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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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最後の戦いに向けて

「――ここ、は……?」


 ゆっくりと重たい瞼を上げた一騎。

 眼下に広がった光景に思わず首を傾げる。


 そこは瓦礫の広がる廃墟などではなく、清潔に整えられた医療器具が並ぶ医務室だったからだ。


 一騎の記憶は凛音が黄金のギアを纏った総司によって吹き飛ばされた直後から途切れている。

 意識を失う直前、黒い感情が、イノリの姿をした破壊衝動が一騎の意識を奪ったところだ……


「――ッ!?」


 意識失う直前の記憶を思い出し、一騎は上体をガバッと上げた。

 

 (そうだ! 凛音ちゃんは? リッカさんは? みんなは無事なのか!?)


 記憶に浮かんだのは、深紅のギアを粉砕され、死に体となって吹き飛ばされた凛音の姿だ。

 あの凄惨な光景を思い出し、いてもたってもいられなくなった一騎は無理矢理に身体を動かしてしまった。


 自身の怪我の事すら忘れて。


「うぐ……ッ!?」


 その直後、電流が走ったかのような痛みが全身を貫いた。

 骨という骨が軋みを上げ、傷ついた筋肉がさらに裂ける。

 包帯に巻かれた傷が開いたのか、純白の包帯が所々赤く滲んでいた。


 想像を絶する痛みに、しばらく一騎は身体を抱きかかえ、うめき声を上げていた。


 記憶にない怪我に混乱は増すばかりだ。

 身体をくの字に曲げ、ベッドで悶える一騎を余所に、プシュッっと電子音が鳴った。


 誰かが医務室の電子ロックを解除して、一騎の様子を伺いに来たのだ。

 その人物たちはベッドで身悶える一騎を見て、ひとまず安堵の吐息をもらすと、思い出したかのように、一騎に向かって駆けだした。


 そして――


「一騎!!」

「一騎君ッ!!」


 目尻に溢れんばかりの涙を溜めて二人の可憐な少女――イノリと結奈が一騎に向かってダイブ。


「……へ?」


 スローモーションで流れる光景に一騎は呆けた表情を浮かべる。


(え? どうしてここに結奈が?)


 とりあえずそんな事を考えながら、飛び込んでくるイノリと結奈を受け止める。

 その直後。


「~~っ!!」


 声にならない悲鳴が空中艦に木霊するのだった。



 ◆



 乱れた病衣を着直し、包帯を取り替えた一騎は、病室の床で正座をしていた二人に冷たい視線を向けた。

 怪我人に飛びついた事を反省したのか、意気消沈した様子で項垂れる二人に一騎は思わず嘆息した。



 新雪のように輝く白銀の髪の少女――イノリ。

 そして、日本人特有の黒髪の少女――結奈。


 二人とも一騎にとって大切な人達だ。

 最後に別れたのはショッピングモールの最上階にある映画館の中。


 イノリが空中艦にいるのは当然だ。

 だが、なぜ結奈が?


(ううん、そんなのわかりきってるよ)


 一騎は直ぐさまその真相に辿りつく。

 知ってしまったのだ。

 結奈もこの世界の裏側の真実を。


 十年前の惨劇。

 この世界に召喚された異世界の住人達。

 そして、《魔人》の事。


「……とりあえず、顔を上げてよ。別に怒ってないからさ」


 深く追求するのは後回しにして、一騎は笑顔を浮かべる。

 今は二人が無事だった事を喜ぶべきだろう。


 守りたい人達を守れた事に安堵の吐息を吐きながら、一騎は胸をなで下ろす。


 だが、気を休めてはいられない。


 一騎は意識を失った後の戦況をまったく知らないのだ。

 こうして一命を取り留めている事から、あの黄金のギアを纏った最凶の男――芳乃総司の魔の手から逃れる事は出来たのだろう。

 だが、凛音は?


 焦る気持ちを抑え、一騎はイノリに問うた。


「……凛音ちゃんもこのふねにいるの?」


 一騎の問いかけに、イノリは罰が悪そうな表情を浮かべ、フルフルと首を横に振った。


「ううん。彼女はここにいないよ」

「……それは」


 考えたくないが、最悪の想像が脳裏を過ぎる。

 だが、一騎が口にするよりも先に、イノリはその未来を否定した。


「たぶん、大丈夫。生きてると思うよ。彼女の遺体はまだ見つかってないから」

「……遺体は? それってどういう……」


 含みのある言い回しに一騎は首を捻った。

 ならば、遺体以外の何かは見つかったのか?


 イノリは言葉を濁しながら、一騎の瞳をしっかりと見据え、真相を口にした。


「戦いが終わった後、負傷した一騎君やリッカさん達の救助と一緒に芳乃凛音の捜索が行われたの。彼女も命に関わるダメージを受けていたから」


 直接その現場を目撃した一騎だからこそ、イノリの言葉に心臓を握り潰さそうになる。

 芳乃総司の拳はあらゆる事象を破壊する破滅の拳だ。


 それを直に受けた凛音。

 ギアのバリアフィールドすら貫通する威力だ。

 無事でいられるはずがない。


 一騎はギュッと拳を握りしめ、イノリの続きを待つ。


「けど、現場を捜索しても、芳乃凛音の姿はどこにもなかった。あったのは大量の血と砕けた銃の破片。そして、私から奪ったイクシードだけだったの」

「銃とイクシードだけ?」

「うん。《火神の炎(イフリート)》以外の全てのイクシードが発見されたよ。けど、芳乃凛音は見つからなかった。司令は無事だって言ってたけど……あの量の血は……」


 青ざめた顔を浮かべるイノリ。

 一騎は直接、その現場を見たわけではないが、戦闘においては一騎以上の腕前を持つイノリが青ざめる程だ。

 司令の言葉を信じようにも、目にした光景がそれを否定する。

 

 生存を信じるにはあまりにも絶望的な光景だった。

 だが、イノリの言葉聞いた一騎は違う。


「そっか」


 表情は依然として険しいままだったが、口調は穏やか。

 それは総司に対する怒りを滲ませながらも、凛音の生存に喜んでのものだった。


 一騎は凛音の纏うギアの要である《火神のイフリート》の能力を知っている。


 身に纏う炎はあらゆる傷を癒す治癒の炎。

 そのイクシードを持って消えたのなら、凛音は必ず生きている。

 また、どこかで出会える。

 仲間に、友達になれる。


 その奇跡に一騎は、今度こそ、緊張の糸が解れるのだった。

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