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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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禁断の力

「うぐ……ッ」


 数人の戦乙女による《フレア・バースト》の直撃で、イノリは五メートルも吹き飛ばされた。


 どうにか体勢を立て直し、かかとで地面を削りながら切っ先を突き立て勢いを殺す。

 体が止ったのはそのさらに数メートル。

 

 凄まじい衝撃にイノリは焦燥感を滲ませる。


《フレア・バースト》の最大威力は当然知っていた。

 他でもないイノリがその技を使ったことが過去にあるからだ。


 だからこそ生じた油断と言えるだろう。

 

《フレア・バースト》の重ね掛けがここまでの破壊力を生み出すとは予想もしていなかったのだ。


(正直、見くびっていたかも……)


 技の発動の瞬間、イノリは過去の経験から戦乙女の技を見切っていた。

 そして、囲まれたこの状況を打破する為に、あえて爆風に乗って距離を離そうと試みたのだ。


 だが、イノリの予想は裏切られた。


 重ね掛けして威力の増した《フレア・バースト》はイノリの華奢な体を軽々と吹き飛ばしたばかりか、身に纏っていた白い軍服を吹き飛ばす程の威力をみせたのだ。


銀狼ライカン》のギアはほとんどが爆風によって焼かれ、原型を留めていない。

 ギアのアンダースーツまでもが吹き飛ばされ、白い柔肌が外気に晒されていた。


 ギアの主武装である銀牙にも亀裂が入り、一振りすれば粉々に砕けそうな程だ。


「……ッ」


 ギアの状態を確認したイノリは歯がみすると、右腕のブレスレットに再び魔力を注いだ。

 ギアを形成する為に十分な魔力を注がれたブレスレットは再びイノリの体を蒼い光で包む。


 破れたアンダースーツが修復され、白い軍服がその身を覆う。

 砕けた刃も研ぎ澄まされ、鋭利な牙が蘇る。


 ギアの修繕を終えたイノリに影が差す。

 複数の戦乙女が再びイノリを包囲していたのだ。

 


「次は、ブレイドですか!」


 見れば、包囲した戦乙女の大半が肘から先を黒い刃へと変形させていた。


 イクシード《剣》を発動した証拠だ。


 クロスレンジに侵入した戦乙女を嫌ってイノリは振るわれた刃を銀牙で受けること無く避ける。


 鍔迫り合いになって周囲から串刺しにされるのを避ける為だ。

 斬撃を辛うじて避けるイノリに戦乙女の声が届く。


「我々は、以前、貴女のそのギアの力に敗北しました」


 ショッピングモールでの戦いの事だろう。

 あの時、イノリは纏った《銀狼》の力で終始、戦乙女を圧倒していた。

 

「けれど、それはそのギアの力をまったく知らなかったからです。あの戦いで、我らはそのギアの最大出力、そして、最大火力、防御性能、持続時間を推測する事が出来た。だから――」


