表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
155/166

天使と悪魔

「おっと――」


 意識を失った凛音が崩れ落ちる。

 結城は、そっと凛音を抱きかかえると――一緒になって地面に倒れた。


 けれど、それも仕方がないことだった。

 度重なるダメージの蓄積によって、結城のギアは強制解除。

 立っている事すらやっとの状態で、魔力で編まれた鎧を着飾った凛音を抱きかかえたのだ。


 腕に抱き寄せた瞬間、結城の最後の体力がプツン――力尽きてしまっても文句は言えない。


 砕けた腰で地面に座り込んだ結城は、とりあえず凛音をそっと地面に下ろす。

 そして、その寝顔をおっかなびっくりといった様子で覗き込んだ。


 どうやら、ただ寝ているだけのようだ。

 見たところ、外傷のような物もほとんどない。


《ルートクロノス》による平行世界の上書きは上手くいったと考えていいだろう。


 けれど、それも凛音が目を覚ますまでは何とも言えない。


 確かに、結城は過去の世界で凛音を救った。

 凛音がハクアによって倒される前の世界へと時間遡行し、凛音と共にハクアを撃退した――はずだ。


 恐らく、凛音の体と記憶は、その時の平行世界の凛音が上書きされているはず。

 だから、問題はない……と思いたいのだが……



 結城の中には一抹の不安が残っていた。


 それは、この世界、凛音の魔力によって編まれた《赤世界スカーレット》が解除されていない事が一番の要因だ。


 この世界は、《魔王》トワイライトの力を得た凛音が創り上げた世界。

 なら、その束縛から解放された凛音に使える力ではないはずなのだ。


「どうなってんだ、これ?」


 肌をチリチリと焦がす紅蓮の世界は未だに健在。

 トワイライトの力が凛音の中にまだ残っているとしか考えられない。


 結城は恐る恐る凛音の頬を突く。

 返ってきた感触はぷにっとした柔らかい感触だった。


「……」


(そういえば、俺、マシロ以外の女の子に触るのって初めて?)


 意外な初体験をこんな非常時の中で体験してしまった。

 しかも、ここ三か月の禁欲生活が悪い方に鎌首をもたげる――


 欲望の塊が「呼んだ?」と言わんばかりに結城の中でむくむくと膨れ上がったのだ。

 

 視線は凛音の柔らかい頬だけでなく、水着のようなアンダースーツに隠れた豊穣の女神に愛されたとしか思えないたわわに実った胸。

 そして、アンダースーツとレザーブーツの絶対領域に見え隠れする、健康的な太ももが眩しく光る。


(ってか、これヤバイだろ……)


 水着のようなスーツ……と言うだけで破壊力は凄まじい。

 しかも、それを着ているのが、誰もが振り返るほどの美少女だ。

 しかも張りのある瑞々しい肌。

 手触りもマシュマロのように柔らかい。


 未だに凛音の頬をぷにぷにと押す結城。

 手が止まらない。

 止まれと命令するはずの脳すら、煩悩に支配されてしまったみたいだ。


(頬っぺたで、これだけ柔らかいって事は……)


 結城はゴクリと生唾を飲み込んで、油の切れた機械のようにギギギ……と首を頬から首元――そして胸へと動かしていく。


 凛音の呼吸に合わせて上下する豊穣の神は、まるで、結城を誘っているみたい――

 結城は眩暈を覚える程、体の熱が上がる。

 もちろん、この世界の熱に当てられてもあるだろうが。

 それ以前に何とも劣情を誘う凛音の寝姿に当てられてしまったのだ。


 体が、特に指先が震える。

 

(もし……この胸に触れたら、俺――)


 どうなってしまうんだろう……


 マシロの裸はこれまで幾度も見てきた。

 それはもう見飽きる程、見せつけられてきたのだ。


 まさか、今さらになって女性の体に心を奪われるとは思っていなかった。



 マシロには失礼かもしれないが……

 マシロの幼児体系に比べ、凛音は結城達とそう歳が変わらない筈なのに、女性としてはマシロより魅力的だった。


(けど、俺には、マシロがッ……!!)


