第16話 魔王様、亜人の村へ。
はあテスト長かった。
お待たせして申し訳ありませんでした。
あれから1時間が経ち、2人が起きたため行動を開始することにした。
まず重要なのはここがどこか、ということだ。地図があったところでどこの森なのか見当もつかないし、とりあえず歩くほかないだろう。
「2人は何か知らないか?カイゼンの近くにある森に。」
「1つだけ思い当たるところがあるけど、そこだとは思いたくないわね。ダリヤと最初に会ったあたりだと思いたいわ。」
「私にも心当たりがありません。リース、あの林より鬱蒼としてるから違うと思うよ?」
ふむ、この世界の住民にも心当たりがないのか……。リースの言う「そこだと思いたくない」とはどういうことだ?何か不都合があるのか?
その時、私たちが来た方とは反対側からズルズルと何かを引きずるような音が聞こえてきた。シェリルとリースはまだ気づいてないか……。
バレないように戦闘の用意のみしておこう。
「ダリヤさん、何か聞こえてきませんか?」
「私にも聞こえるわ。ズルズルって。」
やがて音は大きくなり、2人の耳にも入るようになった。
しかし音は目の前の木の後ろで止まり、その後音は鳴らなくなった。
……怪しい。どう考えても怪しい。
私たちの様子を見にきたのではないだろうか?でなければそんな中途半端な場所で止まることはないだろう。
「そこにいるのが誰かは存じ上げないが、できれば穏便に済ませたい。話し合いをする気はないか?」
「ちっ、バレたか。」
声が高い…。女か?
というよりむしろバレないとでも思っていたのか?木陰に隠れる直前とか結構大きい音がしていたぞ。
「本当に敵意はないか?」
「ああ、約束する。」
「……わかった。」
そう言うと彼女は私たちの前に姿を現した。
彼女の上半身は人、下半身は蛇だった。いわゆるラミアだ。ボーイッシュなショートヘアに、よく鍛えられたとわかる腹筋がなかなかのものだ。
どうやらこの世界には人間以外にも知的生命体が存在したらしい。
しかし端から見て落ち着かない格好をしているな。かろうじて胸が隠れているくらいだ。あとは腰布がまかれている。ラミアだから下半身に隠す必要がないのはわかるが……。
しかし問題はそこではない。
彼女の腕に相当する部分は2本ではなく6本だ。
これはラミアというよりむしろ。
「姦姦蛇螺のようだな。」
「かんかんだら?なんだそれは。オレは見ての通りラミアだ。腕については何も言わないでくれ。オレには何も答えられない。」
警戒されているな。いや、当たり前か。きっと彼女の縄張りに侵入してしまったのだろう。
「名前は教えない。お前とかで呼んでくれていい。その代わりお前らの名前も聞かない。今村全体がピリピリしてんだ。敵意がないのは分かったが、あまり動かれると困る。手錠付けてくれるんなら来てもいい。」
「それはありがたい。私たちはここで迷っていたんだ。森の外に出ても地図はないし、どこかわからない。そちらの村に行けるというならなら是非もない。2人は大丈夫か?」
「構いません。」
「やっぱり亜人の住む森だったか…。まあそれ以外に案はないわね!賛成よ!」
リースの言っていたことはこういうことか…。その「思い当たる」森だったのだろう。亜人の住む森。聞いたままなのだろうな。現に目の前には人ではない者がいる。
「村目当てじゃないのか?じゃあ外に案内してもいいんだぜ?」
「行った通りだ。外に出てもどこなのかわからない。それならむしろ中に進みたい。」
「わかった。こっちだ。敵意がないなら申し訳ないが、どうかわかってほしい。」
彼女の後をついていく。ピリピリしていると言っていたな。何があったのだろうか?まあ私には関係ないだろう。恩人と約束の人に手を出すようなら容赦はしないが。
しかし手錠か。ほぼ捕虜のような扱いだろうな。
「ある程度の自由は約束できるか?」
「さあな。長老たちが何て言うかわからねえ。期待はすんな。」
「わかった。さすがに仕方がないな。」
やはり難しいか。そりゃあそうだろう。警戒している相手に自由を与えることはできない。聞いてはみたが元から期待はしていない。
そうして小一時間ほど歩いただろう。一軒のボロ小屋にたどり着いた。ここは人が住めるのか?雨漏りとかひどそうだな。
「ここで待っててくれ。手錠を持ってくる。」
「わかった。」
