第12話 魔王さま、その資格。
「はははははは!」
「カハハハハハ!」
「楽しいなあ、ダリヤぁ!」
「楽しいぞ、カルダよ!」
あれから5分ほど過ぎただろうか?
拳が、斬撃が、かまいたちが、乱舞する。それに伴い壁や床に深く鋭い傷がついていく。もちろん両者の体にも細かい傷ができていく。細かいとはいえ傷は傷、血が流れ、その分体力は消耗する。
そんな状況でも私たち二人は笑っていた。
「まだまだ足りねえよ!」
「その気持ちはわかる。だが、あまり時間をかけてはいられないのだ!」
楽しいのはわかる。私とて同じだ。しかしあまり時間をかけすぎるとリースの命が危ない。
だから早く終わらせる。しかしどうやって?
もちろん剣技で圧倒するしかないのだが、正直カルダ相手にそれだけでやれる気がしない。
粗暴な物言いではあるが、かなりの実力者なのだ。
「おいおい、寂しいじゃねえかよ!っは!オラア!」
「くっ!またか!」
かまいたちで切り傷が付くのはわかる。だが拳でつくのはなぜだ?
魔力がこもっている跡はない。原理がわからんな。
「なぜって顔してんなあ。でも教えてはやらねえよ!知りたかったら勝つことだ!力こそ正義だからなあ!」
「結構賢いじゃないか。フラグを立ててくれないとは。」
「負けたかねえからなあ。」
その間にも攻防は続いている。思考能力が弱くなってきているな……。興奮しすぎている。まずい流れだ。私にも筋力はあるがこいつほどではない。力押しに勝てる自信はないため、頭で対抗したいところなのだが。普段いかに魔法に頼り切っているかがわかるな。この前のあれは火事場の馬鹿力だったか。
いったん距離を取る。疲労が限界に近い。
「ふー……。」
「どうした?降参するなら構わんぞ?」
やるしかない、か。
「カルダ、次が最後だ。悪いが体力がない。」
「……いいだろう。楽しい時間にはいつか終わりが来るものだ。全身全霊でつぶしてやるからかかってこい。」
片手でふるっていたクリスタルソードを両手持ちに変え、剣道で言う正眼の構えを取る。切っ先を相手の喉元に向ける。
「それが、お前の全力の構えか?」
「ああ、そして貴様の四肢を落とす構えだ。」
「四肢を、か。はっはっは!おもしれえ!やれるもんならやってみろ!」
「私は今できる最高の技を使う。貴様は何を使う?」
「期待されてんなあ。んなら使ってやるよ。かまいたちを超えたかまいたちを。」
最初と同じだ。互いに対峙し動かない。カルドの顔は狂ったような笑顔だ。きっと私も……いや、考える必要はない。今は奴の腕と脚を切り落とすことをのみ考えよ。
精神を研ぎ澄ませ。クリスタルソードに斬れぬものなどない。
「……行くぞ。準備はよいか?」
「ああ、いつでも殺れるぜ?」
最初と違うのは攻撃の順番。先に動いたのは、私だ。
切っ先は動かさず、距離を詰めていく。
「我が元に集え、闇なる者よ。」
時間稼ぎなのだろう、普通のかまいたちを出しながら詠唱を続けるカルダ。
「魂ごと首を落とせ。」
今更かまいたちくらい避けることはたやすい。しかしそのせいで近づくのが難しい。
「そは刈り取る死神の鎌。闇刃!」
詠唱が終わったらしい。黒い刃が飛んでくる。見やすくなっただけのかまいたち。なわけがないだろう。とりあえず避ける。
が。
「ッ!」
後ろからまた飛んでくる。それも首元を狙って。スピードも申し分ない。普通のかまいたちと同じ、いや、それ以上に速いのではないだろうか?
