目が覚めるとコンビニで
~~♪
コンビニの入店音っぽいものが聞こえる。
誰かが店の中に入ってきたようだ。
「・・・うう、ここは?」
いつの間にか寝ていたのだろうか。
気がついた僕はコンビニのフードコーナーの一席に座っていた。
フードコーナーは入り口から入って直ぐ右手側にあり、商品を購入するカウンターに隣接している。
フードコーナーにはお湯の出るポッドが一つ、電子レンジが二つ、コーヒーのドリップマシンが一つ置かれている。
記憶が曖昧だ、なぜこんなところで寝ているのだろうか。
周りを見回すとぼくと同じように、椅子に座り込んで寝ている人たちがいる。
僕の左に男が3人、右に女が3人並んで座っている。
僕は寝ている人たちを揺り起こす。
だれか事情を知っている人はいないだろうか?
「すみません、起きてください。」
次々に肩を叩いて起こすと全員が先ほどの僕のように、ぼんやりと周囲を見回している。
どうやらこの状況を把握できている人はいないようなので、他にこの状況を知っているであろう人物に声を掛ける。
正直声を掛けたくなくて、先に近くに座っている人を起こして回っていたが、接触しないといけないようだ・・・。
その人はカウンターの中に佇んでおり、ワインレッドのスーツの上にエプロンを着ており、その視線はサングラスで隠れていた。
皮膚は青く、陶器のようにつるつるとした光沢を持っている。
髪は鮮やかなピンク色のアフロヘアーで、その大きな髪型を含めると2メートルを超える大柄な男性だ。
その男性は微動せずに直立している。
・・・本当に人間なのだろうか?いや見た目で人を判断してはいけない。
おそるおそる怪人物に近づくと、こちらに振り向きサングラス越しに目があった。
サングラスは金縁の円型だ。怪しさ抜群だ。
「こ、こんにちわ」
「ええ、こんにちわ。体調に異常は見られますか?」
「あ、大丈夫です。」
勇気を出して声を掛けたが声は上擦り、言葉は噛んでしまった。
でも相手は日本語で対応してくれ、こちらの体調を気遣う素振りもあったので多分大丈夫だ。
「あのー店員さん、僕たちは一体いつから寝てたか分かりますか?」
「君たちは一時間ほど前から席に座って寝ていました。」
一時間前・・・ダメだ、なんで寝ていたが覚えていない。
店員さんが何か知らないか聞いておこう。
「えーと、寝る前の僕は何をしていたか分かりますか?」
「君たちは何らかの事情で若くして絶命し、その死後肉体と魂を再構築されました。だから寝る前になにもしていない。」
店員が僕にそういった。
最初は何をいったか、全く理解できなかったが・・・。頭痛とともに少しずつ記憶を取り戻していった。
そうだ僕は・・・・・・。
「うあああああ!くっそがーーーー!」
金色に染め上げた髪を後ろでまとめた髪の長いヤンキーみたいな女が、突然叫び声を上げながら床を叩いている。
その光景に周囲が戸惑っていると、四つん這いだったヤンキー女は立ち上がり店外へ飛び出ていった。
だが直ぐに店内に戻ってきて、店員に掴みかかった。
「なななな!」
「なんだい?」
「なんかでっかい蜘蛛がいるんですけど!すっげーっでっかい木がいっぱいあってよ!一体ここはどこなんだよ!あたしは役所に行く途中でっ!」
「ここは君の知る場所ではないね。君は申請書を役所に提出するために、原付きに乗っていた。そして飛び出た子供を避けようとして、そのまま電柱に衝突して死んだ。」
「あ、ああ・・・。」
店員の優しく教えるような声色は、ヤンキー女のなにかをそっと崩したようだ。ヤンキー女は膝から崩れ落ち、床に座り込んでしまった。
店内が重苦しい空気に包まれた後、店員は大きく頷くと口を開いた。
「ちょっと手を借りる。」
店員はヤンキー女の手を取るとその手にアフロの男が描かれたお札を入れた。
その手品に周りの人たちは驚いているが、ヤンキー女は無反応だ。
店員は飲み物を手に取り、カウンターでバーコードを読み取った。
その後ヤンキー女を立たせるとカウンターに置いてあるカードを読み取るような機械の上に手を置かせた。
するとポーンと軽い音がなった。
電子マネーを支払ったようなそんな音だった。
「はい、ちょっと立ちなさい。でここに手を置いてと・・・。こうやって商品を購入することが出来る。一人当たり1万APあげるから、君たちも手を出しなさい。」
ヤンキー女をフードコーナーに誘導した店員は僕たちに向き直るとお札を取り出したそういった。
僕たちの手に次々と謎のお札を入れていく店員と、入れられた手を不思議そうに眺める僕たち。
痛みは特になかったが、なんとなく入っていく感覚を僕は覚えた。
僕がその不思議な感覚に気をとられていると、店員はカウンターの中に戻ってしまった。
いろいろあって考えがまとまらないので、一旦フードコーナーに戻って同じ境遇の彼らと意見を交換することにする。
僕がフードコーナーに戻ると、坊主頭の筋肉質な男と長い髪を後ろでくくった無精ひげの男が声をかけてきた。
ヤンキー女は他の女性に声を掛けられているようだ。
「こんにちは。お疲れさん。」
「こんにちは。よく店員に話しかけれたね。」
「こんにちは。あの店員、すごい見た目ですよね。」
「とりあえず状況の確認とか、意見交換の前に軽く自己紹介といかないか?」
坊主の男性はそう切り出すと、自分に注目を集めるためにごほんと咳払いをした後、すこし緊張した面持ちで話し始めた。
この状況に戸惑っているのだろうか?