 接近を嫌ってイノリが振るった横薙ぎを戦乙女は潜り込むようにかいくぐる。

 懐に潜り込まれた瞬間、イノリの顔が驚愕に染まる。


「もう、敗北はあり得ません」


 黒い剣戟が閃く。


「……ッ!!」


 横薙ぎに振るった刃を引きも戻す時間はない。

 それよりも先に黒い刃がイノリを斬って捨てるだろう。


 イノリは強引に腕を回し、柄で斬撃を受け止める。


 指と指の間で受け止めた斬撃は銀牙の柄を易々と両断。

 だが、その間隙を突いてイノリは銀牙を手放し、魔力を刃が両断するであろう胴体に集中させる。


 黒い斬撃が袈裟懸けにイノリを薙ぎ払う。

 直撃の瞬間、蒼い光が火花のように散った。

 イノリが咄嗟に張った魔力障壁を易々を斬り裂き、刃がイノリの体を捉えたのだ。


 だが、魔力障壁のおかげで僅かだが戦乙女の剣先が鈍る。

 コンマ数秒の遅れであろうと《銀狼》の驚異的な運動性能をもってすれば――



「ああああッ!」


 次は魔力を足先に収束。

 瞬間的な爆発力をバックステップに上乗せして、袈裟懸けを回避。

 修繕した軍服が切り裂かれるだけに留まった。


 だが、包囲は着実に狭まっていた。


 背後からの不意をついての刺突を回避。


 だが、間に合わず、脇腹を浅く斬られ、鮮血が舞った。

 次いで、横薙ぎに振るわれた斬撃を身を深く屈め回避。

 屈伸のバネを利用して距離を離すが、上段からの打ち下ろしの回避に間に合わず、額を浅く斬られた。


 流れた血がイノリの視界を塞ぐ。

 その一瞬の刹那に、


 イノリを包囲した戦乙女が、勝負をかけてきた。


 刺突、横薙ぎ、袈裟、唐竹――


 把握しきれない程の斬撃がイノリの視界を埋め尽くす。


 逃げ場は、空しか無かった。


 無防備になるとわかっていながら、イノリは苦肉の表情を浮かべ、跳躍。

 上空へと身を逃す。


 だが、それこそが戦乙女の真の狙いだった。


「貴女の負けです、イノリ=ヴァレンリ」


 深紅の閃光がイノリの右腕に直撃。

 イノリの腕が跳ね上げられる。

 

 直後、イノリの表情が強張った。


 深紅の銃弾によって砕かれた銀色の破片が宙を舞う。

 それは、イノリが右腕に装着していたイクスギアの破片だ。


 ギアを形成する要たるイクスギアが破損した事により、《銀狼ライカン》のギアが強制解除された。


 生身の姿に戻ったイノリは戦乙女達が取り巻く直中へと落下する。


「あぐ……ッ」


 どうにか落下の衝撃を殺す事が出来たが、ギアを介さない生身の衝撃は予想を遙かに超えるもので、落下の衝撃が全身を蝕む。

 イノリは奥歯を噛みしめ、悲鳴を押し殺す。


 そんなイノリを戦乙女は見下しながら語った。


「あの時と同じですね」

「……あの時、ですか?」

「えぇ、貴女が初めて芳乃凛音の戦った時ですよ」

「……そう、ですね」


 あの時もイノリはイクスギアに銃弾の直撃を受け、変身を強制解除させられた。

 今も状況は同じだ。


 イクスギアを纏うにはブレスレットにイクシードを装填する必要がある。

 だが、戦乙女の銃弾は二つあるイクシード格納庫の内、イノリがギア装着の為に使う一つを破壊。

 その結果、ギアが強制解除させられたのだ。


 人の身を保てているのは残った格納庫の一つに《人属性》のイクシードが装填されているから。

 戦乙女がイノリのブレスレットを完全に破壊しなかったのは、ブレスレット破損によるイノリの《魔人化》を恐れてだろう。


 戦乙女の刃がイノリの首筋に添えられる。


 これで、最後――


 イノリの奥底に敗北の二文字が浮かび上がる。


「あの時と同じような奇跡は起こさせません」


 淡々と告げる戦乙女にイノリは僅かに残った心火が燻った。


「あの時の奇跡……」


 それは、イノリが限定解除して、凛音を圧倒した時の事だろう。

 今でも不思議に思う。


 なぜ、魔力の制御訓練もろくにしていなかったあの時に、イノリは限定解除の力を僅かに維持出来たのだろう。


 それは、きっと……


(守りたい人がいたから? 彼から勇気をもらったから?)


 とてもそんな言葉で片付けられるような奇跡ではない。

 けれど、あの時の奇跡は二度と来ないだろう。


 なぜなら――





 その奇跡を、イノリは純粋な技術へと昇華しているのだから。





 イノリは口にする。

 その禁断の力の名を――



「《限定解除オールリリース》、《換装シフト》――《オルタ》」

近日中にキャラ紹介を踏まえた設定集を書いてみようと思っています!

ぜひご覧になって下さい!!


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