彼女が小屋に入っていく。まさか彼女の家なのか?いや、そんなまさか。人が住めるような場所ではないぞ?きっと村共用の倉庫か何かだろう。個人の家だとは思いたくない。
「待たせたな。敵意がないのはわかっているが、わかってくれ。すまないな。」
「問題ない。さっきも言ったとおりだ。二人も納得している。遠慮なくかけてくれていい。」
シェリルとリースがうなずく。
謝るあたり根はいいやつなのだろう。むしろそんな彼女に謝らせることに罪悪感がある。
「長老たちのとこまでついてきてもらいたい。」
さて、私たちは無事にここを出られるのやら、甚だ心配になってきた。
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「結論から言おう、君たちには出て行ってほしい。」
私たちは円卓に座り、長老と話していた。円卓には長老と私たち以外座ってはおらず、ほかにどういう亜人がいるのかはわからない。ここに来るまでも誰とも会うことはなかった。
長老というから老人なのだろうと思ったが、意外にも若いものだった。よく見れば耳が長いな。エルフか?それならば確かに長老というほど年を経ているのかもしれない。亜人の村か。種族は決まっていない、と。
しかし突っぱねてきたな。出て行け、と来たか。
「ただし、今日はもう遅い。どこかその辺で休んで行け。」
「なら長老、私の家でも大丈夫か?」
「構わない。」
長老相手にそのような言い方でいいのか?とは思うが……。対応からして問題ないのだろうな。
「では行け。」
「わかった。ほら、行くぞ。」
「ああ。シェリル、リース。」
ラミアの女に引き連れられ、部屋を出る。何だろうか?長老と女との間に何か一線引かれているような気がする。
……まあ私たちには関係ない。何かあったところで、私たちには何もできないしな。
女に案内され向かったのは、結局元の小屋だった。私の……家……。ここがか。やはり、ここがなのか。
「ボロボロで悪いな。外に出ないなら手錠も外してやっていい。」
「まあ家がこれなのは仕方ない。手錠の方は……そうだな、頼めるか?」
そうして手錠を外してもらった後、軽く家の内部の説明を受け、あっという間に晩飯の時間になる。
飯の時間、つまりは雑談の時間だ。
この女、なかなかどうして話が合う。
ちなみに食卓に酒が出てきた時点でシェリルとリースには寝てもらった。
「オレは強くなりてーんだよ!でも魔法は使えないし剣もからっきしでさ!下半身蛇だから俊敏に動けないし腕が多い分色々邪魔だし!あーあ―どうすりゃ強くなれるんだか!」
なんてことを酒に酔った勢いで笑顔になって言う。酔いが回って顔が真っ赤になっている。
「腕が多いせいでほかの奴らとも折り合い悪いしなー!まあ親に感謝してないわけじゃねえけど。うん、親には、感謝してんだ。」
「うん?どうかしたか?それで、親はどこに?」
「あー、いや。それなんだ。今村が警戒してる理由。この前魔王とか名乗る奴らが村をめちゃめちゃにしていってさ。それで何人か連れて行かれたんだよね。」
また聞き覚えのある単語が……。魔王か……。ここにまで手が及んでいるのか。いや、もう全国的にこうなっているのかもしれないな。
「……お前、それはさらっと言っていいことではないだろう。」
「いーんだよ、お前らどうせ明日帰るんだから。」
「……。」
そうしたいのはやまやまなんだがなあ。魔王なんて聞いたら動かざるを得なくなる。
「オレは魔王が嫌いだ。いつかぜってーに首を叩き斬ってやるんだ。」
「……その機会があると言ったらどうする?」
「あ?どういうことだよ。」
「そのままの意味だ。私たちはその魔王に用がある。」
「お前らも、か?」
「正確には私一人が、だがな。色々あるのだ。その辺は聞かないでほしい。」
「お前も魔王に関する人間なのか?」
私自身も魔王なのは伏せておくべきか?きっとこの世界の住人は魔王が複数いるなどとは知らないはずだし、むしろ言っておくべきだろうか?ここは、そうだな……。
「聞いてほしいことがある。質問にも関することだ。」
「何だ?」
「お前が言うやつではないが、私も魔王だ。」
「なっ!?」
女が目を見開くが、そこは無視する。女からしても、目の前にいるのが嫌いな魔王だと言われて驚いているのだろう。
「今この世界には、こことは違う世界から来た魔王が数多くいる。誰が仕向けたかは知らないが、魔王同士で戦えと言われている。少なくとも私は殺すつもりはないが、撃破していけばその元凶に会えるのではないかと思っている。私にも帰る場所がある。」
