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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
163/166

イクスギア《シルバリオン》

「ふ、やはりこの程度か……」


 トワイライト――トワは退屈そうに欠伸を交えながら、総司へと興味のない視線を向ける。


「……くっ」


 総司は呻き、トワを睨む。

 だが、総司の視線を気にした素振りを見せない。

 それも当然といえた。


 総司の体は満身創痍と言ってもいい程のダメージを受けていた。

 片腕を捥がれ、両足を切断され、黄金の鎧は粉々に砕かれていた。

 体がイクシードで創られた魔力で出来ていなければすでに死んでいる程の怪我だ。


「やはり、貴方には生前ほどの力はないようだ。そのギアも飾りだな」


 少し、憂鬱そうな表情を見せ、トワは捥いだ腕を投げ捨てた。


「君には少しばかり期待していたんだが……」

「期待……だと?」

「あぁ。《複製トレース》の力がどれほどの物か興味があってね。だが、拍子抜けだ」

「あぁ……そいう事か」


 総司はトワの考えを射貫き、肩を竦めた。

 《複製》の力はイクシードさえも複製できる強力な力だ。

 トワがアルティメットギアの力を試すには都合のいい相手だったのだろう。


 だが――


「買いかぶりすぎだ。私は、生前ほどの力もなければ、私の力を満足に使えるわけでもない」

「そのようだ。君はメアとは違うようだ」

「あの自立型イクシードの事か?」


 トワは目を丸くし、少しばかり驚いた声音で返した。


「気づいていたのか?」

「もちろん。私もイクシードだ。気づくに決まってるだろ。彼女の正体を、そして――彼女の目的を」

「メアの目的? あぁ、一ノ瀬一騎を殺す事か?」

「殺す? 彼女が?」

「あぁ。私に彼女はそう言ったよ。弱いマスターはいらない。とね。そして彼女の怒りは本物だ。疑う余地すらない程にね」

「なるほど……」


 総司は呆れたような眼差しをトワへと向けてた。

 そして確信する。


「彼女は芝居上手のようだね」

「芝居?」

「あぁ。君は見抜けなかった。私たちの本質を」

「君たちの本質だと?」

「あぁ」


 と総司は呟く。

 イクシードは召喚者や一騎たちにとって生命エネルギーの源たる力。

 そして、何より――

 イクシードは力の依り代――器があって初めて真の力を発揮する。

  

