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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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背中は預けた

「《複製トレース》の能力か。なら、今までのあいつの力にも辻褄が合うってもんだな」


 一騎から《魔人》の力を聞いた凛音は、困ったような表情を浮かべながらも、口元をニヤリと吊り上げる。

 残る《魔人》は異世界を渡る力を持った《ゲート》の《魔人》だけのはずだった。

 だが、こうして、《魔人》の能力を看破したからこそわかる。


 この《魔人》は《門》とは別の召喚者だと。


「あいつの正体にも察しがついているのか?」

「いや……それは、まだ」


 一騎は口を濁しながら答える。

 特派に所属する召喚者のイクシード――その全てを知っているわけではないのだ。

 一騎が知っているのはイノリの《銀狼ライカン》のイクシードだけ。

 クロムやリッカの種族は知っているが、肝心要のイクシードまでは知らない。


「なら、あいつを倒して確かめるまでだ」

「勝算があるのか? あいつはイクシードを複製するんだぞ?」

「だからこそってもんだ。あたしの持つイクシードの中で、使えないイクシードがいくつかあるんだよ。実践向きじゃねえイクシードがな」

「そうなのか?」


 そんな話、イノリやオズからは聞いた事がない。

 奪われたイクシードの能力は全て知っているが、そのどれもが実践向きだ。


 イノリが奪われた十五個のイクシード。



 炎を纏う《火炎フレイム

 水を操る《水流アクア

 風を操作する《テンペスト

 九つのプラズマボールを纏う《雷神トール

 物質変換の能力《錬成アルケミー

 重力操作の《重力グラビティ

 彗星の如き力を発揮する《流星ミーティア

 影を操る《シャドー

 鋭利な爪であらゆるものを引き裂く《クロウ

 概念すら斬り裂く《ブレイド

 全てを射貫く《アロー

 魔槍の一振り《ランス

 あらゆる攻撃を跳ね返す《反射リフレクト

 身体能力を低下させる《弱体ウィーク

 瞬間移動の力《転移ジャンプ



 そのどれものが実践で使えるイクシードで、凛音が持つ三つのイクシードも強力な力だ。

 使えないイクシードがあるとは思えない。


「あるんだよな、これが~。《弱体》って力は装着したギアの力を強制的に引き下げる能力だ」

「……マジか? イノリはそんな事一度も言ってなかったぞ?」

「マジだ。まぁ、あたしの銃はイクシードをそのまま撃ち出すって代物だから、そんなに影響は受けないが、能力を鎧として纏うギアなら影響は出るんじゃねえのか?」


 凛音の言っていた事は当たらずとも遠からずだ。

 実際に《弱体》の力を纏えばギアの出力は低下する。

 だが、《弱体》のギアの運用は《重力》と同じく、鎧をパージし、操作する事で、弱体化の結界を作り出すというもの。

 実践に不向きな能力ではなく、使い方次第では強力な武装となり得るのだ。

 

 だが、その事実を知らない一騎は「う~ん」と難しい表情を浮かべる。

 

 けれど、その《弱体》のイクシードに可能性を見出したのは確かだ。


「つまり、あれか? 凛音があの《魔人》に《弱体》の銃弾を撃つ込む」

「それだけじゃねえ。あいつにあたしの銃弾を《複製》させてさらに弱体化させるんだ。そして弱ったその隙にトドメ。どうだ? 完璧だろ?」


 あの《魔人》は目にしたイクシードを次々に複製しているみたいだから、恐らく《弱体》のイクシードも複製するだろう。


「……けど、問題があるな。あいつは《反射》の力も使える。たぶん、俺の《氷雪》も凛音の《重力》の能力ももう複製しているんじゃないか? 《弱体》の一撃を浴びせるなんて本当に出来るのかよ?」

「あたしを誰だと思ってる? あいつの防御さえ突破できれば、確実に狙う撃ってやるよ」

「つまり、あいつの防御を突破しろと、俺に言ってるわけね」


 無理難題にも程がある。

 あの《魔人》の防御を突破するには《シルバリオン》の切り札しかありえない。

 だが、その一撃を放てば、ギアの出力低下によって《シルバリオン》が強制解除されるだろう。

 

 凛音が外せば、一騎の命はない。

 だが――


「信じていいのか?」

「……お前は敵のあたしを仲間だって言っただろ? だから、信じろ。お前の決断を」

「……わかったよ」


 そう言われたら信じるしかないだろ。

 一騎は苦笑を浮かべながら、《氷雪》の鎧を解除し、《シルバリオン》を通常形態へと戻すと、パイルバンカーを作動させる。


「俺は凛音を信じる。だから」

「あぁ、お前の背中はあたしが守ってやるよ」


 心強い言葉を背に受け止め、一騎は斥力の結界が消えたのと同時に地面を強く蹴り上げた。


 迷いはない。

 

 《魔人》を一点に見据え、ただ全力で駆け抜ける。

 距離にして数百メートルか。


 《魔人》は最強の武装である《雷神》のプラズマボールを一騎に向かって奔らせる。

 だが。


「させるかよッ、《重力弾グラビティバレット》」


 凛音が撃ち出した重力の鎧がプラズマボールの軌道をずらし、一騎を守る。

 そればかりか、引力の力によって一騎の背中をさらに後押ししたのだ。

 

 そのサポートを最大限に活かし、一騎は次の踏み込みで、腰のブースターを起動。

 さらに速力を上げ、《魔人》との距離を一気に詰める。

 そして。


 一騎はパイルバンカーを構え、大仰に拳を構える。

 《魔人》はすでに《雷神》の戦斧を構えていた。


 戦斧を一騎の脳天目掛け振り下ろす!


