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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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《複製》の力

「あぐう……」


 著しく防御力が低下した凛音は、《魔人》の攻撃の直撃を受け、苦悶の声をもらしていた。

 雷撃の余波によって、体が感電。身動きがとれない。


 普段のギアであればバリアフィールドで無効化出来る程度のダメージなのだが、今の凛音にとって、《雷神》の余波は致命的だ。


 のたうち回る事も叶わず、苦痛に喘ぐ凛音に《魔人》は再び戦斧を構える。

 再び、戦斧を振り下ろす《魔人》


 だが――


 ズガアアアアアアン!!


 その一撃は凛音に届く事は無かった。

 間に割って入った一騎が全力をもってして戦斧を受け止めたのだ。


 氷の壁を一重にも二重にも張り巡らせ、攻撃を無効化。さらには凛音の周囲を氷で造られたドームで覆い、雷撃の余波をシャットアウトする。


 それでも、まったくの無傷と言うわけにはいかない。

 防御に徹した《氷雪》の壁を戦斧は事もなげに破壊。

 戦斧を受け止めた一騎の腕を直撃したのだ!


「ぐうううううううッ!」


 歯を食いしばって直撃に堪え忍ぶ一騎。

 当然、《魔人》の一撃はギアのバリアフィールドの閾値を超えており、衝撃がギアを砕き、肉と骨を圧壊する。

 メキメキ――と異音が鳴り渡る。


 一騎は砕かれた腕を氷の骨で補強、強化する事で腕ごと叩き潰される事だけは何とか阻止する。

 だが、《雷神》の一撃は単なる攻撃力だけはない。

 一騎を襲ったのは無数の雷撃だ。


 戦斧によってバリアフィールドを砕かれた一騎の体に雷撃が殺到する。

 一騎はそのことごとくを咄嗟に展開した氷の障壁で受け止めるが、全てを受けきる事など到底出来ない。


 直撃した雷撃がギアを砕き、内蔵の機能を麻痺させたのだ。


 口から大量の血が溢れ出す。

 心臓が麻痺し、脳への血液が不足する。


(ま、まずい……)

 

 膝から崩れ堕ち、意識が遠のく瞬間。


「く……《重力弾グラビティバレット》!」


 麻痺から回復した凛音が銃口を一騎と己に向け、引き金を引き絞る。

 攻撃を受けた一騎に傷みはない。


 変りに一騎と凛音の周囲には黒い鎧の破片が浮遊していた。

 それはイノリが幾度となく使用した重力を発生させる鎧だ。

 そして、その鎧は重力を――否、正しくは斥力の力場を発生させ、一騎と凛音の周囲に存在することごとくを吹き飛ばす。

 

 その力場は稲妻すらねじ曲げ、巨大な武器を持った《魔人》を吹き飛ばす程の力だ。


 辛うじて一命を取り留めた一騎はその場に崩れ堕ちる。


 両腕の圧壊に内臓の損傷。

 十分すぎる程の致命傷だ。

 ギアも破損し、氷で覆われた鎧はそのほとんどが《雷神》の熱波によって溶かされ、機能を失っている。

 イクスジャケットだけの姿になった一騎は、ぜぇぜぇと血を吐きながら浅い呼吸を繰り返す。


「おい、死ぬなッ! 意識をしっかり持て!」


 凛音はイクスドライバーにセットされていた《火神のイフリート》が封印されたペンダント型の弾倉を引き抜くと深紅の銃に装填。

 一騎に向かってその引き金を引いた。


 銃弾が一騎の体に直撃。深紅の炎が一騎の体を覆ったのだ。


 明滅する視界でその光景を眺めていた一騎は純粋な驚きに支配されていた。


(熱くねぇ……)


 炎に焦がされているというのに、熱さをまったく感じないのだ。

 まるで人肌に抱きしめられた時のような温もりに、緊張していた心が解きほぐされる。

 それだけじゃない。

 

 炎が抱きしめた満身創痍の一騎の体が癒えていく。

 炎が一騎の体を燃やす度に、焦げた肉体が新たな命として息を吹き返す。


 潰れた肉も、砕かれた骨も、機能が停止した内臓も。


 その全てを癒す《火神》の祝福に、引いていく痛みすら忘れ、ただただ見惚れる。


 炎が解け、傷の修復が終わったと同時に一騎は跳ね起き、具合を確かめる。

 

 傷なんてどこにもない。

 魔力こそ大量に消費しているが、まったくの無傷に動揺を隠しきれない。


 一騎は溶けた氷の鎧を再構成しながら、再びイクスドライバーに《火神の炎》をセットし直した凛音に視線を投げた。


「それが、凛音のイクシードの力なのか」

「ご明察だ。《火神》の息吹は致命傷だろうか、死なない限り傷を癒す再生の力だ。もちろん、傷を癒やせるだけの魔力があればの話だがな」


 そっぽを向きながら、敵を治療した事に後ろめたさを感じているのか、凛音は素っ気なく答える。

 

