、それは娘の代名詞として、だろう。トートは多分村の名前だ。それを考えると……トート村出身のミア家のシェリル、と言ったところだろうか。

 小規模な村が故、皆が皆名前で呼び合っていると考えていいだろう。だからミアという単語は聞かなかったのだと考えられる。

 しかし名前がないのは不便だ。先程も口が詰まってしまった。シェリルがいい名前を考えてくれることを祈るばかりだ。


 「門、柵、家、人、魚、木の実、かご……。ふむ、名詞はもうほぼ完ぺきと言ってよさそうだ。む?どうした、そこに誰かいるだろう。」


 「へへっ!※※※※※!」


 そこにはよく見る少年がいた。10やそこらといったくらいの年だろう。


 「ごめんな、わからん。」


 「そっか!」


 この少年ももうよくなついてくれている。この子の名前も聞いておくべきだろう。いつまでも「おい」とか「お前」とか「君」とかで呼ぶわけにはいかないのだ。


 「お前の名前は何だ?」


 「僕の名前はリュート!リュート・ダルク・トートだ!」


 「リュートか、いい名だ。」


 勇者にそういう名前を付けるプレイヤーもよくいた。響きがかっこいいのだろう。わからなくない。


 「ありがとう。それではな。」


 「えーっ!※※※※※!」


 リュート少年はボールを持っていた。遊びたいのだろう。今聞いた言葉をとりあえず「遊ぶ」、として記憶しておく。

 しかしボール遊びか。実はしたことがない。と言うか遊んだ記憶が皆無だ。私にあるのは魔王として玉座に座っていた記憶のみ。……。ここで遊んだほうが後々よいだろう。


 「ボールか?」


 「うん!」


 「遊ぶ」で間違いはなかったらしい。

 それからしばらく、まるでサッカーのようにボールを蹴りあった。初めての経験だったため、へとへとになるまで遊んでいた。遊び始めた時には高いところにあった太陽も、もう傾いている。一体どれくらい遊んでいたのやら。……子どもの体力とは侮っていいものではないらしい、と言うことも分かった。リュート少年……。君は体力が無尽蔵なのか?


 そうして日が完全に沈んだころ、異変は起こった。村中の鐘が鳴り響き、門番が大声で叫んでいる。皆、何事かと自らの住居から出てくる。私とてそうだ。何があったというのだろう?


 「※※※※!※※※※来ました!※※※※です!」


 「何っ!?なぜこんな村にまでくるのじゃ!」


 どうやら何かが来たらしい。普段は来ない何かが。あの焦りよう、脅威、と呼べるものなのではないだろうか?皆震えている。手を組んで上に掲げるている者もいれば、泣いているものもいる。


 「あの、何が?」


 「知らんのか?」


 「何をです?」


 「そうか、本当に知らんのか……。」


 この世界では常識として扱われているものなのだろうか?


 「見た※※が※※※。」


 どうやら見せてくれるらしい。村の皆がここまで取り乱すなど、まずありえない。そこまで恐怖の対象として見られているものなのだろう。

 門番に連れられて櫓の上に上る。

 そこにいたのは、おびただしい数の、異形の、群れ、だった。

誤字脱字等報告、よろしくお願いします。

やっと魔王さまが言葉を覚え始めました。

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