 一騎はギアによって強化された驚異的な身体能力をもって、その光景をスローモーションのように捉えていた。

 

 どう見ても直撃コースだ。

 逃れたところで続く雷の衝撃によって、ダメージを受ける事は免れない。

 だが、それが――


(どうした!?)


 信頼に足る仲間に背中は預けた。

 なら、信じるだけ。

 凛音を。共に並び立てる仲間の力を!


「セット! 《流星ミーティアバレット》、《弱体ウィークバレット》!」


 凛音は二挺の拳銃のマガジンにそれぞれ異なるイクシードを装填。

 その内の一つ、《流星》を《魔人》が構える戦斧に照準を合わせ、引き金を引いた。


 ズガアアアアアアン!! と蒼い閃光が凛音の銃口から解き放たれる。

 その一発は、一騎が駆け抜けた数百メートルをコンマ数秒で駆け抜け、《メテオランス》の形状を形取った弾丸が、《魔人》の戦斧に直撃。《魔人》の手元から武器を弾き飛ばした!


「行けええええええええええッ!」

「おおおおおおおおおおおおッ!」


 凛音の叫びと一騎の雄叫びが呼応する。

 地面は、一騎の踏み込みによって陥没。

 パイルバンカーの起動に伴い、巻き込まれた周囲の空気がキーンッと悲鳴を上げ、一騎の拳に収束されていく。

 拳に圧縮された空気の渦はさながら台風の如く。

 周囲の空気すら纏い、ギミックが起動したパイルバンカー内蔵式のガントレットは金属特有の甲高い悲鳴を響かせる。


 さらに一歩踏み込み、《魔人》の懐へと体を潜り込ませる。

 腰を落とし、弓を引くように拳を限界まで引き絞り、空いた手は狙いを定めるように《魔人》へと突き出す。

 

 そして――


「オーバーロード! フィストブレェイイイイイクッ!!」


 《シルバリオン》のただ一つの、一回限りの切り札が《魔人》に炸裂。

 

 《魔人》が咄嗟に展開した《氷雪》の壁も、《斥力》の結界も、そして《反射》の結界すら打ち破り、《魔人》を覆う全ての守りを破壊する。


 だが、一騎の拳はその守りを破壊するだけに留まってしまった。

 《氷雪》による氷の壁も《反射》の結界も本来であれば、一騎の切り札でようやく相殺できる能力だ。

 それを同時に展開されれば如何に《シルバリオン》といえども、直撃までは難しい。


 けれど。


「よくやった!」


 一騎の目的は初めから《魔人》の守りを貫くこと。


 ギアの出力低下と共に、変身が強制解除され、倒れ込む一騎の背後から、凛音の放った一発の弾丸が《魔人》に直撃する。


『グルゥ?』


 痛みがないことに首を傾げる《魔人》

 だが、変化は直後に訪れる。


 《魔人》を覆っていた禍々しい漆黒の魔力が目に見えて減衰したのだ。

 それは凛音の放った《弱体》の能力に合わさって、手当たり次第にイクシードを複製する《魔人》の動物的衝動が引き起こした結果の賜物。


 能力の弱体化に伴って、《魔人》が苦悶の声を上げ、膝を突く。

 凛音の放った弾丸は、狙い以上の効果を示し、身体能力を低下させるばかりか、暴走していた魔力、そしてイクシードすら弱体化させたのだ。


 その結果。


 《魔人》を覆っていた黒い魔力――暴走していたイクシードが、すぐ側で倒れていた一騎のイクスギアに吸収されていく。


「成功……したのか?」


 《魔人》の封印に伴って、一騎は全身から力を抜いた。

 それは凛音も同じだったのだろう。


 トドメと構えていた拳銃を力なく落とし、その場に崩れ堕ちると「はぁ~」と深いため息を吐く。


 この場にいた誰もが安堵の吐息をもらし、《魔人》の封印が完了し、完全に緊張の糸が途切れる。


 一騎はひとまず、回収したイクシード《複製》をギアに格納すると、俯きに倒れた金髪の女性に近づき、抱き起こす。


「大丈夫ですか? どこか――ッ!?」


 その直後、一騎は言葉を失った。

 それは《魔人》から解放された女性の顔に見覚えがあったから。

 だが、即座にその答えを否定する。


 あり得ない。

 だって、彼女は――


 だが、頭でいくら否定しようと、残酷な現実は一騎に真実を押しつける。


 どうして気付けなかった?


 《人属性》が複製して造られた物だと思い至った時に気付くべきだった。

 イクスギアを造ったのも。

 そして、《人属性》の開発に成功したのも一人しかいないじゃないか。


 一騎は目眩を覚えながら、掠れる声で小さく呟いた。


「ど、どうして……リッカさんが《魔人》に?」

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