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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
152/166

新世界へのカウントダウン

「うおりゃああああああああああッ!!」


 結城の慟哭交じりの咆哮がその日、次元の狭間に轟いた。

 身に纏うのはイクスギア《ルート》


 だが、その装いはかなり変わっていた。

 盾を装備した《ルートクロノス》でもなければ、

 基本形態の《ルート》ですらない。


 深紅の軌跡を描き、目に見えない速度で並み居る戦乙女ワルキューレたちを翻弄するそのギアの輝きはマグマのように灼熱の色を宿した深紅のギアだった。


 《ルート》本来のギアに、肩から胸。腕の鎧。そして背中にも新たな鎧が展開され、《ルート》がさらなるパワーアップを果たしていた。


 結城は地面を蹴り上げながら、戦乙女と激しい接近戦を繰り広げる。

 強度が格段に増した手甲の鎧で戦乙女の攻撃を防ぎながら、パワーアップしたギアの出力に物言わせ、戦乙女を蹴り飛ばす。


 ドンッ!! と大気が激しく震え、吹き飛ばされた戦乙女の体が消滅する。


「これで、四十九!!」


 結城の深紅の双眸が残った最後の一体へと向けられる。


「これで、最後だ!!」


 肩のパーツ、そして背中に装備されていた鎧がギアから解除され、

 その全てが右手の手甲へと集結し一つの武具となる。


 より禍々しく、そして頑強になった手甲の鎧は、まるで巨大な槍のような形状をしていた。

 可視化する程の濃密な魔力が深紅の稲妻となってスパークする。

 その魔力エネルギーは結城の腕へと集まり、マグマのように濃密な深紅の魔力をその槍に纏わせた。


「うおおおおおおおおおッ!!」


 地面を蹴り上げ、渾身の一撃を戦乙女へと叩き込む。

 その瞬間――結城の体は深紅の閃光へと化していた。


 目にも止まらぬ速度で駆ける体は稲妻と化し、

 槍と一体化した右腕は、雷鳴のような地鳴りを轟かせ、大気を射抜く。


 コンマ数秒以下の交錯の末――


 結城は戦乙女の半身を吹き飛ばし、五十体の戦乙女をついに倒しきったのだった。



「はぁッ! はぁッ! ……――」


 結城は乱れた呼吸を整えながら深紅の燐光を纏ったギアを解除。

 それに示し合わせるように、深紅の双眸が元の色に戻り、可視化するほどの魔力のエネルギーが嘘のように霧散した。


ギアを解除した結城は、そのまま力尽きたように大の字に倒れると――


「おっしゃあああああああああ!!」


 感極まったかのように片腕を持ち上げ、勝利の雄たけびを上げた。



 この次元の狭間で修行を行い、三か月近く。


 ついに、戦乙女の五十人抜き――そして新たな力、《ルートハザード》を会得したのだ。

 その達成感、そして疲労は計り知れない。

 結城が感極まるのも無理はなかった。


(これで、外に出られるッ!! マシロに会える!!)


 外界との接点を完全断たれたこの狭間は別世界に等しい。

 容易に外に出る事も出来ない。

 結城達は修行が終わるまで、狭間から出る事を許可されなったのだ。


 簡易的な生活空間があるとは言え、男三人。そして娯楽がほとんどないこの空間に居座り続ける心理的なストレスはこの三か月、結城を苦しめてきた。

 何より……マシロと会えないのは、この上ない苦痛だった。


 幼い頃からずっとマシロと一緒だった。

 姉であり、幼馴染であり、友達で、そして大切な守りたい女の子。


 マシロを思って修行に取り組んだからこそ、結城は三か月という僅かな時間の中で、《ルート》の力を使いこなし、《ルートハザード》まで辿り着いたのだ。



「ふむ、まさか君が最初に修行を終えるとはね、正直、驚ろいたよ」


 感心したように腕を組みながら総司が賞賛の言葉で結城を労う。

 彼が用意した五十人の戦乙女たち。

 それを一度の戦闘で倒しきるのが結城の修行内容だった。


 当然、手加減の類は一切していない。

 殺す機会があったら容赦なく殺しにかかるほど、戦乙女たちは冷酷で冷徹だった。

 