「俺は古暮水星、土建屋をしてたが、高所から滑落して気がついたらここで寝ていた。店員が言うことが正しいなら、多分俺は死んでるだろうな。見ての通り力仕事は得意だ。」
坊主の男性・・・アースさんがした自己紹介に大きなリアクションをとった人はいなかった。
皆一様に呆気に取られたというか、さっきまであった重い雰囲気というか緊張感は無くなっていた。
アースさんは坊主頭の色黒な男性で、体はがっしりとしている。年は40くらいだろうか?服装は黒っぽい長袖に、濃い灰色のベスト、灰色のニッカポッカにゴム底の足袋を履いている。多分とび職だったのだろう。
「じゃあ、お次は私ですね。私は蔵村悪魔王です。一応漫画家やってます。まあまだ連載をもってなくて、アシスタントなんですが。私の最後の記憶はお酒を飲んだ後、お風呂に入ったのが最後ですね。多分溺死だと思います。絵には自信ありますよ。」
髪の長い男性・・・ルシファーさんが自分の髭を触りながら自己紹介をした。大体だが、僕たちの共通点が分かってきた。
ルシファーさんは肩に掛かるくらいの髪を首筋でまとめている色白な男性だ。年は30・・・いってるかな?服装は上下灰色のスウェットに健康スリッパだ。
・・・死因と服装が合わないな。僕がそう考えていると、ルシファーさんが目で僕に合図を送ってくる。
「えっと、原木ポチ(はらき ぽち)っていいます。高校二年生です。テニス部に入っていました。僕の死因は交通事故です。トラックにこう横からいく感じで当たったと思います。以上です。」
僕の自己紹介を聞いて短い髪の女性が笑顔になる。嫌な感じの笑顔ではないが、なんだろうか?
アースさん、ルシファーさん、そして僕とこれまで時計回りで自己紹介してきたのでちょっと離れているが、僕の左にいるオカッパの青年のほうに視線を向ける。同調圧力というものだろうか。
「ぼくか?倉富神王だ。高校三年で、まあ特に部活はやっていなかった。帰宅部だな。死因は他殺だ。思いっきり腹を刺されたんだ。これでいいか?」
オカッパの少年・・・ゼウスさんは青い顔でお腹を触りながらこっちを見やった。正直僕より小柄だったので、年下だと思ってた。それにしてもゼウスか・・・ミカエルとかならルシファーさんと関連性があって、面白かったのにな。
ゼウスさんは顎くらいまでのオカッパで見るからにサラサラとしそうな髪質だ。顔は童顔で少し幼く見える。服装は黒の学生服を上までボタンをしており、首元には校章がついている。襟はラウンドカラーで、制服はスリムタイプのようで体形に合っている。靴はローファーでよく磨かれている。上から下まできっちりしており、几帳面な性格をしているのかもしれない。
次は女性陣の自己紹介の番だ。もう周りの人も感づいているのか、期待感に満ちた顔をしている。
「じゃあじゃあ!次はわたしね!岩代猫子だよ。高校二年で、バレー部で。死因は分かんない!犬子は覚えてる?」
「ううん覚えてないよ。私は岩代犬子です。姉さん・・・にゃんことは双子の姉妹です。私は美術部に所属してました。」
髪が外に広がったショートボブの女の子・・・にゃんこさんと、
