【37】
「ローゼリア様少しよろしいですかぁ~?」
「えぇ」
ある日の私に珍しくエリーナ様が声を掛けてきた。彼女の後を着いていくと人気がない中庭までやってきた。
「...ローゼリア様、どうしてエリック様と婚約していないのですかぁ~?」
「え?」
「おかしいのですぅ~。公爵令嬢でありエリック様と同い年のローゼリア様が何故エリック様と婚約していないのか不思議なのですぅ~。...それに悪役令嬢らしくも無いおかしい。」
(最後の方、悪役令嬢って...本当に転生者みたいね。)
「それはエリック殿下や陛下が決める事ですわ。私が言える事は何もありません。貴女、エリック殿下の婚約者になりたいのでは?」
「私は婚約者になりたい訳ではありません~。」
「...貴女...転生者、なのでは?」
「...え!?」
“転生者”の言葉に反応したエリーナ様。目を見開き口をパクパクしている。
(いつもの可愛らしいお顔が台無しだよ。)
「やっぱり...そうなのね。」
「やっぱり!?なら貴女も転生者なの!?...私だけじゃない訳!?」
「そうみたいね。貴女が前に逆ハーエンドとか言っていたからもしかしたらと思っていたの。あの乙女ゲームの事を言ってるのでしょう?」
「えぇそうよ!私はこの乙女ゲームが好きだったの。だからヒロインに転生出来て凄く嬉しかったしそれをそのまま体験出来るのよ。最高だと思わない?まぁ貴女は悪役令嬢になんかに転生しちゃって残念ね。...でも、貴女がちゃんとシナリオ通りに動かないから全然シナリオ通りにいかない!!」
先程までの語尾を異様に伸ばす話し方では無くごく普通の口調に...否、少しキツめの上から目線の口調に変わっている。これがエリーナ様の本当の話し方なのだろう。
「シナリオ通りに、ね。でも、それだと私は確実にバッドエンドになるのよ。まぁ幼少期に転生したんだと気付いてから断罪式があるであろう卒業式までは私の自由に生きることに決めてるの。」
「だ、だからなのね!!!やめてよ。そういう事するの!!!」
彼女はいつものおっとりした顔立ちからイメージもつかない目を吊り上げた形相でいきなり私に詰め寄ってきた。
「私はリアル逆ハーレムを目指しているの!貴女がエリック様と婚約してくれないと困るし貴女はシナリオ道理に行っていたらルーカス様に嫌われていて酷い言葉を毎回言われているはずだし、ウィリアム様とソフィア様は仲悪いはずでソフィア様も悪役令嬢のはずで、ユリアス様も貴女を馬鹿にした発言で嫌われているはずなのよ!!!そ、それなのに全く逆で私が入る隙が全くないじゃない。どうしてくれるのよ!!!!」
(...え、いや、どうしてくれる。と言われても私は乙女ゲームやった事ないからどうやって進んでいくのかも知らないし適当にここまで来たから困るんだけど。)
「はぁ、私はその乙女ゲームやったことが無いので自分がどう動けば良いのかわからないのよ。それに分かっていたのなら尚更断罪されないように回避しているわよ。」
「...は!?貴女やった事ないわけ!?...もしかして小説読んでたとか言わないわよね?」
「え?...まぁ前世では友人が良くこの乙女ゲームをやっていて語っていたから何となく内容は知っているだけだし。どちらかというと悪役令嬢が活躍するような小説の方が好みだったわ。」
「...そう。まるでのぞみと一緒ね。...まぁ良いわ!私は逆ハーエンドを目指しているの!だから邪魔しないでよね!早くエリック様と婚約してよ!良いわね!?」
(え!?今のぞみって言わなかった?...気の所為かな?まぁ良いや、面倒だから早く終わらせたい。)
「...嫌よ、エリック殿下と婚約なんて。卒業式までのんびり過ごしたいのだもの。話がそれだけなら私は帰るわ。」
それだけ言って彼女の返事を聞かずに私は馬車が停めてある場所まで歩き出した。