なるほど、これが……。
「これが!貴様の切り札か!」
「お前の切り札も見せてもらおう。全部かわしきってやるから、何もできずに案山子のように死んでいけ!」
「できればいいがな。」
魔力はもう残り少ない。本当に大半使ってしまったのだ。しかし、すべて使ったわけではない。なけなしの魔力を使い切り、とっておきの魔法を放つ。
「あああああああ!超位固有魔法、時流制御!」
固有魔法、それは私の世界でだれもが持つ魔法である。そしてそれこそが私が魔王になった理由でもある。名前の通り、対象の時間を操る魔法だ。魔力を注ぎ続ける限り発動し続けるこの魔法こそ、最強レベルの魔法。
ただし一秒間だけでもかなりの魔力が持っていかれる。
それでもいい。
0.1秒でも、0.01秒でも構わない。
なにせ自分の時間を限界まで速くすれば、瞬間移動と何ら変わらないスピードを得られるのだから。
「カルダよ、私の勝ちだ。」
「な、何?お前、いつそこに来た?」
「たった今だ。それより、なぜ立っている?もう斬ったぞ?」
「は?何言って……。」
動いた瞬間に崩れ落ちるカルダ。当たり前だ。あの一瞬に両腕両脚を切り刻んだのだから。
それと同時に闇刃も消滅する。集中力を要するらしい。
「お、お前……。何者だよ……。」
「勇者に負ける程度のただの魔王だ。」
「あー、負けたな。ていうか魔法か?何で使える?魔力はないんじゃなかったか?」
「嘘をつくのが魔王だ。魔力の大半がなかっただけだ。」
世界の半分を本当に勇者にくれてやったとして、生かしておく義理はない。騙すのも魔王の仕事と言っていいだろう。殺せるのならば勇者は殺す。
「頑丈なんだな、貴様は。」
「馬鹿言え体中痛いわ。」
「魔力は残っているか?」
「一応は残ってるが……。なぜだ。」
「リースに回復魔法を使ってくれないか。」
私にはもう正真正銘魔力がない。真に使い切った。
「わあったよ。敗者は勝者に従うだけだ。」
「やけに物分かりがいいな?」
「もともと魔王が来なけりゃ元に戻すつもりだったからな。だが貫いてから時間が経ってるぞ?もう間に合わないんじゃねえか?」
「あの光景を見た瞬間からリースの時間は止めている。」
そう、だから魔力が残り少なかったのだ。道中の回復魔法程度で枯れるほどの魔力量ではない。それに魔力を割かれていたから魔法を使いたくなかった。それだけのことだ。
最後の攻撃はほとんど賭けに近かった。いずれにせよリースにかけた時間停止は解けていたため、残り少ない魔力量を鑑み、最善の選択をしたつもりだ。
「はあん、時間操作かよ……。端から勝てるわけがなかったな。」
リースの傷が治っていく。本当におとなしくなったな。さっきまでの熱さが嘘のように冷静だ。
「ありがとう、カルダ。」
「それで?俺のことはどうする?」
「そうだな……。貴様、殺人をどう思う?」
「いきなりだな。まあ、あんまりやりたかねえな。意味もねえのに殺すつもりはねえよ。」
思った通りだ。こいつは私と同じような考えの持ち主らしい。違いは……人を傷つけることには抵抗がないことか。それくらいの違いは許容範囲内か。
「カルダ、自分を治せ。」
「はあ?再戦することになるとか思わねえの?」
「貴様はそういう奴ではないだろう?」
「……。お前、でかい男だな。」
「知らん。私は私がやりたいようにやるだけだ。」
「……。」
何も言わずに自分の体を治していく。やがて完全に治すと、地面に座り不意に自らのことを話し始めた。
「俺はただの魔王だよ。強さにゃ自信があるが、それ以外にいいところはねえ。王とは言われたが、別に何を従えてたわけでもねえ。本能に従って過ごしてただけだ。そしたらいつの間にかここにいた。ここに来て初めて自我と理性を得たよ。そんで初めて会った魔王が、お前だ。」
「またいきなりだな。なんだ?」
「初めて戦った魔王がお前でよかったって話だ。お前も俺と同じようなタイプだろ?」
「自我と理性は元から持っていたが、考えが同じなのは認めよう。」
「だろ?お前とはうまくやっていけそうだと思ってな。」
笑顔がまぶしいな。こいつは。
最初はリースを貫かれたせいで起こっていたはずなのだがな。こいつ、かなり純粋な奴らしい。おかげで毒気を抜かれてしまった。
「嘘はついていないか?」
「俺より強いのはわかりきってるのに嘘なんぞつく意味ねえよ。」
「そうか。そういえば火事はお前がやったのか?」
「人の気配がないところに適当に魔法撃った。」
「その分の補填は貴様がやれよ?」
「わ、わかってるよ……。」
こいつほんとに純粋だな!目に邪気がこもってないぞ。本当に魔王なのか、こいつは。
まあ、いいやつではあるのだろう。魔王なのにいいやつとは矛盾しているが。……私も同じようなものか。
その時。
「う、うぅ……。なにが……あったの……?」
「おお!目が覚めたか!リース!」
「ダリヤ?何でここに……。うわっ!何これ!?血!?」
「まあ……いろいろあったんだ。」
「隣の……人じゃないのは誰?」
「俺はカルダだ。まお」
「それは言わなくていい。」
リースが起きたとたんに空気が変わる。こんな光景が広がっていたら普通はまた気絶コースだぞ……。肝が据わっているというかなんというか。やはりリースだ。変わらない。
しかしカルダを見ても身じろぎ一つしないのはすごいな。どこからどう見ても悪魔と呼ぶにふさわしい見た目だというのに。
「カルダ?お金と似てるわね!」
あまつさえそんなことすら言い始める始末。相当鈍感なのか?