 総司が生前の力を発揮できない理由がそこにある。

 《複製》の能力で生み出したギアを満足に扱えない。

 ギアを維持する魔力だけで背一杯だった。

 とてもじゃないが《次元崩壊ディメンション・カラプス》や《次元消滅ディメンション・ブレイザー》を使えるだけの魔力がない。


 そもそも、今の総司は実践で戦えるだけの力がない。

 総司は肉体の維持に魔力の殆どを使っているからだ。

《黒騎士》や《戦乙女》を複製する分には問題ない。

 だが、ギアを複製し、《偽・ゲート》を複製し、ギアの力を使うとなれば、話は別だ。

 魔力消費量が増え、肉体が消滅してしまう。


 だからこそ、イクシードの力を発揮するには器たる人間が必要だと、総司は身をもって実感している。

 そして、それはメアも同じだろう。

 自立型イクシードといえどそれは変わらない。

 器たる一騎を殺すなどありえない――

 逆に器を守るだろう。

 器が真の力を発揮するまで成長するのを待ちながら――


「それが君の敗因だ。イクシードを理解出来なかった――がはッ!!」


 トワは剣呑な眼差しを総司に向け、鋭い手刀を総司の胸に突き刺す。


「君の話はつまらない。そろそろ君を頂こうか」


 トワの手が総司の肉体をまさぐる。

 その度に総司の表情が苦悶に歪む。

 嗚咽が漏れ、悲鳴がトワの鼓膜を震わす。


「さぁ、君のイクシードをよこせ」

「ぐ……あッ」


 総司の肉体を維持する核――イクシードがトワの指先に触れる。

 トワが総司からイクシードを奪い取る。


「させるかああああああああッ!!」


 その直前、白銀のギアを纏った一騎の拳打がトワを殴り飛ばす。

 総司は疲れた表情を覗かせる。


「まったく、待たせてくれるな……時間稼ぎをしているこちらの身になって欲しいよ」

「……悪い」


 一騎は総司をチラリと見やる。

 胸に空いた拳ほどの大きさの穴は痛々しい。

 傷口からは魔力が溢れ、総司の体が光の粒子となっていた。


 恐らく、肉体を維持するだけの魔力が尽きているのだろう。


「無理させたみたいだな」

「まったくだ」

「ゆっくり休んでてくれ、アイツは……が倒す」

「そうさせて……もらおうか」


 総司はギアを解除し、ゆっくりと瞼を閉じた。

 魔力の消費を抑える為だろう。

 完全に意識を落とし、肉体の維持に魔力を集中させる。


 一騎は休眠状態に移った総司を背に、トワの前に立つ。


「行くぜ……メア」


 さぁ、始めようか。

 最後の戦いを。

 みんなを守る為に……



 ◆



「君は……一ノ瀬一騎か? それとも……メアか?」


 トワは一騎から感じる威圧感に戦慄を覚えていた。

 今までの一ノ瀬一騎じゃない。


 髪の色が黒から白髪へと変わり、瞳の色も深紅へと変わっていた。

 だが、何よりも変わったのは、一騎の気質だ。

 優しい面影を残しながらも、闘争本能を隠さない、勝気な雰囲気。

 一騎とメアを合わせたような……そんな雰囲気だ。


「俺は……俺だ。他の誰でもねぇよ」


 一騎はようやく取り戻した力を嚙みしめながら、拳を握る。

 拳闘の構えをとると容赦なくトワを見据えた。

 そして――


「――ふっ」


 爆ぜるように動く。

 一瞬で一騎とトワの距離が詰まる。

 閃光のように突き出された拳打をトワは辛うじて避ける。

 だが、拳打は総司の頬を掠め、僅かではあるがダメージを与える。

 

 身を屈め、腰を深く落とし、足を地面に縫い付けた重い拳はトワの体を軽々と突き飛ばす。

 トワを地面から引っこ抜く程の衝撃。

 漆黒のギアが軋みを上げ、トワの表情が険しくなる。


「この……威力ッ」


 トワは一騎の力を改めて観察する。

 三か月前の戦いのデータは研究会の資料で目を通していた。

 

 だが、今の一騎が纏う《シルバリオン》はデータ以上の力を引き出している。


(これが……メアの狙いかッ!?)


 メアの狙いにトワは奥歯を嚙みしめる。

 三か月の一騎の力なら、容易に倒す事が出来た。

 だが、この戦いで一騎は成長した。

 

 《シルバリオン》の力を十全に引き出し、アルティメットギアを纏った総司と渡り合えるほどに。


 閃光のような拳の一撃をいなし、トワがたまらず距離を離す。

 だが、一騎はそれを見越していた。


「おおおおッ!!」


 トワが身を引くのと同時に、腰を落とし、地面を踏み砕く。

 ドンッ!! と大気が震え、一騎の体が凄まじい速度で突進する。


「――くッ」


 そのあまりの速度にトワは目を剥く。

 それもそうだ。

 これほどの突進――トワが身を引くと予測していなければ出来ない。

 

 まるで予知のように相手の心理を射貫く洞察力。


《覚醒》を獲得した一騎は、一時的に生存本能により封印された肉体の枷を破壊する事が出来る。

 視覚は不要な情報を排除し、世界がモノクロへと変わる。

 視覚は色を排除し、動体視力を飛躍的に高める。

 全ての動きを捉え、トワ行動予測を可能とさせる。


 呼吸のテンポ。視線の動き、筋肉の予備動作――全ての情報を一瞬で纏め上げ、未来予知に等しい洞察力でトワを翻弄。


 反撃の隙を与えない。


「おおおおおッ!!」


 両腕のガントレットから白銀の魔力が噴出。

 両腕に魔力を纏わせ、爆発的な攻撃力を生み出す一騎の切り札。


 白銀の魔力を纏った一騎が大仰に拳を構える。

 ガシャン――……とガントレットの形状が変化。

 まるでパイルバンカーを連想させるような形状へと展開。

 

 一騎は腰を深く落とし、狙いを定め――


「オーバーロード! フィストブレェイイイイイクッ」


 渾身の一撃をトワへと叩き込むのだった――

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