さて、どのような反応をする?女よ。
「……村に来た奴は、お前より強いのか?」
存外冷静だな。喚き散らすかと思ったが……。まあ震えているし抑えているのは目に見えている。
「そうだな、魔王同士に接点はないからその点については何も言えん。」
「外に出ろ。」
「揚げ足を取るようで悪いが、外に出ないことを条件に手錠を外してもらったんだぞ?」
「関係ない。頼む。一度でいい、戦わせてくれ。魔王ってのがどんなやつなのか知りたい。」
「構わないが、私は一例だ。この村に来た魔王の再現はできないぞ?」
「それでいい。なあ、抑えてるの、わかってるんだろ?頼むよ。」
だんだん声も震えていく。まったく、放っておけないな。このままだとシェリルとリースの横で血が流れることになりそうだ。フィクションの世界じゃあるまいし、都合よく目を覚まさないなんてことはないだろう。
「悪かったな。どこへ行けばいい?」
「ここら辺は誰も来ないから、家の目の前でいい。」
「わかった。」
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女は右腕と左腕に一つずつ両刃の剣を持ち、その他の腕は後ろに回していた。先程も言っていたが、邪魔なのだろう。腕が多いということは、戦い方さえ覚えれば手数が増えるということなのにな。もったいない使い方もあるものだ。
対する私はクリスタルソード片手に仁王立ちだ。魔法にも制限をかけたほうがいいだろう。誰も来ないとはいえ、騒げばどうなるかわからない。
「オレから行くぞ。」
「戦いに順序はない。来い。」
左下からの斬り込み、それを防ぐと今度は右上から。
左上からの剣をいなすと次は右下から。
胴薙ぎを躱せば突きが。
……剣の使い方が一辺倒に過ぎやしないだろうか?
「お前、まさか一度も剣を教わったことがないのか?」
「悪いかよ!」
悪いどころの話ではないだろうそれは!剣はからっきしと言っていたが、謙遜でも何でもなかったのか。あまり言いたくはないが、正直な話下手というほかない。フェイントはない、一度身を引いて立て直すこともしない、おまけに狙いが甘い。これでは……。
「お前、これでは魔王どころかその辺の冒険者も相手にできないぞ?」
魔法を使うまでもなかった。両手の剣をはじいて、喉元にクリスタルソードを突き付けるだけ。それだけで女は止まった。
「何で……。何でオレばっかりが、こんな……。」
女は項垂れ、静かに涙を流した。
「とりあえず家に入ろう。泣くのはそれからだ。」
「まだ、やる。」
私は知っている。いや実際に知っているわけではないが、一応知識としては知っている。こうなった奴はてこでも動かないことを。
だがだからと言って本当に続けるわけにもいかない。……はあ、仕方ない。
「何かするにしろ明日だ。どうせ乗り掛かった舟だ、しばらく稽古くらいつけてやる。」
精霊にリースのことも頼まれているわけだしな。シェリルは……どうするべきか。
「今からがいい。」
「駄々をこねないでくれ。ほら、戻るぞ。」
図体が大きいせいで抱えていくこともできない。いやこんなこと本人の前で口が裂けても言えないが。
だから一応腕を引っ張ってみるが、全く動かない。踏ん張っている様子は見られないため、素の重さだろう。蛇の部分が相当重いらしい。これも言えない。
「嫌だ。オレはまだ続ける。寝たいなら戻ってくれ。寝室は説明したろ?」
これ以上一人で続けても知識がないのでは意味がないだろうに。
「夜が更けるまでだ。一時でもやったら戻るぞ。」
「いいのか!?」
「ただし、駄々をこねた罰だ。少し、厳しくいくぞ。」
私は笑顔を浮かべる。玉座に勇者が来た時にしかしてこなかった、凶悪な笑顔を。何人も人を殺してきたような笑顔を。女の顔が引きつったように見えたが……。見間違いだろう。
その後、村の外れでは金属同士がぶつかるような音が響いていた。ついでに女のうめき声も。
私は少し厳しくしただけだ。初日サービスというものだな。
初日が厳しいなど、常軌を逸しているがそこはご愛敬だ。
亜人の村か。今度はいつ出ていけるのやら。
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都市伝説は趣味です。怖い話要素はありませんが気持ち悪いと思った方は申し訳ありません。




