【59】
「いっ、」
机の中の教科書を出そうと手を入れたら指に痛みが走った。
(あちゃー紙で手を切っちゃったかも。地味に痛いんだよね、こういうの)
───カチャ
「...針?」
机の中から刺繍で使う針が落ちてきた。ここの学園では刺繍をやる授業は無い。それに私はあまり刺繍をやらないから針なんて持ってこない。
不思議に思い、机の中を見てみると教科書に挟まった何本かの針があった。
「え...」
運良く(?)1本の針にだけ当たったのでそこまで出血はしていないけれどこれ全て刺さってたり奥までいってたら笑い事では無い。
「誰が、こんな、事を...」
「...リア?これ...針?」
「...え、えぇ。家で刺繍をした時に入り込んでしまったのね。拾ってくれてありがとう、ルー」
「ん、リアが刺繍?」
「...た、たまにはやるのよ、刺繍も!少し掠ったみたいだから消毒してくるわね。」
「...」
机の中にあった針も片付けてすぐに席を立ち、教室を出た。
「...あんな地味な悪戯をするなんて...誰なの」
(嫌がらせ、なのかな...でもなんで!?もしかしてあのイケメン達と仲が良いから?...でも、割とここの令嬢とは上手くやっていけてると思ってたんだけど...。でも、腹の中で何を考えてるかなんて分からないものね...。もう少し様子見ね。)
針で痛めた傷はもう出血は止まっていた為、そのまま気持ちを落ち着かせる為に学園の温室へと足を運んだ。
「...落ち着く、わね。」
キツすぎない花の香りが温室全体に広がり心を穏やかにしてくれる。
「一体誰の仕業なのか全く分からないのが、怖いのよね。前みたいな事に成りかねないからソフィア様達に相談した方が良いんだろうけど...まだ今日のこの針だけじゃ分からないし...これで続いて行くようなら相談しようかしらね。」
本当に些細な嫌がらせは毎日のように続いた。
最初の針に続き教科書が外に捨てられていたり靴が中庭にあったりと微妙に地味な嫌がらせだ。でも最近では“呪いの人形”みたいなものが机の中に入っていた。これにはさすがに驚いた。
小さな女の子の人形に私の名前が下手に刺繍されていてそこに針が刺さっていた。一緒に入っていた紙には“消えろ”と書かれていた。
私は流石に怖くなりソフィア様を初め、ウィル様、エル、ルーに相談する事にした。
「...ここ数日、嫌がらせが続いてまして。最初は気にし過ぎなのかしら。と思っていてあまり深く考えていませんでした。でも、最近では...この人形が机の中に入っていて、流石に怖くなってしまいまして...。」
最初の嫌がらせから最近のまでとりあえず取っておいたのでそれを皆に見せる。アレンとアンナには最初の嫌がらせがあってから伝えてある。
「針に始まって、この人形とは。あまりにも性格が悪いな。」
ウィル様は深刻な表情で人形を見つめていた。
「怖かったわよね、ロゼちゃん。相談してくれてありがとう。でも!もっと早くても良かったのよ!」
「ありがとうございます、ソフィア様。無視をしていればすぐにやめるかと思っていまして...。」
「ロゼに嫌がらせなんて、許せない。この人形はこの国では呪いに使われる奴なのか?」
「たぶん極一部で使われてるやつ。リアの名前が刺繍されてる、凄く下手だけど。」
「そうね、とっても下手だけど一応ロゼちゃんの名前がここに刺繍されてるから少なからず効果はあるかもしれないわね。でも、下手だから無効になってる可能性もあると思うのよねぇ。」
「アーステル国では見た事が無い。どういう効果があるんだ?この人形には。」
私もこの人形についてよく分かっていない。前世で似たようなやつあったなぁ。位にしかおもっていなかった。ウィル様が説明をしてくれる。
「この国でもあまり使われていなくてこういうのを使う奴はルーカスが言ったように極一部の人間なんだよ。誰かを憎んだりしている人間がその人間を不幸にしたくてこの人形に名前を刺繍して毎日呪いの言葉と共に針を刺していく。例えば呪いたい人の声が憎ければ人形の喉に針を刺していく。『声よ無くなれ』なんて言葉と共に刺していくと効果が発揮される。って聞いた事があるけれどまさか本物を見られる日が来るとは思わなかったよ。」
この国の人間はあまり信じていないからね。と最後に一言いってウィル様は人形を観察し始めた。
「では、この人形の場合はどうなるのでしょう?人形の身体全体に針が刺さっているという事は...その紙に書いてあるように私に消えて欲しいって事を意味している...という事になりますよね?」
「まぁそうなるかな。でも、あまりにもこの刺繍が下手だから効果があるとは言いきれないかな。まぁ無いとも言いきれないから今の所、何とも言えない。」
この人形についてウィル様の方で色々と探ってくれるとの事だったので一応お任せする事にした。
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