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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
第二章『イクシード争奪編』
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突然の来客

「さて、それじゃあ本題に入ろうか」


 ひとしきり騒いだ後で、クロムはテーブルの上に小型の端末をセットした。

 見た目はタブレットPCのようだが、特派の――異世界の技術がふんだんに盛り込まれた特別製で、空中艦と同じくらいの異端技術の結晶だ。


 クロムはそのタブレットを起動させると、液晶画面に一つの映像を映した。


 それは二つの光輝く結晶だ。

 

 何度もこの目で見てきた。

 異世界の力――イクシードだ。


 だが、並べられた結晶の大きさは大きく異なっていた。

 一つは手の平サイズの大きさで、綺麗な菱形の形をした結晶だ。

 画像下の表記欄には《氷雪》と記されていた。


 恐らく、このイクシードがユキノを封印した際に一騎のギアに格納されていたイクシードなのだろう。


 戦闘終了後、すぐに空中艦へとイクシードを転送していたので、ここまでの大きさとは知らなかった。

 

 そしてもう一つが――


 指先ほどの大きさのイクシードだ。

 形は《氷雪》とは事なり、欠片のような歪な形をしている。

 画像下には《銀狼》と記されていた。


 暴走しかけたイノリを助ける際に封印したイノリのイクシードの欠片だろう。


 形が歪で小さいのは恐らく、イクスギアがイノリの力を少ししか封印しなかったからだ。


「これが、我々が所持するイクシードの全てだ」


 一通りの説明を終えた後、クロムは消沈した面持ちでそう締めくくった。

 クロムの言葉にイノリは悔しげに歯がみすると拳を握りしめて俯く。


「ごめんなさい、司令……」

「イノリ君のせいじゃないさ。彼女の存在を関知出来なかった俺達の責任だ」


 自分を責めるイノリの肩にクロムはそっと手を置いた。

 頭を上げたイノリの瞳には涙が溢れていた。

 クロムは太い指先でイノリの涙を拭うと、困ったように笑みを浮かべた。


「君が泣く必要なんかこれっぽっちもないぞ」

「でも……」

「奪われたなら取り返せばいい。違うか?」


 チラリとクロムと一騎の視線がかち合う。

 一騎は自信ありげに頷くと、イノリの柔らかな銀色の髪に手を置いた。


「大丈夫だよ。クロムさんの言った通り、奪われたら取り戻せばいい。それに何も悪い事ばかりじゃないよ。ですよね、クロムさん?」

「あぁ、その通りだ。彼女の――芳乃凛音が俺達に与えた情報は大きい」

「そうね、そればかりは感謝しないと。なにせ、《銀狼》を除けば十九個のイクシードが集まっているんだもの」


 液晶画面を見つめながらリッカがぼやく。

 リッカが視線を落とす先には芳乃凛音が纏った深紅のイクスギア――《スターチス》のステータス情報が映し出されてる。

 そこには奪われた十五個のイクシードに加え、さらに三つのイクシードの情報が記載されていた。


「恐らく、凛音ちゃんが封印したイクシードは《迷彩ステルス》、《剛糸ネット》そして――《火神の炎(イフリート)》ね」

「彼女に封印された《魔人》はどうなったと思う?」

「普通に考えれば、彼女の組織に監禁されているとみるべきでしょうね」


「あ、あの……」


 クロムとリッカのやり取りに一騎はおずおずと口を挟み、誰も踏み込まない憶測へと足を踏み込んだ。


「こ、殺されたりは……?」


 最大の懸念を口にする。

 封印された召喚者の殺害――それは考え得る限り、最悪のパターンだ。

 クロムもイノリも当然、その可能性を考慮していたのだろう。

 重苦しいため息を吐き、押し黙る。


 だが、そんな中、リッカだけはいつものお気楽さを垣間見せ、一騎に笑みを浮かべてみせたのだ。


「たぶんだけど、その可能性は低いわね~」

「ど、どうして!?」

「それは、私達に利用価値があるからに決まってるじゃない。イクシードを狙う連中よ。なら、捕まえた召喚者を徹底的に調べ上げて、その秘密を探りたいはずよ。私ならそうするわ」

「……こんな場所で君の性癖を明かさないでくれ」


 クロムが眉間を揉みほぐしながら、一応、諫めてみるが、リッカは面白がるようにニヤリと性根の悪そうな笑みを浮かべたままだ。


「何よ、私の性癖なんて昔から知ってるくせに」

「研究熱心なのはいいが、のめり込み過ぎるなと言っているんだ。気になる事は徹底的に調べ上げる――君のその呆れた趣味には感謝しているが……調べられる身にもなってくれ」