 一騎の体を癒したのは、《火神の炎》の力もあるが、それ以上に、怪我を治癒出来るだけの魔力が一騎にあったからこそ出来た芸当だ。

 魔力の消費量を見る限り、もう同じ方法は使えないだろう。

 

 そればかりか《シルバリオン》の切り札であるパイルバンカーすら扱えるか難しい魔力量だ。


 けれど、体力は全開。

 《氷雪》を用いたギア運用なら問題なく戦える。


 一騎は拳を握りしめ、感謝の言葉を口ずさむ。


「助かった。ありがとな」

「別に礼なんか求めてねえよ。目の前で死なれちゃ目覚めが悪いだけだ(……助けてもらった礼もあるしな)」


 最後の方は小さすぎて一騎には伝わらなかったが、それでも、命を救われた事に一騎は心の中でもう一度、感謝を述べると《魔人》へと鋭い視線を向けた。


 一騎達を守る斥力の力場に近づけないのか、低い唸り声を上げながら《魔人》は深紅の瞳を一騎達に向けていた。

 九つのプラズマボールは斥力の力場を破壊しようと疾走するが、その全てが軌道を曲げ、一騎達の周囲へと逸れていく。


「こうして殻に隠れていてもらちが明かねぇ」


 凛音が悪態つくようにぼやく。

 それは一騎も同意見だ。

 《魔人》はこれまでに複数の能力を一騎達にみせてきた。

 恐らく、そう長くないうちにこの斥力の守りすら突破してくるだろう。

 残された時間は多くない。


 状況を打開する為にも、相手のイクシードを看破しなければならないだろう。


「何だ? あいつのイクシードは? 《雷神》? 《反射》? 《剣》? くそ! どれも共通点がねえ!」

「だな。能力の大盤振る舞いだ。もしかしたら、あたしらのイクシードの数も超えてるんじゃねえか?」

「それって、この世界にある二十個全てのイクシードをあいつが持ってるって事?」

「あぁ。おそらくはそれ以上のな。まったく、こっちの手の内を明かしたら、即座にそれを潰してきやがる。厄介な《魔人》だな、ちくしょう」


 敵の能力を知れば知るほど、絶望感しかない。

 こういう時にこそ、本部の解析結果が欲しいところだが、肝心の本部からは一切の連絡がない。

 恐らく、クロム達も《魔人》の能力を測りかねているのだろう。



 一騎は瞳を閉じ、もう一度、イクシードについて教わった事を思い返す。


 イクシードの能力は千差万別。一つとして同じ能力は存在しない。

 イクシードは魔法の雛形となった能力で、イクシードをシンプルに大衆化した物が魔法。

 そして、大前提として。


 イクシードは一人につき、一つだけ。例外は存在しない。


 だから、あの《魔人》の能力はあり得ないのだ。

 複数の力を行使する能力。

 そんなの特派の誰も口にしたことがない。

 

 知っていれば一騎に教えていただろう。

 複数の力を使う――まるでイクスギアを纏ったような……



「待てよ……」

「ん? どうした? 何か思いついたか?」


 一騎の脳裏に過ぎったあり得ない仮説。

 だが、その仮説は、もっとも敵の能力を正確に指し示すものだ。


「あいつの力、俺達のギアみたいじゃないか?」

「あぁ?」


 凛音は怪訝な表情を浮かべ、一騎と《魔人》を交互に見やる。

 そして、首を傾げながら、「う~ん」と唸った後。


「確かに、能力を複数使うってところはギアと同じ力だ。けど、こっちは複数のイクシードを使ってるだけだ。同じイクシードで別の能力を引き出しているわけじゃねぇ」

「確かにその通りだ。けど、もし、あいつの力が《複製》、《模倣》の類いだとしたら?」

「……とうとう頭のねじが吹っ飛んだか? そんな便利な能力があったら、あたしがいの一番に破壊してるっての」

「……あるんだよ。少なくとも、同じ能力のイクシードを生み出すイクシードなら存在している」


 一騎は口にしながら、憶測が確信に変っていくのを実感していた。


 見た事が何度もある。

 同じ能力。同じ名前を冠したイクシードを。


「《人属性ヒューマン》は特派のみんなのギアに装着されているんだよ」


 この世界の人間だけが持つ暴走する魔力を抑制する命の源――オド。

 それをイクシードとして能力としたものが《人属性》だ。


 特派のみんなの魔力の暴走を防ぎ、人の身として、召喚者を守るイクシード。


 一騎の答えを聞いた凛音は驚愕の表情を浮かべ、押し黙る。


「《人属性》のイクシードが複数あるって事は、その能力を《複製》する能力があるって事だ。なら、あいつの能力は《門》なんかじゃない。イクシードを創り出す《複製トレース》の能力だ」


 確信を秘めた眼差しで、一騎はついに《魔人》の能力を見破るのだった――

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