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43.魔法結社のアジト その2

 そこからは魔法使いの妨害は殆ど無かった。

 上からの音が大分激しいので、そちらに集中しているのかも知れない。

 

 ステル達はあっさりと一階の中央にある書庫に到着した。

 図面通りなら、この書庫こそが脱出用の地下室を備えた場所である。

 書庫の扉は開いていた。

 ステル達は奇襲と罠に警戒しつつ、そっと中に入る。

 

 かつては豪華な蔵書が詰まっていたであろう書庫は実に寂しい姿となっていた。

 重厚な作りの書架は今は空っぽ。更に書類が床に散乱している有様だ。


「奴ら、資料を処分していたな……」


 資料を拾って目を走らせたラウリが言った。

 人の気配はないが、十分に警戒しながら、ステルは書架の一画を見る。


「ラウリさん、地下に出入りした形跡があります」


 荒れた空間の中、不自然なほど整然と資料が詰まった書架の一画。

 地下への入り口とされていた場所だ。

 あからさますぎて、逆に警戒してしまう状況である。


「わかりやすすぎるな……」

「罠かもしれませんね。入った瞬間、魔法で焼かれるかも……」


 その可能性は大だろう。

 だからといって、調べないわけにもいかない。

 どうすべきかステルが判断しかねていると、ラウリが口を開いた。


「よし、ここから穴を開けて様子を見よう」


 図面によれば秘密の地下室はそんなに深くない場所にある。

 入り口である書架の向こうに大きく深い穴を開ければ見渡せるかも知れない。

 少なくとも、正規の手順で中に飛び込むよりは安全に思えた。

 ステルは素早く懐から投げ矢と明かりの魔導具を取り出した。


「いつでも大丈夫です」

「よし、危険を感じたら逃げるように」


 言うなりラウリが槍を強めに振った。

 穂先は書架の向こうの壁に当たり、大穴が空く。

 すかさずステルが魔導具で光を作って内部に投げ入れた。

 二人は穴から離れて、様子を見るが、反応は無い。


「気配を感じないな……」

「見てみます」


 投げ矢を手に、注意しつつ穴が空いて露出した地下を覗く。

 明かりに照らされたのは快適そうな部屋だった。あまり使われていなかったらしく、少し埃っぽい。

 狭い部屋だ。ステルの投げ込んだ光で部屋全体が十分見渡せる。

 おかげでステルはすぐに気づいた。

 部屋の奥にある扉。恐らく脱出口への入り口。そこに新しい足跡が残されていた。


「ラウリさん! 誰かが逃げた跡があります! 新しいです!」

「追うぞ! 罠に気をつけて!」


 ラウリが書架の一部を少しいじると、道が開いた。

 ステルは部屋に飛び込み、脱出路へ向かう。

 魔導具で明かりを作り、罠らしきものがないか注意しながら進む。ステルの目にそれらしきものは確認できない。

 とはいえ、魔法使いの素質のないステルの目から見ての話だ。

 魔法的な罠が仕掛けられていたら、手出しはできない。


 幸い、敵も罠を設置する時間がなかったらしく、あっさりと外に出ることができた。

 脱出路は屋敷の敷地外にある林に繋がっていた。屋敷の元の持ち主の土地だった場所で、今はアコーラ市の所有に変わっているという。

 情報に寄れば林の中にいかにも目立たないように作られた物置が、脱出路の出口だ。

 

 警戒しながら歩くステルの視線の先からは光が差し込んでいた。

 出口だ。何かが動く気配は無い。投げ矢を握って、そっと様子を見る。

 物置小屋には誰もいなかった。

 どうやら結社の人間は脱出済みのようだった。


「もう、外に出ていますね……」

「念のため、ここにも人員を配置しているが……」


 二人がそんな会話をした時、外から声が聞こえた。

 怒号と悲鳴。それと戦いの音も一緒だ。

 即座にステル達は行動。武器を手にしたまま、外に出る。 


 外では戦いが終わった後だった。

 魔導杖を持つ男が一人と、倒れた冒険者が二人。

 冒険者側の敗北の瞬間だ。

 とどめのつもりだろうか、男が杖を掲げたのを見て、ステルは反射的に叫んだ。


「待て!」


 ステルの声に驚いた魔法使いがこちらを向く。

 若い茶髪の男だ。

 戦い慣れているのだろう。魔法使いは驚きつつも杖をこちらに向けてきた。

 ステルが動く間もなく、小さな火球が飛んできた。


「くっ!」


 動くのが遅かったと悔やみつつ、ステルは火球目掛けて投げ矢を投擲。

 ステル達と魔法使いの間の空間で爆発が起きた。

 爆音の後、熱い風がステルの顔にぶつかってくる。

 火炎の向こう、この機を逃さず魔法使いが逃げようとしているのがうっすらと見えた。


「逃がさない!」


 この程度の炎、ステルにとっては障害ですらない。

 火も熱も一瞬で消えてしまう上に、身体を焼きにきているわけではないのだから。

 ステルは落ちついて、用意していたボーラを取り出し、投げるために手元で振り回し始めた。

 既に爆発は収まり、逃げる魔法使いの背中が見える。

 大丈夫、射程距離内だ。この程度、狩りで慣れている。


「いけっ」


 ステルの手から高速回転するボーラが放たれる。

 二つに分かれた先端に重りを仕込んだロープは、ローブ姿の割に健脚ぶりを見せる魔法使いの足を見事に捕らえた。

 魔法が収まりよく見えるようになった視界の中、いきなり足を拘束された魔法使いは勢いよく転倒した。


「うん。上手くいった」


 これなら大した怪我はしていないだろう。

 やろうと思えば、重りを頭に当てることもできたのだ。加減したことを感謝して欲しい。

 

「見事なものだね」

「山の動物に比べて、大抵の人間は遅いから狙いやすいです」

「ステル君はたまに恐ろしいことを言うな……」

「そうですか?」


 なぜかラウリが戦慄していた。

 よくわからないので、ステルは次にやるべきことを考える。


「そうだ。やられちゃった人を助けないと」

「そうだな。見た感じ、怪我は軽そうだが。しかし、逃げていたあの男……違うな」

「違う?」


 冒険者に駆け寄ろうとしていたステルが足を止める。

 ラウリが眉間に皺を作り、深刻な顔をしていたのが気になったのだ。


「魔法結社『探求の翼』の首魁はカッツという金髪の男だ」


 ステルがボーラで転倒させた男の髪は明るい茶色。髪に赤みがさしているのは魔法使いの証だろう。

 なんにせよ、金髪でない。


「別人ですね……」

「これは外れだな……」


 どっと疲れた様子でラウリが呟いた。


 どうやら、展示会ではまだ安心できそうにないようだ。

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