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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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激突! 激闘!! 激戦!!!

「誰もいない……」


 ショッピングモールの屋上へと飛び出した一騎。

 目の前の光景に唖然と呟いた。


 車で埋め尽くされた屋上。

 だが、人気はなく、主から乗り捨てられた車の数々は一騎に廃墟のイメージを連想させるには十分な光景だった。


 空気に呑まれかけた一騎のギアに通信が入る。


『一騎君、聞こえるか?』

「クロムさん?」

『今、アステリアは君の頭上で待機している。サポートは万全。いつでもいけるぞ』

「ありがとうございます」


 一騎は感謝の言葉と共に、今一度、屋上を見渡した。


(廃墟なんかじゃない。これはここに人がいるって証なんだ)


 今、このショッピングモールのシェルターには大勢の人が避難している。

 それはこの屋上に止められた車の数よりもさらに多いだろう。

 《魔人》が出現した場所のすぐ近くに大勢の人達がいる。

 彼らの運命も背負っているのだ。

 

 一秒だって無駄に出来ない。


(戦えるか? 僕に?)


 一騎は己と向き合う。

 

 何度も心を手折られ、無力に嘆いた過去。

 だが、それ以上に、一騎の脳裏に思い浮かぶのはみんなの笑顔。


 イノリの――

 結奈の――

 特派の――


 みんなの笑顔だ。


 その笑顔を守る為なら。

 大切な人の笑顔を守る為なら。


(僕は戦えるッ!)


 一騎はイクスギアを構え、心の奥底から叫ぶ。

 みんなに託された力――不可能を覆す可能性の力を!


「イクスギア――フルドライブッ!!」


 直後、一騎の全身が白銀の光に覆われる。

 そして、未知数イクスの名を冠する鎧――イクスギア《シルバリオン》を顕現させ、その身に纏わせた。


 一騎が纏った《シルバリオン》の姿は以前とは異なる形をしていた。

 相変わらず、武器と呼べる物は両腕部に装着されたパイルバンカー内蔵型のガントレットのみだが、さらに追加装甲として、腰にはイノリが纏った《流星》のように左右に展開された腰当てから白銀の魔力が噴出している。

 これは一騎がここ数日の特訓で獲得した小型のスラスターだ。

 一騎の膨大な魔力を動力にして稼働する推進剤。


 《流星》ほどの力は発揮出来ないが、機動力の乏しい《シルバリオン》にとっては欠かせない武装と言える。


 さらには両足を覆う鎧にも変化が見られ、以前まで白銀のブーツから一変。

 ガントレットよりも小型化されたパイルバンカーを内蔵している為か、重厚感の溢れた禍々しい鎧へと変貌していたのだ。

 拳闘主体の《シルバリオン》の攻撃力を上げる為の武装だ。

 キックなどの蹴り技と同時に併用する事で、さらに威力を上げる事が出来る副武装としての役割がある。


 新たに生まれ変わった《シルバリオン》を装着した一騎は腰を深く屈め、クラウチングスタートの体勢になると。


「行くぜッ!」


 両足のパイルバンカー機構を激発させ、爆音と共に空中へと体を吹き飛ばすと腰のスラスターを全力稼働させ、別の建物へと飛び移る。

 その飛距離は数百メートルにも及ぶ。

 アステリアに《魔人》の場所へと転送させてもらうより、《シルバリオン》の能力を使った方が断然に速い。

 

 着地と同時に周囲を確認。

 商店街を覆うガラス張りの天井は目と鼻の先だ。

 一騎は二度目の激発を行い、一気に商店街の天井を突き破る!



 ゴロゴロと着地しながら、されど注意は怠らない。

 跳ねるように起き上がると、一騎は眼前に佇む《魔人》へと拳を構えるのだった。


「待たせたな、未知数イクスの力でアンタを助けだす!」


 それは最後の激闘が始まる狼煙となる合図に相応しい言葉だった



 ◆



 初動は一騎に軍配が上がった。

 なにせ敵は棒立ち。

 一騎の姿を見ても動く気配がない。


 一息に《魔人》との距離を詰め、拳を放つ。

 空を切り、音すら置き去りにする速度をもって放たれる拳に《魔人》はまったく対応出来ていない。

 次の瞬間には一騎の拳に鈍重な衝撃が伝わる。

 《魔人》の腹部を捉えたのだ。

 そこから怒濤の連続ラッシュ。

 

「オォォオオオオオッ!!」


 反撃の隙を許さない一騎の拳闘に《魔人》は為す術もない。

 

