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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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イクスギアの真価

「おおおおおおおおおおおおッ!」


 全身の筋肉を躍動させて突きだした拳が総司のギアに直撃する。

 一騎の一撃を受けた総司のギアが接触の瞬間に圧壊した。


 粉々に砕けた黄金のギアに目を丸くしながら、総司は全力で逃げた。

 今、一騎の纏う《シルバリオン》の基礎能力値は総司の《イクスゴット》を上回っているからだ。


 瞬時に性能差を見切り、総司は別次元へと逃げ込む。

 ただ――


 その判断が致命的に遅かった。


 総司が別次元への《門》へと逃げ込んだまさにその直後――

 一騎が驚異的な身体能力を駆使して、《門》を潜り抜けたのだ!!


「な、なんだと!?」

「逃がさねぇよ!!」


 総司の別次元への移送の能力は、その能力を知っていれば対処は簡単だ。

 総司が《門》の中に入り、《門》を閉じるまでの間は別次元とこの世界は繋がっている。

 ならば、その僅かな間隙を突き、《門》の中に入り込む事さえ出来れば、総司の無敵性は覆せる。


 戦いの場は現実世界から総司の生みだした別次元へと移る。

 とはいえ、外見は現実世界と瓜二つだ。

 鏡映しのように広がる景色に一瞬目を奪われるが、すぐに意識を戦闘へと引き戻す。


 目の前には一騎の侵入に驚愕の表情を覗かせる宿敵の相手。


 この機会、絶対に逃さないッ!


 一騎は勢いを殺すことなく、身体を総司に叩きつける。

 

「小癪な!」


 一騎の体当たりで体勢を崩した総司が苦し紛れに拳を振り回した。

 狙いなどロクにつけていない乱れ打ちだ。

 癇癪を起したような拳の振るい方だが、《イクスゴット》の力によって引き上げられた身体能力から放たれる連打はただの銃弾よりも速い。


 一騎はその神速の連打を、目で見て躱していく。

 

 見える!

 避けられるッ!


 一騎の《シルバリオン》もまた、《狂戦士》によって数十倍にも能力を高めている。

 その身体能力は一騎の想像を上回っており、耳は総司の筋繊維の脈動が捉え、肌は微細な空気の振動を感じ取り、瞳は普段は目に見えない大気の流れさえ見分けるほど。


 この状態の一騎に、我武者羅に放った一撃が当たるはずもなく。

 無造作に放たれた一撃を一騎は片手で受け止めた。


「バカな……私の拳を!?」

「まだ気付いてないのか? アンタの力より今の俺の方が力も速度も上だ」


 淡々と告げる一騎に総司は目を吊り上げ、怒りを露わにする。

 一騎の手を振りほどき、総司は吠えた。


「たかが拳を受け止めた程度で調子に乗るな! 雑魚がッ!!」


 直後、総司の両手に黒い魔力が渦を伴って纏わり付いた。

 異質な能力を前に一騎は咄嗟に距離を離した。


 次の瞬間、一騎に漆黒の刃が振り下ろされる。


「《次元消失ディメンション・イレイザー》!!」

「ッ!?」


 ガントレットでの防御を試みた一騎は、咄嗟に腕を引っ込めた。


 まるで警鐘を鳴らすように、心の奥底から『その一撃に触れるなッ!』と警告されたような気がしたからだ。

 そして、一騎はその警鐘の真の意味を知った。


 避けきれずに僅かに斬撃がガントレットを掠める。

 容易く切断されたガントレット。

 だが、一騎の驚きは堅牢なギアが破壊された事ではなかった。


「な、なんだ、今の……」


 総司の斬撃がギアに触れた瞬間、触れた部分が消失したのだ。

 斬られたわけでも砕かれたわけでもない。

 文字通りの消失。


 破片も残さず目の前から消えていた。

 もし、防御していれば、一騎の腕も消し飛んでいただろう。


「《次元崩壊》だけが私の能力だと思わないことだ」

「これが、アンタの切り札なのか?」

「あぁ。《次元崩壊》は別世界を繋ぐ程のエネルギーを爆発させる技。今私が使ったのはその真逆。全ての次元を閉じる技だ」

「次元を閉じる?」

「話したところで理解出来まい。そして、知ったところで防ぐ事など不可能だ!」


 総司の黒い斬撃が踊る。

 双剣の斬撃をギリギリで躱しながら一騎は眉間に皺をよせた。

 

