【82 】
『証拠があるのだから、ね。』と微笑んで言ったウィル様の瞳の奥は全く笑っていなくて被害者である私でさえ寒気がした。
(絶対に敵にまわしたくない...これからもウィル様には逆らわないでおこう。うん、そうしよう。)
固く誓っているとエリーナ様が恐れずにウィル様に歯向かっていく。
(あの子バカなのかしら。あんな恐ろしい顔をしているウィル様にまだ歯向かうなんて)
「おかしいおかしいおかしいおかしい...」
(ついに頭やられたかな。)
「どうして皆アイツを庇うの!?私はヒロインなのよ!アイツ...ローゼリアは悪役令嬢なのよ!なのになんで!?なんで皆、私を助けずにローゼリアを助けるのよ!ここはゲームの世界なんでしょ!?どうして思い通りにいかないの!」
「ヒロイン?悪役、令嬢?ゲーム?何を言っているんだい。まぁ強いて言うなら悪ってのは君の方だよね。ロゼの何処が悪になるのか分からないな。」
「ウィル様の言う通りですわ。それに貴女がヒロインだなんておかしすぎます。ヒロインはどちらかというとロゼちゃんの方よ。」
(あぁ、何でこんな場所でゲームの話を出すかなぁ。)
ウィル様達に馬鹿にされたエリーナ様は前世の言葉で言う鬼のような形相で自分の爪を噛み始めた。
(令嬢である者がはしたないなぁ〜っていうか、あの癖、何処かで...。)
彼女の爪を噛む姿が前世の時に見た友達のエリカの癖と良く似ていた為、無意識に名前を呼んでしまった。
「...エ、リカ...?」
「え!?どうしてその名前を!?」
ウィル様達に向いていた身体を階段の下にいる私へと向けてきた。
「...貴女、エリカなの!?」
彼女の反応からして前世ではエリカだったのだと確信する。
彼女はどちらかというと引っ込み思案であまり自分から発言しない子だった。まぁオタクという言葉がピッタリな子で学生の時は少しクラスから外れた存在であった。
でも、私は何処か彼女に惹かれていて仲良くなりたくて毎日声を掛けてる内に喋るようになった。オタク用語というやつは中々難しくて全てを理解出来なかったけど楽しそうに話すエリカを見てるのが好きで良く話を聞いていた。
それに私は昔から家族からの愛情というものを貰った記憶が無い。家族との会話はいつも勉強の事ばかり、『良い成績を取れ』『首席をキープ』そんな事ばかりだった為、エリカが話してくれる話は全て新鮮で面白かった。自分自体はゲームはやらないがエリカが教えてくれた乙女ゲームを主体とした小説等を読むのも楽しかった。
(そんな彼女がどうしてここに?私の後に転生してきたの?)
「もしかして...のぞみ、なの?」
「えぇ、そうよ。やっぱり貴女はエリカなのね。でも、どうしてこんな事を!?」
ウィル様達は私とエリーナ様の会話が理解出来ないようで首を傾げている。でも、そんな事に構っている場合では無いのだ。同じ転生者でそれも前世では友達だったエリカが目の前にいる。興奮せずにはいられない。
「どうして、ですって!?前世でも貴女は皆に構われて人気者で本当に大嫌いだった!なのに、今世でも悪役令嬢のクセに皆に好かれているなんてこっちが聞きたいわよ!!」
彼女から放たれた言葉に私は耳を疑った。
「え...だい、嫌い...だった?エリカが、私を?」
「そうよ!いつも皆にチヤホヤされていて成績も優秀で顔だって良くて分け隔ても無く皆に接している“いい子”な貴女が大嫌いだったのよ!」
「う、そ...私そんなんじゃ...。」
「フン、知らないでしょ?貴女が私に話しかける度にクラスの女子から虐められていた事を!大学に入ってやっと貴女と離れられると思ったのに休みの日に連絡来て貴女と会う羽目になる...耐えられなかったわ。だから貴女が死んだと聞いて凄く嬉しかった!安堵したわ、貴女から解放されたのだと!」
知らなかった。彼女がそんな事を思っていたなんて...。
自分は親友だと思って接していた彼女は私を嫌悪していたなんて...
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