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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
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イノリとよく似た少女

 結城とハクアが壮絶な戦闘を繰り広げる一方。

 『次元の狭間』で修行を行っていた一騎たち。


 その修行も佳境に差し掛かっていた。


 満身創痍の一騎を取り巻く――四人の《黒騎士》

 一騎はその四体の敵と戦い続け、すでに半時が過ぎていた。


 四体の《黒騎士》の攻撃を受け、捌き、くぐり抜け、一騎は反撃に出る。

 

「そこぉッ!!」


 《ブレイド》のイクシードを装填。

 直剣を握りしめ、一閃。

 防御に徹した《黒騎士》たちを薙ぎ払いで吹き飛ばす。


 魔力の少ない一騎が《黒騎士》と互角に渡り合う。

 

 その埒外の膂力を可能としたのが、アリスとの闘いの時に身に着けた魔力操作によるものだった。

 瞬間的に魔力を一点に集めれば、身体能力を飛躍的に高める事が出来る。

 さらに、この過酷な状況化での修行が一騎の生存本能を刺激したのだ。


 人としての限界――リミッターの解除だ。

 死の瀬戸際で覚醒する火事場の馬鹿力とでも言おうか。

 潜在能力の全てを引き出し、力と変える覚醒を《黒騎士》との修行で意図的に発動できるようになったのも大きい。


 一ノ瀬一騎という人間の全てを引き出さなければ、一騎はとうの昔に命を落としていただろう。

 

 魔力操作と《覚醒》――その二つの技術が四体の《黒騎士》と互角の戦いを演じさせるのだ。


 そして、この力の源は一騎の技術力だけではない。

 一騎の右腕で輝くイクスブレスにもカラクリがあった。


「フルドライブッ!」


 一騎は《剣》から《流星ミーティア》へとイクシードを換装。

 剣が魔力粒子となって消える刹那。


 換装が終わっていない《流星》の能力を発動させ、最速で《黒騎士》へと肉薄。

 剣が消える一瞬に袈裟懸けに《黒騎士》を斬り伏せたのだ。


 一体の《黒騎士》を倒すのと同時に《流星》のギアの換装が完了する。


「――くッ!!」


 一騎は《流星》の超加速の反動によって苦悶の表情を浮かべた。

 ギアからの反動が無防備な一騎の体を痛めつけているのだ。



 イクシードの換装により、新たなギアを纏う時、一騎の体はギアから放出される魔力障壁によって身を守られるはずだった。

 それは、ギアを換装するその一瞬があまりにも無防備だからだ。

 鎧は次なるギアへと変わる為に、魔力の粒子となって分解される。

 身に纏うのは最低限のインナーギアのみ。


 通常兵器ならそれでもダメージは受けないだろうが、《魔人》やギアを纏った敵の前では裸に等しい。

 だらこそ、適合者の命を守る為の魔力障壁だったのだが……



 一騎はその機能をギアから取り外していた。

 ギアの詳細な設計は総司が知っている。

 総司の手により、ギアはより危険性を高めた魔改良が施されたのだ。


 換装時の魔力障壁を無くし、さらに、魔力封印システムを解除。

 全てを魔力操作とギアの能力向上に回していたのだ。


 肉体のリミッターを解除した一騎なら換装する直前、ギアの能力が消える瞬間に行動を移す事が出来る。

 僅かな刹那であろうと、換装前のギアの能力と換装後のギアの力を同時に使えるようになったのだ。

 それが《流星》の加速能力を維持した《剣》での一閃だ。


 だが、その反動は計り知れない。

 攻撃時の一騎は最低限のインナーギアだけの防御性能しかない。

 肉体への反動は到底殺しきれなかった。

 

 肉体を苛む激痛に汗を滲ませながら、一騎は一気に《黒騎士》から距離を離す。


 呼吸を整え、足で地面を蹴り砕く。

 一騎が《黒騎士》から距離をとったのは逃げる為ではない。

 《流星》の加速能力を最大限に活かすためだ。


 最高速に達した一騎の体は一筋の流星。

 大気を穿ち、空間を揺らすほどの衝撃波を身に纏って、一騎は拳を突き出す。


「おおぉッ!!」


 交差は一瞬だった。

 突き出した拳で《黒騎士》のギアと肉体を貫く。

 手刀による一撃で《黒騎士》を行動不能に追い込み、一騎は地面を削りながら静止する。


 一騎の動きが止まったその一瞬。

 その隙を突いて、三体目の《黒騎士》が鋭い突きを突き立てた。


(けど、それは読んでいた!!)


 一騎はすでに換装を終えていた。

 一騎の中で一番の防御性能を誇る氷の鎧――《氷雪》のギアだ。

 七〇万層によって生み出された氷の盾で、一騎は突きを受け流す。

 右手に装備した氷の盾。

 そして――


「フル……ドライブッ!!」


 左手に握っていた氷の剣に亀裂が生じる。

 まるで生誕の産声のように氷が砕け散る。

 そこには――光り輝く《剣》の直剣が握りしめられていた。


 一騎は無防備な格好で体勢を崩す《黒騎士》に狙いを定める。


(この距離なら、僕の剣が速い)


《覚醒》状態の一騎の動体視力が鈍間な《黒騎士》を捉えていた。

 円を描くように体を回転させる。

 刀身に遠心力を付け加えた神速の回転斬りが《黒騎士》を吹き飛ばす。


(……残り、一体ッ!!)


 剣の切っ先を最後の《黒騎士》へと突き付ける。

 この最後の《黒騎士》だけが別格だ。


 今の一騎の技能すら複製した《黒騎士》

 一騎と同じ《覚醒》の力や魔力操作能力を持ち、一騎より強大な魔力を有するこの一体はさながらラスボスといったところか。


(取り巻きは倒した――後はッ!!)


 一騎が剣を握り直し、地面を蹴る直前――


「へぇ……随分と強くなったじゃねぇか」


 この場に似つかわしくない、可愛らしい声が響いた。


「――ッ!?」


 一騎はその場に足を縫い付けられる。

 動揺が伝わったのか、剣がカタカタと音を立てて震えていた。

 

 血の気が完全に失せ、一騎の視線がその声の出所を探して宙を彷徨う。


(嘘だ……今の声は……)


 その声はあまりにも聞き慣れた――恋焦がれた声だった。

 何度も、もう一度聞きたいと思った声。

 

 一騎の心を一瞬で鷲掴みにするその声の主は――


 最後の《黒騎士》を貫く赤く染まった手と共に一騎の目の前に現れた。


 返り血を浴びた白銀の髪。

 新雪のようにきめ細かな白い肌。

 芸術品のように整った精緻な容姿。天使のような可愛らしい表情は、血に染まった勝気な表情を浮かべていた。

 


 雰囲気がまるで違う。

 かつての優しい彼女の面影はまるでない。

 瞳の色だって違う。彼女は血のように赤い目じゃなかった。


 けれど、その姿は。

 その声は――


 もう二度と会えないと、けれど、再会を恋焦がれた少女と全く同じ。


 イノリ=ヴァレンリと瓜二つだった。

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