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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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『家族』として

「それで、リッカさん達は?」


 一騎は艦内を案内されながら、前を歩くイノリの背中に話しかける。

 イノリはチラリと一騎を盗み見ると「会えばわかるよ」と口を濁した。


 釈然としない言葉に一騎は眉間に皺をよせる。

 その横で結奈がポツリと囁いた。


「……本当にこれが現実なんだよね」

「……信じられないでしょ?」

「えぇ。イノリや異世界の話もだけど。一番、信じられないのは一騎、あんたの事よ」

「僕?」

「どうして教えてくれなかったの? こんな大変な事に巻き込まれているって」

「それは……」


 結奈の言葉の端々に怒りを感じた一騎は思わず口ごもる。

 結奈に本当の事を話せなかったのは、結奈を危険な目に合わせない為だった。


 だが、そう説明したところで納得はしてくれないだろう。


「わかってるわよ。言えない事、なんでしょ? オズさんやイノリから説明されたわ。私も、私の家族にも行動の制限が発生するって」

「うん。だから――」


 言えなかったんだ。ゴメン。


 そう続けようとした一騎の台詞を結奈が遮る。


「だから何? それがどうしたの? 真実を知る事が罪なら、私はその罪を背負うわよ。だって、そうしないと、一騎を守れないでしょ? 一騎の側にいられないでしょ? 大切な家族がたった一人で傷ついているのに、それを支えてあげられないなんて家族失格よ。一騎の側にいる意味がないわ」

「結奈……?」

「本当に怖かったの。何も知らない事が。一騎が《魔人》と戦ってボロボロになって、大怪我までして……」

「ゴメン、心配かけて」

「……今まではその心配すらかけさせてくれなかったのよ? 私には心配させてくれないの? 知らずに、側にいればよかったの?」

「ち、違うよ。結奈が大切だから、大切な家族だから黙ってたんだ!」


 巻き込みたくなかった。

 守りたい日常だから。

 結奈は一騎にとって日常の象徴だ。

 幼馴染みで、両親を失った一騎にとってはもう一つの家族。


 だからこそ、戦いの世界を知って欲しくなかった。

 それが一騎の偽らざる本心だ。

 だが――


「なら、側にいさせてよ。支えさせてよ」


 結奈の悲痛な表情に一騎は押し黙ってしまう。


「家族なら……家族だからこそ、一緒にいたいのよ。恋人としてはまだ無理でも、家族としてなら私が支えるから、側にいるから。だから、もう……隠し事はしないで?」


 目尻に涙を溢れさせ、結奈は一騎に詰め寄る。

 一騎は、その姿にどうしたものか……と頭を悩ませた。


 ここが危険な世界であることは、この世界にいる一騎が誰よりもわかっている。

 イノリとの対決。

 そして、《魔人》との戦い。

 凛音との死闘。

 芳乃総司との激戦。


 どの戦いも命懸けだった。

 いつ死んでもおかしくなかった……今、無事でいられる方が奇跡だ。


 せめて大切な人は戦いから遠ざけたい。

 そう思うのは間違いではないだろう。


「いいと思うよ」


 悩む一騎を置き去りにして、イノリが口を出した。

 その言動に思わず目を見開いてイノリを見た一騎。

 イノリはニッコリと微笑みながら、一騎を見て言った。


「一騎君の考えてる事なんてお見通しだよ。大方、結奈を戦いに巻き込みたくない! って思ってるんでしょ?」

「そ、それは……」


 まさに図星だった。

 口ごもる一騎にさらにイノリが迎撃。


「だいたい、その悩み、私も一度は抱えているんだよ。一騎君を戦わせたくないって。平和な日常にいて欲しいって」


 だからこそ、刃を交えた。

 イノリを助けたい一騎。

 一騎を戦わせたくないイノリ。


 相反する二つの意思が激突し、二人は命を削り合った。


 だからこそ、一騎の心が手に取るようにわかる。

 そして、イノリは知っているのだ。


 一人で心をすり減らす事の辛さを。

 誰も頼れない孤独を。


 だから、結奈には一騎の支えになって欲しい。

『恋人』としての立場は渡さない。

 けど、家族として、支えて欲しいのだ。


「一騎君もそうだったけど、結奈も負けずの我が儘だと思うよ。きっと何を言っても無駄だと思う。私がそうだったからね」

「イノリ、それ、私の事、馬鹿にしてるの?」

「褒めてるつもりだよ?」


 ジト目を向ける結奈にイノリは笑顔で対応。

 イノリだって、その結奈の強引さに諭された事があるのだ。

 決して馬鹿にしているわけではない。

 むしろ、頼もしい友人と思っている節すらある。もちろん、友人と書いて、ライバルと変換されているが……


「それに、もう結奈には全部話したんだよ。一騎君の心配は、もう今さらなの。だから、結奈の気持ちに甘えてもいいんだよ?」

「……そうかもしれないけど」


 確かに、一騎の心配は今さらだろう。

 すでにイノリやオズの口から結奈は真実を聞かされている。

 監視の目が付くのも覚悟の上で、だ。


 なら、一人で悶々と考える必要はどこにもない。


 これは、一騎のただの我が儘だ。

 けど……


(側にいて欲しいっていう思いもあるんだろうなぁ……)


 強く言い出せないのはきっとそのせいもあるだろう。

 真実を黙っていた事の後ろめたさもあって、結奈の言葉を強く否定出来ないのもあるが、それ以上に求めているのだ。

 一騎自身、家族の支えを。

 

 その本心に気付いて、一騎は深々とため息を吐く。

 そして――


「わかった。もう、結奈には隠し事はしないよ」


 その言葉に、イノリも結奈も破顔して笑みを浮かべるのだった。



 ◆


 

 そして――リッカの病室に訪れた一騎達は全員が言葉を失う。


 それは何故か?


 理由は目の前にあった。

 今まで一度も見た事がない剣幕を浮かべるリッカ。

 

 そして――


 居心地が悪そうに冷や汗を浮かべながら、冷たい床に正座をする空中艦アステリアの艦長――クロム=ダスターの姿に誰も二の句が継げなかったのだ――

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