髪が内側に丸まったセミロングの女の子・・・わんこさんは双子の姉妹みたいだ。
にゃんこさんは活発で明るく、わんこさんは大人しそうな感じで対照的な印象を受ける。
二人とも服装は同じで、上は白のセーラ服に襟に薄い灰色の三本線、大きめな灰色のスカーフに、下はジャンパースカートのような濃い灰色の片返しヒダのスカートを履いている。
・・・この制服はかわいいことで知られている赤牟高校の制服だな。
そして最後の一人、ヤンキー女の自己紹介だ。
彼女は金髪ポニーテールで、背中にイカの描かれたスカジャン、スキニージーンズ、赤い線の入ったスニーカーを履いている。
「・・・あー、あたしは得丸怒羅金。大学二年。死因はあのアフロ店員が言ったとおりだ。」
「はい!お姉さんはなんの申請で役所にいったんですか?」
「あー、うーんもう名乗ったし、こいつらならいいか。まあ、あれだ改名申請だ。このあほらしい名前を変えようと思ってたんだが・・・。ちくしょう・・・。」
「あっ・・・ごめんなさい・・・。」
「別にいいさ。あほみたいな名前のやつしかいないからな。」
ヤンキー女のその言葉に、周りが同調していく。
うすうす感づいていたが、ここにいる人たちはみんなへんてこな名前の持ち主が集められていることが分かった。
全員がおのおのの名前に不満を持っていることに共感を持ち、仲間意識を感じたところで、アースさんとルシファーさんがドラゴンに外の状況について聞き始めた。
「それでだがドラちゃん。」
「ドラちゃんやめろ。青狸みてえだろ。」
「じゃあどう呼べと?」
「ドラゴンでいい。それでなんだ。」
腕組をしたドラゴンに平謝りしながらアースが続ける。
「ドラゴンちゃん、外はどうだったんだ?さっき店員に蜘蛛がどうとか、木がどうとか言ってたよな。」
「あ、それ。私も気になってました。でっかい木ってどれくらいですか?」
「いっぺんに聞くな。・・・外に出た時なにもかもが馬鹿でかい森の中だった。木も草も虫もだ。木は枝ぶりと落葉の多さから落葉広葉樹だな。落ちてた葉はあたしよりも大きかったけど多分ブナの木の葉だな。落葉があるってことは乾季があるか、冬が寒いんだろう。木が密集しているせいで、結構薄暗い感じだな。草もそんな生えてなくて見通しはいいな。木の間はかなり離れているな・・・100mくらいか?木の高さはこうぐっとそらして見上げても見えなかったから100・・・いや200は軽くあるだろうな。木の太さと相まって高層ビルみたいだったぜ。あとは蜘蛛だったな。ちょっと遠めでわかりにくかったが、なんかずんぐりしてたな。その辺の草より小さかったから私と同じくらいの体高はありそうだったぜ。・・・ってなんだよ。」
「「「「「「・・・。」」」」」」
「なんで黙ってんだよ。」
急に賢くなったドラゴンに全員が沈黙する。
なんとなくポンコツっぽい感じがしていたのに、裏切られた気分だ。
「ドラちゃんのくせに」
「ドラちゃんいうな!って誰だよ!」
肩にかかるくらいの髪を横でまとめた少女がドラゴンをからかった。
少女に同意したい気分だが、彼女は誰なのだろうか?
