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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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終幕へのカウントダウン

 視界を埋め尽くす色は白。

 あまりの熱量に炎は、本来の色である赤を捨て、白熱の色を纏っていた。


 イクスギアに守られているにも関わらず、肌がヒリヒリする。

 喉が渇き、白熱の炎に視界情報が失われる。


 白熱の光は空の闇を斬り裂き、蒼天を穿つ。

 

 もはや炭すら残らない。

 白熱のエネルギーに触れた戦乙女はその瞬間に蒸発。

 影も形も残らなかった。


 極太のエネルギーに呑まれた戦乙女は数百にも及ぶ。

 ポッカリと空に穴が空き、地表から伸びる白熱の光は、それでもまだ足りないと、ゆっくりと空に軌跡を描く。


 地面から砲身を支える三脚を引っこ抜いた凛音が、ギアによって強化された身体能力にものを言わせ、ゆっくりと砲身を薙いだのだ。


「うおおおおおぉぉぉぉああああああッ!!」


 凛音の悲鳴が轟く。

 地表と空を繋いだアーチが大きな弧を描き、凛音を中心に空に半円を描いたのだ。

 射線上にいた戦乙女は為す術もない。

 光に呑まれ、蒸発していく。

 難を逃れた戦乙女も、超高温の熱の余波に体を焼かれ、地表へと堕ちていく。



 永遠に続くかと思われた砲撃が止んだ。


 内部に溜まった熱を放出しているのか、砲身から蒸気が噴き出し、凛音の姿を隠す。

 

 砲撃を終えた凛音は深くため息を吐き、残心する。


 圧倒的だった。


 空には剣で薙いだかの如く、一文字に斬り裂かれ、その空間にいた恐らく五百近くの戦乙女を一瞬にして灰燼に帰したのだ。


 その予想を超える砲撃に言葉を失っていた一騎は、《ロートリヒト》が元の大きさの拳銃へと変形する音で、気を取り直した。


「り、凛音、今のは?」

「す、凄まじい威力ですね……」


 イノリも驚愕の表情を隠す事が出来ず、頬に汗を伝わせていた。

 両目を見開いて、空の軌跡に目を奪われていた。


 戦乙女達も高威力の砲撃に進撃の足を緩め、警戒するように滞空している。

 バイザー越しでわからないが、気配察知能力を使った一騎には波紋のように、戦乙女達に動揺が広がって行くのが手に取るようにわかった。

 バイザーの内側ではきっと、驚愕に我を忘れている事だろう。


 以前の《スターチス》にはなかった高威力の砲撃だ。

 その力は《雷神》を凌駕する。


 改修したとは聞いていたが、これほどの威力なのか……


 リッカに改修されるまでの凛音のイクスドライバーは試作段階のドライバーを流用しただけのものだった。

 全てのスペックが従来のギアに劣る力で、凛音はこれまで一騎やイノリと互角以上の戦いを繰り広げてきた。

 ギアの性能を強化する事で、凛音の力が格段に跳ね上がる事は予想出来ていたが……

 これほどの高威力の砲撃を可能とするまでとは思ってもいなかった。


 凛音の鋭い視線が放心する一騎達に向けられる。


「なにボサッとしてる? さっさと行けよッ!!」


 確かに、これほどの砲撃を連発出来るなら、ここの守りを凛音に任せても大丈夫なような気がする。

 だが、あの砲撃が連発出来ないなら?

 空の敵を牽制する事は出来たが、敵がそれに気付いたら?

 一度沸き上がった不安の種はすぐに無数に広がる。


 だが、一騎はそれらの葛藤を斬り捨てる。


 迷ってどうする!? 俺達は仲間だろ? なら、信じろ! 凛音の言葉を。任せるんだ。俺達の帰る場所を凛音に!!


 一騎は唇を噛みしめて、足先を《魔神》の方角へと向ける。

 そして、一言。


「あぁ……任せた!!」


 その言葉を残して、一騎とイノリは屋上を後にするのだった。


 