 加えるなら、総司が用意した戦乙女は、《戦乙女Ⅱ》と言っても過言ではない程、性能がアップしていたのだ。


 かつて、総司が戦乙女を創った時、彼女たちが使える能力は一体につき、一つだけだった。

 だが、生身の肉体というリミッターから解き放たれた今の総司なら、同時に複数の能力を使える戦乙女が複製可能だった。

 さらに彼女たちが纏う《偽・火神の炎(イフリート)》は、最終決戦の時、特派の技術力によって改修されたイクスドライバーで纏ったギアだ。


 ギアの性能も飛躍的に上がり、かつての戦乙女たちとは一線を画す存在と言っても過言ではない。

 その戦乙女を五十体も相手に結城は見事に戦い抜いたのだ。


 正直な話、三か月程度では乗り越えられる試練ではないと、総司は思っていた。


「やはり《ルートハザード》に覚醒したからか……?」


《ルートハザード》――命懸けの修行の末、結城が身に着けた力はそれ程までに強力だったのだ。


「いや、能力そのものではないな」


 《ルートハザード》の力を知る総司は、額に汗を滲ませていた。

 その能力の特殊性ゆえに、それを発揮させた結城の力に、戦慄するほどの恐怖を抱いていたのだ。


「君の、その力……」

「ん? なんだよ……」

「いや、何でもない」


 総司は口を噤んだ。

 今の結城に言っても根本的な解決にはならない。

 《ルートハザード》があれ程のまでに強力なギアであった事を今は、少なくとも喜ぶべきだろう。


「お疲れ様。これでようやく、外に出られるな」

「おぉ! そうだった!! 速く外に出してくれよ!!」


 結城はせがむように、総司にすり寄る。

 鬱陶し気な表情を覗かせながらも、総司は《偽・門(ゲート)》の力を使い、次元の狭間に現実世界への出入り口を作る。


 その直後――ズズン……と世界が揺れた。

 現実世界へと《門》を繋げたことにより、時間軸が現実世界へと固定されたのだ。


「さぁ、早く出ていくんだ。時間が惜しい」

「おう! けど、本当に向こうでは三日くらいしか時間が経ってないのか?」

「何度も説明しただろ? この空間の時間は現実世界より圧縮されているんだ。こちらでの一か月が、現実ではたったの一日にしか過ぎないほどにね」


 その理由は総司にも実のところよくわかっていない。

 だが、推測くらいは出来る。


 この次元の狭間は、現実世界と異世界を繋ぐ橋のような場所だ。

 そして、恐らく、現実世界と異世界では流れる時間が異なるのだろう。


 その時間差のせいで、空間そのものが歪んでいるのだ。


 この世界で修行した結城だが、現実世界では三日程度。

 

 つまり――


「君がそれほど会いたがってるマシロという少女も君程恋焦がれているわけではないよ」

「う、うるせぇ! 三日でも十分な時間だろ?」

「ふむ……恋仲でもないのにか?」

「今は、まだ! ってだけだろ? ちゃんと伝えるよ。この戦いが終われば」


 三か月も寝食を共にしたのだ。

 マシロとの関係性はある程度、総司にも窺い知ることが出来た。


 結城は片思いだと勘違いしているそうだが……


 一騎の話によれば相思相愛らしい。

 リア充爆発しろとは思わないが、「マシロ~……マシロ~……」と何度もため息を零す結城を見ていれば鬱憤も溜まる。


 早々に告白なりなんなりして結ばれてほしいものだが……


「君は知っているのかい? それは死亡フラグという物だよ?」

「知るか! ほっといてくれよ!! 俺はもう行くからな!」

 

