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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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これってデート!?

「……ねぇ、一騎、聞いてもいいかしら?」


 ショッピングモールに併設された雑貨店で、グラスを眺めながら結奈が愚痴る。

 一騎も同じ商品に視線を向けながら、適当に相づちを打った。


「なんで、私があなた達のデートに同伴してるわけ?」

「……何でだろう」


 今日、最大の謎を結奈は追求してきた。


 今日はイノリとの初デート。

 先日、結奈に焚きつけられた事もあり、訓練の合間を縫って、息抜きがてらにこの大型ショッピングモールに来たわけだ。

 デートコースはすでに決まっている。


 このショッピングモールの最上階にある映画館だ。

 内容はイノリに任せてある。

 そもそも、イノリはこの世界の娯楽には疎いらしい(本人がそう言っていた)

 ネットや買い物はするものの、映画館や遊園地などのレジャー施設にはほとんど行った事がないのだ。


 だから、今日のデートはイノリの初体験である映画を選択した。

 上映時間まではまだたっぷりとあり、その間は食事もかねてのウインドウショッピングとなっている。


 のだが――


 なぜか、今日のデートに結奈がついてきたのだ。

 理由は一騎にも結奈にもわからない。


 なぜなら、誘ったのはイノリ本人。

 一騎も当日になるまで聞かされていなかった。


 その事をイノリ本人に問いただすも――


「フェアじゃないから」


 の一点張り。

 まったく要領を得ない説明に一騎は考える事を放棄していたのだ。


「フェアじゃないね……」


 一連の説明を受けた結奈はブスッと頬を膨らませ、険のある視線でイノリを睨む。


「敵に塩を送るなんて舐めた真似してくれるじゃない」


 口角を僅かに吊り上げ、苦笑と言える笑みを浮かべる結奈。


「結奈?」

「ううん、何でもないわ。イノリがそのつもりなら、私も容赦しないってだけ。ねぇ、一騎――」


 結奈は雑貨の中から二つのマグカップを手に取ると、それを一騎にみせてきた。

 俗に言うペアカップと呼ばれる類いの物で、可愛らしいハートマークが描かれたカップ。

 色は白と青。結奈はニッコリと笑顔を浮かべると、ズイッと一騎に差し出す。


「これ、可愛くない?」

「うん。可愛いね」


 特に迷うことなく即答する一騎。

 一騎の返答に気分をよくしたのか、結奈はニッコリと笑みを浮かべ。


「これ、買うわ」

「いいと思うよ」

「一騎も買うのよ」

「……え?」


 そこで初めて一騎は結奈と意見の食い違いがある事に気付く。


(え? な、なんで?)


 一騎の困惑が伝わったのだろう。

 結奈はピッと指を立て、常識を語るように口ずさむ。


「だってこれペアカップでしょ?」

「う、うん」

「恋人同士、もしくは仲のいい異性が持つ物じゃない?」

「……一概に言い切れるものじゃないと思うけどね」


 別にペアカップだからと言って、必ずしも恋人同士が買う商品ではないだろう。

 純粋にカップを気に入った独り身の人だって購入するはず。

 そうでなければ、この手の商品はすぐに販売停止になる――と言うのが一騎の持論だ。


 だが、結奈には一騎の言い分など一切耳に入っていない。


 やや興奮した顔つきでグイグイっと一騎にカップを押しつけるその表情には、鬼気迫るものがあった。

 思わず後退る一騎。


 結奈の怒った顔は幾度となく見た事があるのだが、それとは別種の表情に、本能が警鐘を鳴らしたのだ。


「これはカップルが持つ物なの! 独身でペアカップ買うとか――普通、あり得ないから」

「いや、でも、僕にはイノリが……」

「そのイノリの公認なのよ!」


(へ? そうなの!?)


 動揺する一騎。

 その隙を見逃さず、結奈は一騎の手にマグカップを握らせた。


「え……?」

「ほら、一緒に買いに行くわよ」

「えぇ……」


 すでにレジに商品を預けた結奈は早く来なさいと目で訴える。

 流石にこの状況でカップを返却するわけにはいかないだろう。


 一騎は腹を括り、会計を済ませるのだった。


(後で、イノリになんて説明しよう……)


 結奈とお揃いのマグカップを手にしながら、途方に暮れる一騎だった――


 

 ◆



 そろそろ、映画の上映が始まる頃。

 一騎とイノリ、そして結奈の三人は揃って最上階の映画館へと訪れていた。

 ショッピングモールの一角にありながら、広々とした映画館で、中にはジュースやポップコーンなどの売店の他に、上映映画に関連したグッズやパンフレットなどが並んでいる。


 無人のチケット売り場に並びながら、一騎はイノリに尋ねた。


「そういえば、今日ってどんな映画を見るのか決めてるの?」


 とりあえず、映画館でデートという目的だけは決めていたが、その内容は話し合っていない。

 イノリの初映画と言うのもあるが、一騎の映画の趣味も偏っているので、迂闊に提案する事も出来なかったのだ。


「一騎君はどういう映画が好きなの?」

「僕? 僕は……」


 はぐらかしても仕方ないだろう。

 一騎は苦笑を浮かべながら、


「アニメとかかな?」


 小さな声で呟く。

 アニメ。その中でも特にアクション映画が好きなのだ。

 アクションであれば、別にアニメでなくてもいい。

 実写やアメコミの映画だって見ている。


 だが、映画に足を運ぶとなれば、決まってみるのがアニメだろう。

 

 そんな一騎の返答にイノリは顎先を指で擦りながら、チケット画面を凝視する。


「アニメ……アニメ……」

「い、イノリ? 別に僕の趣味に合わせなくても、イノリが好きな映画を選べばいいよ?」

「ん? 選んでいるよ? 私もアニメは好きだから」

「え? そうなの?」


 初耳だ。

 見た目で判断してしまっていたが、イノリはアニメは見ない女の子だと思っていたのだ。

 興味が湧いた一騎は続けて聞いて見る。


「それって、どんなアニメ?」


 実はこの質問。一騎は凄く苦手だったりする。

 アニメ――と共通する趣味があっても、話してみるとその趣味は次元を隔たる程離れているのだ。

 朝や夕方のアニメが好き。

 深夜アニメが好き。

 だけでも、遠慮の壁が見えるのに。

 

 恋愛。バトル。ギャグ。


 などのジャンルで、さらに溝が深まるのだ。

 アニメで共通する趣味を持つ――ネットの世界なら簡単だが、身近だとそうはいかない。


「う~ん。異世界ものかな?」


 さらに意外な答えに一騎は目を見開いた。

 

(い、異世界? 異世界人なのに?)


 何という矛盾。

 異世界の申し子であるイノリがまさかの異世界好き。

 その事実に言葉を無くしていると、目が合ったイノリが恥ずかしそうに抗議した。


「ち、違うんだよ!? 異世界が好きって言うのはその通りだけど、これにはちゃんとわけがあって! ここではちょっと話せないけど、それでも……」

「あぁ、うん。わかってるよ。何となくは……」

「絶対にわかってない! 一騎君、変な誤解しているよ!?」

「ちょっと、二人とも落ち着きなさい」


 購買機の前で言い合う二人を止めようと結奈が眉間に手を当てながら二人に近づく。

 その時だ。


 ウウウウウウウウウ……――


 ありふれた日常を――非日常へと変える警報が鳴り響いた――

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