 ◆



 屋上に残った凛音は、深いため息を落とす。

 切り札である《フレイム・ブレイカー》をいきなり初手で使ってしまった。

 その事に後悔の念は毛ほどもないが、冷却状態に移行した《ロートリヒト》では、高威力の火力はもう望めないだろう。


 冷却が完了するまで、数分から数十分。

 それまでは、エネルギー消費を抑えた戦いをする必要があった。


「まぁ、どっちにしろ、バカ火力はもう使えないか……」


 《フレイム・ブレイカー》などの高威力の砲撃はエネルギーのチャージにとにかく時間がかかる。

 味方の守りがあって初めて使える砲撃だ。


 孤立した状態で大きな隙を晒すわけにはいかない。


 凛音は背中のアンカーを外し、《ロートリヒト》を回転式連射砲ガトリングへと変形させた。

 改修により強化されたガトリングの砲門は二挺合わせて十二門。


 凛音の魔力弾を秒速数百発で吐き出す事が出来る連射能力に特化した形態だ。

 凛音は片方の銃を空中へと向けると、好戦的な笑みを浮かべた。


「かかって来いよ。何千人来ようが、あたしの大切な友達のいるこの場所は誰にも壊させねぇッ!!」



 ◆



 遠くから絶え間なく発砲音が響き渡る。

 空を見れば、赤い閃光が絶え間なく地上から伸びていた。


 一騎は歯がみする。

 

 やっぱり、一人にするべきじゃなかったか!?


 そんな一騎の不安を見透かしたのか、イノリが強い口調で言った。


「信じるしかないよ、芳乃を。戦闘に関しては私達より上手だから」

「イノリ……」

「それに重要拠点を守るなら、接近戦に特化した私達より、芳乃方が適任だよ」


 そう言ったイノリだが、メテオランスを掴んだ手には血が滲んでいた。

 

 ……心配してるのは俺だけじゃないよな。


 一騎は己が浅慮であった事を恥じた。

 付き合いの長さで言えば、イノリは一騎よりも長い。

 まだ戦場でしか会話した事がない一騎より、凛音を師と仰ぎ、魔力制御の方法を聞いていたイノリの方が関係性は深いだろう。


 ふと、脳裏を掠めた疑問を一騎は口にする。


「《銀狼ライカン》の力はまだ使わないのか?」


 空の敵は凛音が抑えてくれている。

 一騎達が戦うのは、《魔神》の方角にいる戦乙女達だけだ。

 敵の数は絞られたが、それでも視界を埋め尽くす黒い影に、緊張の糸が高まる。


 あれだけの数を相手にするには《銀狼》の力が必要だろう。


 だが、イノリは苦笑を浮かべ、首を横に振った。


「今の私じゃ、まだ《銀狼》の力を扱いきれないよ」

「そうなのか?」

「うん。制御時間は格段に伸びたけどね。それでも、この大群を相手にするには分が悪いかな?」

「そうか」


 今のイノリは一騎が返したイクシード《流星ミーティア》を纏っている。

 高機動を誇る《流星》の他に、《重力グラビティ》、《雷神トール》のイクシードをイノリに渡していた。

 恐らく、《銀狼》をここ一番の切り札と考えて温存しておく為だろう。


 だが――


 やっぱり、何度見てもギアを纏ったイノリの姿に言葉を失ってしまう。


 《流星》のギアを纏ったイノリは水着のようなアンダースーツに軽装な鎧を纏った姿だ。

 正直に言えば、目のやり場に困る恰好だ。


 太股は大胆に露出しているし、胸の形だってくっきりとわかる。

 二の腕だって見えているし、何より外見が水着だ。



 イノリの裸体は鮮明に焼きついているが、それとこれとは話が別。

 こんな恰好を敵の目の前に晒していると思えば、恋人としてふつふつと怒りが湧いてくる。


 イノリの体をジロジロと見てんじゃねぇ!!


 これが《魔人》であったなら、ここまでの怒りは爆発しなかっただろう。

 だが、敵は人形とはいえ、知能を持った存在だ。

 同性であっても、イノリのきわどい姿が敵の視界に入ると思うとそれだけで怒りのゲージが貯まるというもの。


「一騎君? どうしたの?」

「い、いや、何でもねぇ……」

 

 白い軍服を纏った《銀狼》の方がまだ、精神的に健全だとは、今は口が裂けても言えない。



 一騎は右腕のパイルバンカーを起動させ、目の前に迫りつつある敵の大軍を鋭い視線で睨んだ。


「イノリ、準備は出来ているか?」

「うん。大丈夫。一騎君は?」

「俺も大丈夫だ。イノリ、絶対に俺の側から離れるなよ?」

「……うん、わかった」


 イノリは険しい表情を覗かせ、槍の柄を強く握りしめる。

 二人はほぼ同時に地面を強く蹴り、加速。


 戦乙女の大群に真正面から突っ込み――


「おあああああああッ!!」

「やああああああああッ!!」


 二人の叫び声が闇の中に響き渡った――

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