【102】
「ねぇリノア様、私ね...」
「貴女のお陰で自分の中の恋というものに気付いたのです。」
「え?」
リノア様がいなければきっとこんなにもすぐに気付かなかったかもしれない。一応エルに好意を向けられてはいたけれど気付かずに終わっていたに違いない。
「恋というものが何なのか分からなくて...だからリノア様がエ...ラウス殿下を慕っている様子を見て羨ましいとも思いましたの。私の近くにいるソフィア様とウィリアム殿下は政略結婚ではありますが仲良しです。しかし、リノア様の恋する乙女のような振る舞いはソフィア様にはありません...いえ、ほとんどの貴族がそうだと思いますの。」
「...ここの国は思いあってもいないのに結婚するの、か?」
「ええ、家の為の結婚が当たり前です。アーステル国は違うのですか?リノア様が公爵令嬢だからラウス殿下との婚約があったのでは?」
「ううん、わたしとラウスは本当にただの幼馴染なんだ。正式な婚約とかは無い...わたし達の国はほとんどが恋愛結婚が多い。まぁ王族は別だったりするけど...お父様がわたしをラウスのお嫁さんにしようとしたのは、わたしとラウスが同い年でお父様とラウスのお父様...国王が友人だったってのも大きいの...だから家の為とか権力の為にって訳じゃないわ。」
「そうなのですか、それは羨ましいわ。」
この国...いや、ほとんどの国は恋愛結婚よりも政略結婚が多いはずだ。ただ、政略結婚でも私の両親のように恋へと発展する事も多々あるみたいだけれど、そうならなかった家は愛人を囲っている所も多い。
それが貴族なんだと思っていた。でも、心のどこかで前世のように自由に恋愛がしたいとも思っていた。前世の時、恋人はいたりしたけれどそれは相手に言われて断れなかったから付き合ったもので、自分が好きだ!と思って付き合ったわけでは無かった。
だから、この世界では自分が好きだと思った相手と結ばれたらどれだけ幸せだろうと思ったりもした。
(そんなの夢のまた夢なんだと思ってた。ううん、そもそも私に恋というものが芽生えるのかさえ分からなかったんだよねぇ〜)
「人の国は複雑なのね。...わたし、途中からラウスの気持ち知ってたの」
「気持ち?」
「うん、ラウスと出会った頃はお互い遊び相手としか見てなかった。お父様が将来の旦那様だよ。なんて言ってたけど最初は実感わかなかった。...でも、一目惚れでもあったんだと今は思う...それにお父様がずっとラウスのお嫁さんだ!って言うから自分でもそうなんだって思うようになって、そしたら会う度にどんどん好きになっていったの。」
頬を染めながら話すリノア様は物凄く可愛くて抱き締めたくなった。しかし、話の途中でまた暗い表情へと変わった。
「好きになればなる程、ラウスはわたしを友人でしか見てないって分かったの。それにラウスが誘拐されてアーステル国に帰ってきてからはそれが確信に変わった。剣の稽古や勉強ばかり、偶に会うと貴女の...ローゼリア様の事ばかり話すようになっていった。ラウスが頬を赤らめてローゼリア様の話をするの...それがツラくて...でも、やめて!なんて言えなかった。そんな事を言ってしまったらもうラウスと話せなくなると思ったから...そしてラウスがこの国へと留学するって聞いて、わたしも噂のローゼリア様を見たくて来たの、よ。」
「...」
リノア様がゆっくりと語ってくれる話にどう返して良いのか分からず、そのまま黙っていた。
「ローゼリア様に直接会えて話して...分かったわ。」
「...何がです?」
「ラウスが惚れる理由」
(エルが、惚れ、る...理由?)
自分では分からなくてリノア様の言葉に首を傾げた。
「外見は女神様のように美しくて、ちゃんと自分の意見を持っていてとても強かなんだもん。それに飴と鞭もちゃんと使い分けていてラウスの轡を持っている感じがした。」
(飴と鞭って...てか轡って...なんか褒められてる気がしないんだけど...)
「わたし達、獣人にとってローゼリア様は物凄く魅力的なの。...だから、ローゼリア様と会った時にライバル宣言しちゃったけどあれは最後の悪足掻きみたいなものだったんだ。」
そう言うとこちらに向けてリノア様は力無く笑った。
「ラウスの事、本当に本当に...本当に好きだったの。でも、わたし、ローゼリア様の事も好きになっちゃったんだよねぇ。」
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