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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
153/166

ルートVSイフリート

 凛音の持つ二挺の拳銃――《ロートリヒト》の銃口が結城に向けられる。


 ドパンッ! ドパンッ!!


 二挺の拳銃が同時に火を噴く。

 深紅の銃弾が結城を貫く直前――

 

「イクスギア――フルドライブッ!!」

 

 右腕のブレスレットから溢れ出した魔力の障壁が、弾丸の悉くを弾き飛ばす。


 魔力の障壁は、結城の体を包み込むと、結城の着ていた衣服を粒子に分解する。

 無防備な体を包み込むように、一騎とは色違いの蒼いイクスジャケットがその身を覆った。

 袖のないジャケットは割れた腹筋を惜しげもなく晒し、鍛えた肉体を魅せるデザインだ。

 さらに、肩から胸にかけて鎧のようなパーツが装備され、結城の両腕には禍々しい形状の手甲が装備される。

 結城が拳を握るのに合わせて、黒い指ぬきのグローブがギチギチと音を鳴らす。


 腰からは魔力繊維で編まれたコートの裾が激しく翻っていた。

 ズボンは革で出来た細身のズボンへと瞬時に変わっていた。


 魔導装甲イクスギア《ルート》


 超常と戦う為の結城の戦装束だ。

 結城は変身を終えると、魔力の障壁を蹴破り、凛音に向かって拳を突き出す。


「あんたはここで倒す!」

「出来るもんならッ!!」


 凛音が吠え、《ロートリヒト》を乱射する。


 結城はその攻撃に対し即座に反応。

 魔力を全身に滾らせ、身体能力を強化する。

 全身から淡い蒼色の魔力が噴き出す。

 

 ドクン……と心臓が早鐘のように脈打ち、全身の筋肉がギチリッ……と悲鳴を上げた。

 両足に力を込め、地面を蹴り上げる。

 ドンッ! と地面が爆ぜ、結城の姿が凛音の視界から掻き消えた。


「な……ッ!!」


 瞬間、イノリが息を詰めた。

 

 結城は身体にかかる負担を気合で圧し殺し、さらに身体能力を引き上げる。


(……見極めろッ! 全てを、色なんていらねぇ!!)


 視覚は必要な情報だけを脳へと伝達。

 世界から色が消え、モノクロの世界へと一変した。


 その世界の中で、凛音の放った弾丸がスローモーションで結城に迫る。

 強化された今の結城にとって、弾丸の嵐を避けるのは容易い。

 針の穴を突くように、弾丸の僅かな隙を掻い潜り、着実に凛音との距離を殺す。

 その間、僅か一秒。


 《ロートリヒト》の引き金に指をかけたまま、目を見開いた凛音に一瞬で肉薄。

 その背後では、弾丸が地面を削る音が際限なく鳴り響いていた。


 拳が届く距離。

 この距離が結城の一番得意な距離であり――

 その逆――凛音が最も苦手とする距離だった。


「おおおおおおおおッ!!」


 裂帛の咆哮と共に、結城は魔力を纏わせた拳を突き出す。

 

「――ちッ!」


 凛音は舌を鳴らすと両腕をクロスさせ、結城の剛腕を受け止める。

 ミシリ……と不快な音が鼓膜を震わせた。


 魔力を纏わせた結城の拳はただの銃弾よりもはるかに強力だ。

 まるで、至近距離でグレネードを叩き込んだかのような轟音が轟き、

 結城の拳を防いだ凛音の片腕があらぬ方向へと折れ曲がっていた。


 苦悶の表情を浮かべながらも凛音は戦意を剥き出しにした瞳で結城を睨んでいた。

 この程度のダメージなど、凛音にとっては無傷に等しいからだ。


 凛音の纏うイクスギア《スターチス》の最大の特徴は、馬鹿げた火力ではなく、尋常ではない回復力にある。

 腹を貫かれようが、腕を砕かれようが、一瞬で回復する治癒の炎こそが《スターチス》の最大の武器だ。

 砕かれた腕は治癒の炎で焼かれ、瞬時に回復する。


 凛音は獰猛な笑みを浮かべながら、ゼロ距離で結城のこめかみに銃口を押し当てた。


「やべッ!!」


 咄嗟に体をずらし、銃口から逃れる。

 だが、その反応が僅かに遅かったらしい。

 結城の額を高熱の弾丸が削る。

 頭蓋の上を削ぎ落すように弾丸が肉を削り、結城の頭から血しぶきが舞った。

 だが、それだけだ。

 肉を削がれた激痛こそあるが、脳を貫かれたわけでも、神経を絶たれたわけでもない。

 僅かに肉を削いだだけ。まだ戦える。


「う、おあああああああッ!!」


 結城は半月蹴りの要領で、半身を持ち上げ、凛音の手を蹴り上げる。

 続く二撃目を避け、追撃を防ぎながら、結城はぶつかるように凛音に体当たりする。


「ち……ッ」


 再度、凛音が銃口を結城へと向ける。

 咄嗟に手甲で銃口を弾く。逸れた弾丸は脇腹を抉った。


「うおおおおおおッ」


 痛みと恐怖を雄叫びで吹き飛ばしながら、床を強く踏み込み、突進。

 勢いを乗せた渾身のストレートをがら空きの凛音の胴を狙って打ち出す。


 だが、その瞬間。


「アーマービット!!」


 凛音の咆哮と共に、深紅の鎧が凛音から弾け飛び、鎧の欠片が結城の拳を防いだのだ。

 それは、凛音の意思に呼応して動く《スターチス》の鎧たち。


 驚愕に見開く結城の死角から狙いすましたように、深紅の魔力エネルギーが頬を焼いた。

 