 結城の中でマシロの姿をした天使が囁く。


『そうだよ。トールにはマシロがいるじゃない。つるペタボディ最高ッ!! って叫んじゃいなよ!!』


 あまり天使らしくない声が結城の煩悩を萎えさせる。

 確かに結城はマシロが大好きだ。

 マシロ以外の女に目移りするなんて…・…


 そこで――


 黒い羽根を生やしたいかにも悪魔らしい格好をしたマシロが嘲るような笑みを浮かべる。


『けど、いいのぉ? ここで触っとかない、一生触れる機会なんてないよ?』

『わ、私ッ!? 何言ってるの? トールは私だけ見れてばいいんだよ!?』


 狼狽えた天使を蹴飛ばしながら、悪魔が結城の耳元で囁く。


『トールも見た事ないでしょ? 触った事ないでしょ? 見てよ、リンネのおっぱい。――ちっ、デカいわね……』

 

 なぜか、悪魔と天使が身もだえるようにダメージを受けていた。

 けれど、悪魔は汗を滲ませながら、結城を篭絡にかかる。


『私には無い魅力――今は誰の目もないわ。結城の心のアルバムに仕舞っておけばきっと誰にもバレない――チャンスは今しかないよ!!』

「けど、マシロがッ!!」

『私を理由に目の前のおっぱいから逃げていいの!?』

「おっぱいは、大事だ! 俺だってこんなでけぇおっぱい見るのは初めてだよ。触ってみてぇよ……けどな……」


 結城は目尻に熱い涙を浮かべ、煩悩と向き合う。

 結城がこの世界で一番会いたいのは、好きなのは――?


 そんなの決まってる。


「マシロの方が好きなんだよ!! ロリコンだって言われても構わねぇ!! 一騎やマシロにドン引きされたって構わねぇ!!」


 思えば、あの浴槽で神秘的に漂っていたマシロを見た時から心を奪われていたのかもしれない。

 この世界でマシロに敵う魅力を兼ね備えた女の子などいるはずがない。

 

 たとえ、凛音が神に愛された胸の持ち主であろうと――

 結城は、豊穣の神から見放されたマシロの胸の方が好きだ。


「言ってやるよ。誰の目の前でも。俺はマシロの膨らみかけのおっぱいの方が好きだ。

 つるペタボディが最高だってよ!!」

「……だったらよぉ……」


 興奮して魂の雄たけびを上げる結城に冷水を浴びせるように冷ややかな声が突き刺さる。

 

「……え?」


 心臓を鷲掴みにされたような衝撃が結城を襲う。

 動悸が一瞬で最高潮に達する。

 冷や汗が止まらない。

 恐る恐る視線を向ければ、頬を引き攣らせた凛音がこめかみを僅かに痙攣させ、結城に絶対零度の視線を向けていたのだ。

 その視線には、先ほどのような殺気は消え失せていた。


 けれど、溢れんばかりの怒りがその視線から見て取れる。


「め、目ぇ覚ましたのか?」

「……あぁ、おかげ様でな」


 険のある声音で凛音は返す。

 今にも襲いかかってきそうな雰囲気だが、鬼気迫るような迫力に飲まれ、結城は逃げる――という選択肢を逃してしまった。


 ガシッ! と凛音が結城の腕を掴む。


「――ッ!!」

「――で?」


 声を詰まらせた結城に凛音は、薄ら笑いを浮かべ、視線を結城の腕へと下げる。

 結城もつられるように視線を下げ、そして、全身を硬直させた。


「つるペタボディが好きってわりにゃ、ずいぶんとあたしの胸を好き放題触ってくれてんなぁ?」


 結城の中の悪魔までもが、凛音の憤怒の瞳に意識を失って泡を吹いていた。

 結城の右手は――抑え込んだはずの欲望に負け――凛音の胸を鷲掴みにし、その柔らかさを麻痺した脳へと必死に送り続けていたのだ。


 けれど、胸の感触より、恐怖の方が勝ってしまったのか……

 凛音の胸の感触は何一つ伝わらない。

 ただ、指を動かすほど。

 凛音の胸を堪能するほど。


 凛音の怒りボルテージがマックスへと近づくのを、肌で感じる。

 結城は緊張をほぐすように明るい口調を心掛け――


「な、ナイス、おっぱい?」


 凛音の怒りの導火線に火をつける。


 ブチッ!! と誰が見てもわかるほど、凛音は怒りを爆発させ――


「あぁ、そりゃあよかった――

 それで……いつまであたし様の胸を触ってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「うぎゃああああああああッ!?」


 《ロートリヒト》の銃底で勢いよく結城を吹き飛ばすのだった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