『グルゥウウ……』


 苦悶に紡がれる《魔人》断末魔。

 それもそのはず。

 今の一騎の拳はインパクトの瞬間だけ、その威力が数十倍に跳ね上がっているのだ。


《イグニッション・インパクト》


 オズとイノリとの特訓で身に付けた一騎の技の名だ。

 《シルバリオン》の両腕部のパイルバンカーは強力無比。

 だが、その威力に比例して、体にかかる負担も桁違いだ。


 たった二度の行使で、ギアが強制解除される程のダメージを受け、魔力もギアを枯渇する。


 その欠点を補う為に開発された技がこの《イグニッション・インパクト》だ。


 拳が触れる瞬間にだけ、魔力で拳を強化。その威力を跳ね上げている。

 単純だが、それでいて強力。

 何より、短期決戦型の《シルバリオン》でも長時間の戦闘が行えるようになったのだ。その利点は計り知れない。

 もっとも、たった二回だけの切り札の数がさらに減り、一度の使用でギアが強制解除されるという最大の欠点は残っているが――


 それでも――


「オオオオオオオオッ!」


《魔人》との戦いにおいて、一歩たりとも引けをとっていない。


 一騎の拳が魔人を射貫き、吹き飛ばす。

 山なりに吹き飛んだ《魔人》はそのまま無人の店舗へと激突。


 さらに追撃しようと両足に力を込めた直後――


 ぞわり――と。


 一騎の総身が粟立った。


「――っ!?」


 本能がけたたましく鳴らす警鐘に従って、咄嗟に体を捻る。

 寸刻まで一騎のいた場所に光の閃光が迸ったのだ。


 その光は商店街を一閃に貫き、立ちふさがる建物を全て熔解させていた。


「あ、なんだ? あれは?」


《魔人》の能力?


 いや、次元を渡る《門》の力にあんな直接的な攻撃方法はなかった筈だ。

 クロムから事前に聞かされていた《門》の能力。

 それは異次元を渡る力で、直接的な戦闘力は皆無。

 現に、目にした《魔人》の姿も、これまで一騎が遭遇した中で一番人型に近い《魔人》だった。


《剣》のように剣のように鋭い武器もなければ、《爪》のように鋭利な五指もない。

 ユキノのように獣の姿もしていない。


 特徴と言えるのは少し尖ったエルフのような耳だけ。


 後は女性の影が《魔人》となった姿なのだ。

 とてもじゃないが、あんな光の攻撃が出来るとは思えない。


 不可解に足を止める一騎。

 その隙を見逃すまいと幾重もの閃光が一騎を貫かんと迸る。


「くそ……がっ!」


 一騎は苦し紛れに、両腕をクロスさせ、閃光を受け止める。


 ズガンッ!

 

 と一発、一発が途轍もない威力を秘めており、防御に徹したイクスギアの装甲をガリガリと削って行くのだ。


 バリアフィールドの閾値すら凌駕する威力なのか、険しい表情が一騎に刻まれる。


 覚悟を決めて衝撃に備えたものの、その威力は一騎の予想を遙かに上回る。

 次第に押され始め、ギアがバチバチと悲鳴を上げ始めた。


 一騎は防御を諦め、両足のパイルバンカーを作動させる。

 如何に小型といえど、消費する魔力は膨大。

 あまり連発は出来ないが背に腹はかえられない。


 直上に跳び、閃光から逃れた一騎はすかさず反撃に出る。

 腰のスラスターを稼働させ、空中で軌道を変更。

 《魔人》に向かって一直線に飛び込む。


 再度、拳を《魔人》へと定め、撃ち抜く一騎。

 だが、その直後。


 ガキィィン……という金属音と共に一騎の目が見開かれた。

 

「これは……」


 腕に伝わる衝撃。

 衝撃を肩代わりしたガントレットが粉々に砕け、破片が宙を舞う光景を目にしてなお、一騎の瞳から動揺の色が消える事はなかった。


 見間違えるはずがない。


 これは、この力は、《門》の力じゃない。


《反射》の力だ。


 その真相に一騎が辿りついた直後。


 今度は右腕を剣の姿へと変えた《魔人》が袈裟懸けに一騎の体を斬り飛ばしたのだ。


「がああああっ!」


 ギアの装甲をバターのように軽々と斬り裂き、バリアフィールドが刃を受け止め、火花を散らす。

 だが、その絶刀の威力は体を斬り裂く事はなくとも、一騎の体に深いダメージを与える。

 思わず口から苦悶の声を漏らす一騎。

 吹き飛ばされ、背中から建物の一つに激突し、視界が明滅する。


 剣を構えた《魔人》がその切っ先を一騎へと向け、駆け出していた。


「く……」


 迎撃しようにも、全身を苛む激痛がそれを許さない。


 こうなるなら、最初から切り札を切っておくべきだったか? と少しばかり後悔しながら、堅牢なイクスギアの耐久値に全てを賭け、残ったガントレットで防御姿勢をとった。


 《魔人》の一撃が一騎の《シルバリオン》を斬り裂き、鎧に守られたその身に刃を届かせるその刹那――


 ズガン、ズガンッ!!


 二条の閃光が一騎の眼前を遮り、《魔人》へと直撃。

 剣を盾にした《魔人》がその衝撃に吹き飛ばされるのと同時に可愛らしい少女の声が一騎の耳に届いた。


「ずいぶんと手こずってるみてぇだな」

「お、お前はっ」


 そこには、赤いギアを纏い、二挺の拳銃を手にした少女――


 芳乃凛音が勝ち気な表情を携え、一騎を見下ろしていたのだった――

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