「あら? まだあの時の事を気にしているの? ずっと昔の話しじゃない」

「それでも、だ。心に残るトラウマもある。特にイノリ君も一騎君も君の昔を知ってるわけじゃないんだ。そう簡単に――って、どうした、二人とも?」


 目を点にしてリッカとクロムのやり取りに放心していた一騎とイノリが同時に少しばかり頬を赤く染める。

 恥ずかしそうに俯く中、一騎はオズから聞かされていた内容を思い出す。



 二人の関係に口は挟まない方がいい。地獄を見る――



 それはかつて、オズが一騎に促した警告だ。

 クロムの本来の姿を知っている一騎にしてみれば、クロムを怒らせれば、どんな地獄を見るか――想像するのは容易だ。


 いや、恐らく、一騎の想像など容易く超えた地獄が待っているだろう。


 なにせ、クロムとリッカによる同時折檻だ。二人の力が合わされば――恐らく誰も止められない。


 俯いた一騎の表情は赤面から一瞬で青ざめたものへと変る。

 恐怖が思考を縛り付け、一騎は咄嗟に話題を逸らした。


「い、いえ、そんな事より、どうしてもう一つのギアが? 適合者はもう僕とイノリさんのはずですよね?」

「……それは私も気になっていました。どうして、イクスドライバーが彼女の手に? あのドライバーは廃棄処理されたはずですよね?」


 イノリも鋭い表情を浮かべ、その真意を問いただす。


 リッカは苦しげな表情を浮かべ、ひとしきり迷った後、ゆっくりと口を開く。


「ええ、その通りよ。ドライバーは全て破棄した……はずなんだけどね」


 曖昧なリッカの言葉は、彼女自身が凛音の使うドライバーの出所を把握していないが為。

 暴走したイクシードを鎧として纏い、力と変えるイクスドライバーは戦闘力こそ強大だが、常に使用者の暴走のリスクを孕む禁断のギアだ。


 イクスギアが完成した時にプロトタイプも含め、全て破棄した――はずなのだ。


「けど、実在しているのよね~」


 呆れた表情を浮かべ、リッカは《スターチス》の映像を拡大表示させた。

 映像に記された数値は全てにおいて一騎の《シルバリオン》、イノリの《アングレーム》を上回っており、その数値を見たイノリが苦虫を噛んだ表情を浮かべていた。


「数値も私が知ってるドライバーのまま。とても偽物とは思えない。それだけじゃないわ。このドライバーにはもう一つの――新しい機能が盛り込まれているの。それがこの拳銃よ」


 凛音の使う二挺の拳銃は《火神の炎》を纏った時にギアが生み出す鎧の一部ではなく、新たに造られた武器らしい。

 その最大の特徴は銃弾にイクシードの力を纏わせて撃ち出す――といった規格外の力だ。


 能力そのものはイクスギアの劣化版。だが、二挺の拳銃を使うことで、凛音は理論上では同時に三つのイクシードの力を扱える事になる。

 もっとも、三つのイクシードの同時使用に耐えられるだけの魔力があれば、の話しだが……


「凛音ちゃんはこの前の戦闘で《火神の炎》をギアとして纏った状態で《雷神》のイクシードを使ってみせた……恐らく二つの能力を同時に使うだけの技量はあるんでしょうね……

 力も能力もイクスギアを完全に上回っているわ。さてさて、どうしたものか……」

「その為の特訓だ」


 この難題を解決する為にクロムが提案した特訓に――イノリはうんざりした表情を浮かべ、対照的な二人の顔つきを交互に見つめ、一騎は怪訝な表情の覗かせた。


「どうしたの、イノリさん」


 特訓という言葉に疑問を抱くことがなかった一騎は嫌そうな顔を浮かべるイノリにその真意を問いただす。

 イノリはやはりげんなりした顔で、一騎の耳元に顔を近づけ、囁いた。


「司令の特訓って、鬼のようなメニューなんだよ……」


 今にも泣き入りそうな声音で囁くイノリの言葉に体から血の気がサァーっと引いていく。

 あのイノリが人前で素の口調に戻る程のメニュー……


 そんなの、ひ弱な一騎に耐えられるはずが……ないッ!


 すぐにでも断らないと干からびるッ!


 命の危険を感じた一騎。

 その行動は迅速だ。


 表情を引き攣らせたまま、一騎は涙目を浮かべ、恐る恐ると尋ねてみた。


「えっと、クロムさん、その特訓って具体的には……?」

「ん? そうだな、まず――――――」


 その続きを理解する事を一騎の本能が拒絶した。

 

 ただ、これだけはわかる。


 命がいくつあっても足りない……ッ!


 この地獄を回避する為に、一騎は泣き叫びたい一心で必死になって打開策を探る。


 泣いてる暇があるなら、頭を動かせッ!


 けたたましく鳴らす警鐘は早鐘の如く。

 一騎は茹で上がる程必死に頭を回転させるものの、


 結局、有効な打開策を見つける事が出来ず――


 途方に暮れかけたところで……


 ピンポーン――……


 来訪を知らせる呼び鈴が鳴り渡り、一騎はその来客に安堵の吐息をもらすのだが――



 クロムがリビングまで案内した来客の顔を見た瞬間、その表情は一変。

 凍り付く事になった――


「ゆ、結奈ッ!?」


 驚いた様子で声を荒げる一騎。

 イノリはムスッとした表情を浮かべ――


 早くも一波乱ありそうな雰囲気へと状況は一変するのだった――

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