 大気が消えている……

 

 双剣に触れた大気が消し飛ばされていた。

 いや、消し飛ばされたという表現は些か語弊がある。

 まるで、総司の剣によって空間が区切られたかのように空洞が出来ているのだ。


 ただの斬撃でこうはならない。

 

 なるほど……これが次元を閉じるって事か……


 一騎はその現象から総司の能力を見破った。

 《門》は世界と世界を繋ぐ力。

 それを閉じると言うことはすなわち世界を斬り裂く力ということだ。


 《次元消失》が触れた場所は、次元が斬り裂かれる。

 同じ空間を見えない壁で区切るように漆黒の刃が通る軌跡の全てを消し飛ばしているのだろう。


 この技を前にして物理的な防御など意味はない。

 

 だからこそ、一騎はその一撃を前になりふり構わず全力で逃げた。


 《次元崩壊》を拳で相殺していた時とはわけが違う。

 物理的な能力は一切伴わない。

 次元という干渉出来ない能力に干渉する概念能力だ。


 《狂戦士》の力でも敵わないだろう。

 逃げる一騎の背中を追うように総司が駆ける。


「どうした? 逃げる一方か?」

「ちッ!!」


 迫り来る黒い刃を一騎は必死で避けていく。

 だが、回避にも限界があった。

 触れる事すら出来ない二本の刃に徐々に押されていく。

 ギアが引き裂かれ、刃が身体に触れる。

 斬られるというより削り落とされる別種の痛みに一騎の思考が蝕まれていく。


 そして――


 ゴツンッと背中が見えない壁に触れた。


「なッ!?」


 突然の出来事に思わず一騎の動きが止る。

 とうとうこの世界の最果てまで追い詰められたのだ。

 総司の顔には勝利の二文字が浮かび上がっていた。


「これで終わりだ、一ノ瀬一騎ッ!!」


 二本の刃が一騎の脳天に振り下ろされる。

 まさにその刹那。


「やられるかよッ!!」


 一騎はイクスギアに二つ目のイクシードを装填。

 深紅のギアを上書きするように和装の鎧が身を包む。

 一騎の手に握られた一振りの長刀。


 一騎はその刀を力強く握りしめ、迫り来る刃に向かって抜刀したッ!


 振り抜かれた白銀の刃と漆黒の刃がかち合う。

 衝撃が異空間を震撼させる。

 あらゆる存在を次元ごと消滅させる《次元消失》の力と斬るという概念に特化し、全てを斬り裂く《剣》の力。


 相反する二つの力が激突した結果、二つの能力が同時に砕け散る。


「ば、馬鹿なッ!? 《ブレイド》のイクシードで私の攻撃を防ぐだと!?」


 愕然とする総司に一騎の手が押し当てられる。

 《剣》のイクシードをギアから排出。

 新たなイクシードをギアに装填した。


 イクシード《ランス


 白銀の魔力が弾け、一騎の手には巨大な槍が握られていた。

 柄から白銀の魔力を噴出させ、さらに一回り巨大な槍を形成させる。


 一騎は片手で槍を振り回し、横薙ぎに大きく薙ぎ払う。

 身の丈以上も巨大な槍が総司を包み込む。


「おおおおおおおおおおおおおッ!!」


 一騎は吠えながら、巨大な槍を振り抜く。

 吹き飛ばされる総司の総身。

 ギアはすでに半壊していた。

 イクスゴットの破損のせいか、一騎の攻撃のせいか。

 異空間を維持していた結界が解かれる。


 再び現実世界へと帰還した一騎の手にはすでに巨大な槍はなかった。

 代わりに、一騎の右手には身を焦がす程の巨大な業火が渦を巻いている。


 イクシード《フレイム


 だが、その炎はかつて一騎が纏った《炎》とは桁が違った。

 《火神の炎》に匹敵する程の業火。

 

 一騎の《シルバリオン》さえも熔解させる程の熱量だ。

 一騎はその炎を一手に収束させ、

 吹き飛ばされた総司の身体に押し当てる。


「《フレイム・バースト》!!」


 直後、深紅の熱線が総司を貫く。

 《狂戦士》によって能力を数十倍にも高められた《炎》のイクシードが黄金のイクスギアを貫くのだった――

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