「いらっしゃいませ。ゴッデスマートにようこそ。今ならホットスナックが10APでお徳でーす。いかがですか」
「店員かよ!」
店員だったわ。アフロと同じエプロンしてたわ。
ゴッデスマートとか安直過ぎるわ。
「ドラちゃんどうどう」
「ドラちゃん落ち着いて」
「ドラちゃん言うな!」
アースさんとルシファーさんがドラちゃんで遊んでいる間に、店員Bに向き直る。
Tシャツにエプロン、ジーパンにスニーカーを着ており、
黒髪をサイドでまとめたちょっとジト眼な女性だ、年齢はドラちゃんと同年代に見える。
「すいませんうるさくしちゃって」
「あ、いーのいーの。店長がなんも注意しないし、聞きたいことがあったら遠慮せず聴いてよ。ポチくんはなにか聞きたいことある?」
「じゃあ早速で悪いんですが、ここはどこですか?あとお名前は?」
「ここはゴッデスマート、君たちの生きていた時代の商店の構造を真似た施設だよ。座標的にはどこでもないよ。私はA子でいいよ。」
フードコートに置いてあったポットに手を触れながら、A子はそういった。
色々と突っ込みどころが出てきたが一つずつ潰していこう。
「ゴッデスマートの由来は?」
「店長が外の人に神様扱いされているからだね。ちょいと前は商館みたいな感じだったんだ。でも気まぐれで今の内装になったよ。」
「どこでもないというのは?」
「あそこの出入り口はどこからでもどこへでも繋がるんだ。地表でも、宇宙空間でもね。あっそうだ。目を瞑ってみて。」
「なんでですか?」
「やってみて貰ったほうがわかるから早く」
A子の誘導にしたがって目を瞑る。
特に何も見えないが・・・いやなんかあるような?
「右下のほうになにか透明な箱があるでしょ。そこに意識を集中させて。」
右下の箱に意識を集中させると、箱を開いているような感覚を覚える。
箱の中には10000APという表記と入店許可証原木ポチ様と書かれたカードが入っている。
「っ今のは!?」
「見えた?今のが君たちの中に勝手につけられた神造物!いわゆるアイテムボックスだよ!タイプは保管箱60A、長さ 240mm幅185mm深さ150mmの極めて一般的なサイズで、その大きさ以下のものならなんでも入れられるけど、特に時間は止まってないし、衝撃で破損するから生き物をいれるのはお勧めしないよ!ちなみに60APでお求めできます!いかがっすか!」
急に片手で目を隠してポーズを取るA子、へんてこな機能を一気に紹介してくれた。
さらっと商品説明をできるのは素直に感心する。
しかしアイテムボックスか、小包サイズだが普通に凄いな。
「おーほんとだ。なんか見える。」
「うーんなかなか難しいですね。」
「おい!あたしのだけ9900APなんだが!」
「ドラ姉さんのはアフロの店長さんが使ってたよ。ほらそこのココアのために。」
「マジかよ!飲んじまった!」
後ろで聞き耳を立てていた奴らが煩い。
聞きたいことがあるなら乱入してこいよ。
「あー神造物って何?あと入店許可証について説明お願いします。」
「神造物というのは店長がつくった特殊な品物のことで、さっきの保管箱は付与型に分けられるね。他にも武器だったり、防具だったり、色々店内に売られているからあるからじっくりと見ていくといいよ。それと入店許可証だけど、そのままの意味だよ。君たちの持つ入店許可証を持ってないと、ここには入れないのさ。使い方は簡単だよ。それを所持したまま、壁面に触れると入り口が現れる仕様になっているからね。」
「もし紛失したら?」
A子は立ち上がるとカウンターに手を置き、先ほど店長が使っていたレジ横の機械を触りながら、
続けて説明してくれた。
「カウンターで再発行できるよ。店内には別の人に入れて貰ってね。あと新規発行は受け付けてないよ。」
「あれ?許可証がないと入れないんじゃないの?」
「入り口が開いたら店内には入れるさ。でも許可証がないと何も買えないし、こっちとしては不法侵入者として扱うから気をつけてね。いろんな意味でな。」
つまり入店許可証には入り口を開ける機能と購入する権利の二つの役目があるわけか。
不敵な笑みを浮かべたA子はカウンターから離れると入り口の傍にあるアイスケースとコピー機の前を通りすぎ、
色々なカードが下げられているカード掛けの前で止まるとその中から一枚のカードを持ってくる。
手渡されたカードの中央には輝く宝石とそれを見つめる眼の絵が描かれており、また下側には鑑定眼1000Pと書かれた。
「とりあえずこれ買っとくといいよ。使い方は保管箱を開くのと同じだ。」
「鑑定眼?」
「そ、この店の商品の説明や、外の植物とか、動物とかがどういうのかざっと分かるよ。まあ、集中する必要があるから咄嗟には使えないけどね。」
「それは便利だな!ちょっと買ってくる!」
「ドラちゃんは元気だな」
A子の説明を聞いてドラちゃんは即座に鑑定眼を買いにいった。
貰ったポイントの10分の1をあっさりと使おうとするとは・・・・・・。
まあ、A子のおすすめだし、僕も買っておこう。
さてどんな商品が置かれているのだろうか?