「……ッ!?」


 咄嗟に視線を向ける。

 結城を囲むように包囲した《スターチス》の鎧たちが、深紅のエネルギーを煌々と輝かせていたのだ。


 回避は間に合わない――ッ!!


 結城は顔を守るように腕をクロスさせる。

 その直後、凛音がその引き金を引き絞る。


「貫け! 《スターチス》!!」


 深紅の魔力エネルギーが散弾のように結城に降り注ぐ。

 

「ぐ……おッ!!」


 灼熱の光と轟音が結城の視覚と聴覚を奪う。

 さらに、全身を襲う鈍痛が張り巡らせた集中力を根こそぎ奪っていく……


 全力で魔力障壁を展開しているが、障壁を貫いて、魔力弾がギアを破壊していく。

 一瞬でボロボロになる《ルート》の鎧。


 結城は身体を蝕む激痛を無視して、大きく息を吸い、体に力を込めた。

 

(ここ……だッ!!)


 銃弾の嵐の中、一瞬の空隙を突き、結城は逃げるように地面を蹴りこんだ。

 大きく体勢が崩れるも、結城はその勢いに逆らわず、転がるように射線上から逃げる。


「逃がすかッ!!」


 再び、銃口を向けられる恐怖に体が強張る。

 だが、結城はその恐怖を雄叫びで吹き飛ばし、金縛りから脱出。

 全力で凛音から逃げると間合いの外に飛び出た。


 だが、安心は出来ない。なにせ凛音の武装は全て遠距離武器だ。

 全身武装の少女にこの程度の距離は無意味。

 むしろ、拳の間合いから離れた分、不利になったのは結城の方だ。


「はぁ……はぁ!! クソ……やっぱ、つえぇ……」


 わかっていたが、凛音は強い。

 この世界で一番長くギアを纏ってきた少女。

 そして、特派と合流せず、一人で《魔人》と戦続けてきた少女だ。


 こと戦闘経験において、結城は凛音の足元にも及ばない。

 加えて、天才的な戦闘センスに巧みな魔力操作。

 そして《火神の炎(イフリート)》という強力なイクシード。


 魔力の量では勝っているとは言え、正面から戦えば、こうなるのは当然だった。


 だが――


(いけるッ!!)


 確かに手ごわい相手だが、結城も負けていなかった。

 何故なら、結城はまだ一度も《ルート》の力を発動させてないからだ。


 平行世界にアクセスし、選び取れる未来を引き寄せる《ルート》の能力。

 結城はその力を使わず、正面から凛音と拳を交える事が出来ていた。


 それに、戦い方の癖もよく分かった。

 

(戦闘経験、それに戦い方――俺は、魔力以外の全部でお前に負けてる……けどな……)


 この三か月、結城は凛音と同じ戦い方をする戦乙女ワルキューレの大群とずっと戦い続けてきたのだ。

 だから――

 対凛音戦においてだけ言えば、結城は誰よりも凛音の戦闘パターンを熟知していた。


 小手調べはもう終わりだ。

 戦い方も戦略もほとんど戦乙女と変わらない。

 これなら、《ルート》の力を使わずとも、戦える。

 

 結城はイクスギアから《クロノス》のイクシードを顕現化させると、ブレスレットに装填した。

 

「フルドライブッ!」


 起動認証スタートアップに呼応して、結城の体が再び魔力の光に包まれる。

 ボロボロだったギアが修復され、

 顔を覆い隠すように仮面が素顔を隠す。

 その仮面にはイクスギアに関する各種パラメータが表示されていた。

 魔力総量、ギアの耐久値。そして結城の体力や《ルートクロノス》の持続時間などがまるでゲーム画面のように表示されている。


 さらに右腕には時計の文字盤を模した盾が装備された。

 重厚感のある小盾は《ルートクロノス》の中で一番防御性能が高い。

 凛音の弾丸だって受け止める事が出来るはずだ。


 一瞬で《ルートクロノス》へ装備を換装した結城は、盾で銃弾の全てを防ぎながら、全身に魔力を循環させる。


 仮面に内蔵されたスピーカーから聞きなれた声が聞こえた。


『マスター、《ルートクロノス》を発動しますか?』


 事務的で抑揚のない声。

 だが、その声は何度も結城を救ってくれた天の声だ。

 今さら疑う事はない。

 結城は万感の想いを込めて、叫んだ。


「おうッ! 今度こそアイツを助けるぞ!!」

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