 総司の的確なつっ込みに結城は頬を赤らめ、反論する。

 まだ、修行の疲労もあると言うのに、早く外に出たいのか、体がうずうずしていた。


 けれど、結城は心配そうな眼差しを、ある一点へと向ける。


「なぁ、一騎は本当に大丈夫なのか?」

「命の心配はないよ」

「俺が聞きたいのは間に合うのかって、ことだよ」


 二人の視線の先では、一騎が《シルバリオン》を纏い、総司が用意した複製体の一騎と激しい戦闘を繰り広げていた。


 すでに一騎のギアはボロボロに破壊されている。ギアが強制解除されるまで、もう間もなくだろう。

 だが、その一方で、《シュヴァルツ》を纏った複製体の一騎――《黒騎士》と便宜上、呼んでいる一騎は――傷一つなかった。


 この三か月、いくら戦い方を変え、いくら戦略を練っても、実力をつけても、一騎は一度も《黒騎士》に勝てていない。

 その差は絶望的なまでの魔力量の差だった。

 《銀狼ライカン》、《火神の炎(イフリート)》、《シルバリオン》の三つのギアの力を纏った《黒騎士》の魔力は、結城の魔力に匹敵するほど。

 さらに、個々の能力が持つ力により、現存するギアの中では恐らく最強を名乗るに相応しい性能を誇っていた。


 修行を初めてすぐの頃、結城が「もう、《黒騎士》でいいんじゃね?」と愚痴っていた事もある。

 だが、《黒騎士》の力は総司と同じで、この次元の狭間限定の能力だ。


 現実世界では複製すら出来ないだろう。


 だからこそ、《黒騎士》と同じレベルまで力をつける事を一騎に求めているのだが……


「さぁね」


 白けたように総司は顎を撫でた。

 一騎が《黒騎士》に勝てる可能性は限りなく低いだろう。

 だが、最初と比べ、《黒騎士》に迫っているのは事実だった。


 すでに《黒騎士》との闘いを初めて半日ほどか。

 この世界に来た当時の一騎では、十分とかからずに敗北していた戦いがここまで膠着しているのだ。


 先はまだ長いだろうが、いずれは……超えられるかもしれない。


 とは言え、そこまで時間が許してくれるか……


 いくら時間の流れが違うとはいえ、その間、《魔王》たちが行動を起こさない保証はどこにもない。


 もしかしら、この三日で、何か事件を起こしているかもしれないのだ。


「いいのかよ、それで……」

「それを決めるのは一騎君だよ。それより、修行の時間が惜しい。君も早く帰りたまえ」


 今、現実世界と《門》を繋げているこの瞬間、次元の狭間は現実世界の時間の流れと同期している。

 その分、修行の時間が無くなるのだ。

 

 それを理解しているのか、結城は頭を掻きながらも、「任せたぞ!」と総司に指差しながら、狭間での修行を終えるのだった。



 ◆



 狭間から出た結城は軽快な足取りで『周防』へと向かっていた。

 修行の疲労はどこかに吹き飛び、鼻歌交じりに帰路につく。

 結城の頭にはマシロと三か月ぶりに再会出来る喜びしかなかった。


 とはいえ――


「出会ってすぐに抱き着くわけにもいかねぇよな。けど、不愛想ってのも……」


 などと、再会した時の事を妄想しながら、人知れず口ごもる。

 マシロにしてみればたった三日離れ離れになっていただけ。

 

 過剰な喜び方はマシロにドン引きされてしまうかもしれない。

 

「なら、やっぱ、クルーに決めるか? いや、それとも……って、なんだ?」


 ようやく、『周防』の寮が見えてくる頃。

 何かおかしい事に気づいた。


 立ち入り禁止と書かれた立ち看板。

 そして、行く手を遮るように黄色いテープが寮の少し手前で張り巡らされたいたのだ。


 訝しげにそのテープを睨み、ゆっくりと『周防』へと視線を向けた結城の表情が凍った。


「な、なんだよ……これ!!」


 見る影もない程に破壊された『周防』が目の前に広がったのだ。

 

 瓦礫の山――そう表現してもおかしくない程の惨劇に、早鐘のように心臓が脈打つ。


「ま、マシロッ!!」


 枯れた喉を震わせる。結城は焦燥感に駆られながら、鬱陶しそうにテープを潜り、瓦礫と化した『周防』へと走る。

 その直後――


 結城の出現を見計らったように可愛らしい少女の声が響いた。


「《領域テリトリー――展開》、《赤世界(スカーレット)》」


 結城の景色が一変し、世界は業火に包まれた炎の世界と化した。

 肌を焦がす灼熱の世界。

 その世界の頂きで、深紅のギアを纏った少女が、結城に銃口を向けていた。


「ここで待ってれば必ず来ると思ったぜ」

「てめぇ……」


 結城は湧き上がる怒りをそのままに、視線を少女へと向ける。


「芳乃、凛音……ッ! てめぇがこれを!!」

「……悪いがあたしじゃねぇよ」

「うるせぇ、マシロはどこだ!! アリスは!?」

「答えると思ってんのか? 一騎の仲間に、あたしが教えるはずねぇだろ? それより一騎はどこだよ? 近くにいんのか?」

「誰がてぇめに教えるか!!」

「ほう、上等だ! なら――」

「こっちだって――」



「「ぶちのめして、聞き出してやるよ!!」」

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