【68】
と意気込んだのはいいけれど、食事を持ってきた従者に声を出さぬようにと布で口を塞がれてしまった。
(まぁ予想はしていたけれど...騎士様の言ってた事も本当だったのね。声を出せなくなったならどうしたら...足枷には重りがあるから移動出来ないし...やっぱり...。)
「ふふふ、僕の可愛いお姫様。ここの暮らしは如何かな?」
階段を降りてきたのはいつもの従者でもあの騎士様でも無く、変態のダミエル伯爵だった。
「あぁ~そう言えば声が出せなかったのですね。君の可愛い声が聞こえないのは残念だけど、今からこの屋敷に軽い調査が入るんだよ。皆君が大事みたいだ。でも、君は私の物だからね。見つけられては困るんだ。」
牢屋へと入ってきて私の頬を触る手はとても気持ちが悪い。
「...」
「君は侍女を売らないらしいね。ふふふ、すぐに売るようなら私の元へと連れて行ったのに。まぁもうそろそろだね、君が私の元へと来てくれるのも。今日の事、誰かから聞いたんだろ?でも、残念。ここは地下牢のまた下の牢屋なんだよ。仕掛けもしてあるからこの屋敷を知らない奴はここを見つけられないんだ。」
その言葉を聞いて小さな1つの希望さえも消えてしまった。
「ふふふ、その顔だよ!最高だね。期待していたかい?ここへ仲間が来てくれる事を。言っただろ、君は私の物なんだ。」
そう言うと変態伯爵は私の首へと顔を埋めた。
チクン、と首に痛みが走ったと思ったら変態伯爵は顔を離して私の髪を掴み引き寄せた。
「君は私の物だ。忘れるな。君は大切な侍女を悲しませたく無いだろ?だったら余計な事を考えずに私の元へとやってくれば良いんだよ。」
最後に気持ち悪い笑みを浮かべて変態伯爵は牢屋を去っていった。
「んー!んー!」
たぶんアンナなのだろう。同じように声を出せないようにされているに違いない。アンナは私達の会話が聞こえずにいたので心配してくれているのだと思う。
安心するように伝えたいが私自身も声が出せないので難しい。伝わるか分からないが、大丈夫よ。と言う想いを込めて「うー」と声を出しておいた。
(...どうしよう。この変態伯爵は用心深い。地下のまた地下に私達を隠しているなら誰が来ても見つけられないわね。...ここにエルかエルトを連れて来てくれれば伯爵についた私の匂いに気付いてくれるはずだけど...。)
やはり自分が彼の妾になる以外は方法が無いように思えた。
(アンナだけでも、助かれば...)
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