【67】
(どうすれば此処から出られるのかしら...前みたいに単細胞の馬鹿達だったら軽々出られたのでしょうけど、今回は難しそうね。)
食事はあの無表情の従者が持ってくるしそれ以外は伯爵家の騎士が見張っている為、隙をついて出るということは出来そうに無い。
(あの変態の妾になる事を私が了承したらここから出られるのでしょう、けど...。そしたらアンナはどうなってしまうのかしら?アンナが開放されるのなら...。)
ここへ連れてこられてどのくらい経ったのかよく分からない。食事もバラバラな為、朝食なのか夕食なのか分からないのだ。地下牢なので光も入らず湿っぽいから出来ればここには長く居たくないのだが。
(こんなジメジメ黴臭い場所に長くいると喘息とかになりそうで嫌だなぁ。はぁ~妾、ねぇ。)
「ねぇ、そこの騎士様。」
「何でしょうか?」
「私が伯爵様の妾になると決断したら隣にいる私の侍女は開放されるのかしら?」
「...はい。主は貴女様が妾になるのならほとんどの事は聞いてくれるかと。」
「そう。助かるのね。」
「妾になるおつもりで?」
「貴方の主は喜ぶでしょ?嬉しくは無いの?」
眉を下げて聞いてくる騎士に質問を質問で返す。
「...主は喜ぶでしょうが...貴女様はそれで宜しいのですか?」
「私の大切な侍女が開放されるのなら..」
ガシャン
隣から大きな音を立ててアンナが叫んできた。
「お嬢様!私の為にお嬢様が犠牲になるなど間違っております!!!お嬢様は私の大事な主なのです。それに公爵家のご令嬢なのですよ!選択を誤ってはいけません。」
「...アンナ。でも、私だって貴女がとても大切なの。それにこの方法以外、此処から出る術が無いのだもの。」
「貴女様は最高位である公爵令嬢なのに心が綺麗でいらっしゃるのですね。貴族のご令嬢は皆、傲慢で高飛車で我儘な者ばかりだと思っておりました。」
「まぁそういう人も多いのは否めないわ。それに私は騎士様が言う、心が綺麗な人間なんかでは無いわ。」
「そうでしょうか。自分の侍女を助ける為に自分が妾になる。という考えをなさったのは貴女様が初めてですよ。」
「え?」
「主の妾はほとんどが貴女様と似たように連れ去られて侍女と別々にされてます。ですが、誰一人として侍女を助けた者はおりませんでした。全員、“侍女を渡すから私だけ助けて”と私に仰いました。」
「...それでその方々はどうなさったの?」
「主に報告させて頂きました。主は薬を連れてきたご令嬢達に飲ませて服従...虜にさせております。そして、気に入った侍女にもその薬を飲ませておりました。ですが、主のお眼鏡に叶わなかった侍女はこの世にはいないかと...。」
「そ、んな...」
あまりの衝撃の事実で言葉が続かなかった。自分可愛さに他人を売るのは分かる。けれど、誰一人助からずにあの変態の妾にされているなんて思いもしなかった。それも薬で。
「お、お嬢様!逃げましょう!そんな得体もしれない薬をお嬢様が飲んでは駄目です!」
「...でも、こんな所から逃げるなんて...。こんな強そうな騎士様がいらっしゃるのよ?」
牢屋の外にいるガタイのいい騎士様を見上げながら言う。
「...明日、この屋敷に調査が入るそうです。」
「え?」
「...只今、当たり前ですが貴女様方が行方不明となっていて公爵家や王族も貴女様を血眼になって探しております。その為、貴族の屋敷を調査していると聞きました。明日はここの番だとも。」
では、失礼します。と言って騎士様は自分の持ち場へと戻った。
「...アンナ。大きな音を出せるようにしておきましょう。」
「はい!お嬢様!」
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