「お金?」
「この世界の貨幣の単位はガルダなんだ。」
「なるほどなあ。それで似てる、か。」
リースも起きたし、そろそろギルドに戻りたいところだ。
しかしこの惨状、放っておくわけにもいかないだろう。掃除できるような魔法などない。仕方がない、きれいにしてから帰るか。
「カルダ、これは私たちの不始末だ。掃除するぞ。」
「うえ、めんどくさ……。」
「四の五の言うな。諦めろ。」
「私も手伝う!久しぶりにダリヤに会ったんだもの!長く話したいわ!」
「仲いいんだな、お前ら。」
「いろいろあってな。」
魔法が使える者が二人にここをよく知っている者が一人。そう時間はかからないだろう。
シェリルに心配をかけるな、これは……。
----------------
「申し訳ありませんでした!」
「何でいきなり謝るの?」
「殺しかけたからだ!」
「死んでないから問題ないわ!」
掃除は終わった。一時間もかからなかった。水系統の魔法で洗い流して風、炎系統の魔法で乾かしただけだった。
それはいい、この会話は何だ。なぜ素直に謝る?そしてなぜ許す?カルダよ、お前は本当に魔王か?リースよ、それでいいのか?突っ込みどころしかないな、この二人は……。
「リース、カルダ、そこまでだ。収拾がつかなくなる。」
「「ダリヤ……。」」
「息ぴったりだな!」
「だがダリヤ、一つ問題があるんだ。」
「なんだ?」
「リースは何か……殺したくなるんだ。」
殺したくなる?無意味に人を殺したくはないカルダが?そういえば兵士や冒険者には深い傷はなかった。放っておいても死ぬことはなかったろう。
翻ってリースはどうだ?一歩間違えれば死んでいただろう。ギリギリ理性が勝ったからよかったものの、でなければどうなったことか。
「リース、何か心当たりはあるか?」
「特にないわよ?」
そりゃそうか……。このお嬢様がそんな違和感を感じるわけがなかった。
「リース、頭を触るぞ。」
「いいわよ?」
どう考えても「殺したくなる」、というのはおかしい。リースほど人畜無害な人間もそうはいない。何かあるのかもしれない。
例えば呪いとか。被殺害の呪いなど聞いたことはないが、ないとも限らない。しかしだとしたら私がそうならなかった理由に説明がつかない。
「ッ!?これは!?」
「何があった!」
「……いや、大丈夫だ。」
記憶を追体験した。他人の歴史を覗き見る趣味はないため使う機会はそうそうないが、今一番いいのはこれだと思ったのだが……。
なんだ、これは。リースはいったい何回死にかけている?外に出るたびに何かに殺されかけている。そしてそのことにリース自身が気づいていない。呪いどころの話ではない。
最近下に来れなかったのも後継者争いに巻き込まれ殺されかけていたからだった。
「リース、お前は……。」
「何かしら?」
「……すまん、忘れてくれ。」
そういう体質なのだろうか?死にかけるほど不幸でありながら同時に生き延びるほど幸運である?そんな人間がいるのか?
そう、リースは死にかけているが、そうでありながら今まで生き続けているのだ。
恐ろしい。このような人間が存在すると思わなかった。
しかしその理由がわからない。同時に呪いをかけられているかどうかも調べたが、そんな形跡はなかった。
これが、ただの体質だと?神とは非情なものなのだな。年端もいかぬ少女にこんな運命を背負わせているのだから。
「今日のところは失礼する。ギルドにシェリルを待たせている。」
「シェリルは元気にしてる?」
「ああ、今度連れてくるよ。」
「……俺どうすればいい?」
「……。はあ、偽装魔法かけてやるから一緒に来い。」
こうして一連の騒ぎは収まった。
新たな不安は出てきたが、な。
今度はリースか。さて、どうしたものか。
誤字脱字等報告お願いします。
面白ければブックマーク登録していただけると幸いです。
あれ?魔王さま最強なんじゃ……。(ただし勇者には負ける。)




