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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
150/166

平行世界の記憶

「お~い、いい加減、どこ行くのか教えろって!」

「いいから、黙ってついて来なよ」


 焦れた結城が少し前を歩く一騎の背に向かって不満の声を荒げた。

 カツン……と小石を蹴る音が結城の鬱憤を如実に語っている。

 とは言え、仕方なかった。

 一騎自身、向かう先に『彼』が本当に存在するのか、未だに半信半疑なのだ。


 別世界の記憶――この世界には存在しない記憶の断片。

 その僅かな可能性を求め、結城と一緒にこの場所に訪れたが――

 これが徒労に終わる可能性だって十分にあるのだ。


 むしろ、その可能性が高いだろう。

 同じ現実世界とは言え、この世界と平行世界は歩んできた歴史が違う。

 

 平行世界での出来事が、この世界でも起きるとは限らないのだ。



 なら、今、結城に目的を告げる必要もないだろう。

 

 適当に誤魔化せば、結城の事だ。上手く言いくるめられるだろう。


「さっきからそればっかじゃねぇか!!」

「……いいだろ、筋トレだと思ってがんばれ」

「……仕方ねぇ、山歩きなんて滅多にしねぇからな。これも鍛錬だと思えば……」

「――ちょろい奴」


 鬱蒼と生い茂る樹海の中で、そんな発想が出来るのは結城くらいなものだ。

 一騎は呆れを通り越して、ある種の達観の念を抱きながら、鬱憤とした吐息をつくのだった。


 そうして結城の追求から逃れる事、数時間。

 日も傾き、黄昏時の空が一騎の不安感を煽るころ。


 ようやく目的地の一つに一騎たちは到着したのだった。


(三か月ぶり、だな……)


 一騎はその光景を感慨深い視線で見渡した。


 樹海の真ん中でポツンとそこだけ地面がごっそり削り取られたかのような場所。

 木々はなぎ倒され、すり鉢状に削られた地面がこの場所の異質さを物語る。

 

 その光景を目に焼き付けた結城は呆然と、呟く。


「な、なんだよ……これ」


 まるでミサイルが落とされたかのような爆心地。

 生き物すら寄り付かず、死んでしまった大地に結城は疲労すら忘れ、呆然と立ち尽くしていた。


「……ここは三か月前、異世界と繋がった場所なんだよ」


 十年前、ここも都市の一部だった。

 だが、もっとも災害の被害が激しかったこの場所は再開発の目途が立たず、ずっと放置されてきたのだ。

 そして、誰も人を寄せ付けなく、自然が蘇ったこの場所こそが――

 一騎たちの住む町の近くにある自然公園だった。


 三か月前、一騎が総司と最後の戦いを繰り広げた場所でもある。


「ここで……?」

「あぁ、あの空の上に異世界とこの世界を繋ぐ《ゲート》が繋がったんだ。そして、僕たちの最後の戦いの場所がこの場所だったんだ」

「僕たちって誰だよ?」

「――ん、僕に凛音ちゃん、それと――もう一人、大切な仲間の事さ。僕たちはこの場所で、世界を手にしようとした彼の野望を撃ち砕いたんだよ」

「……世界を手にねぇ。そいつ、神にでもなるつもりだったのか?」

「察しがいいな。あの人――芳乃総司は、本当に神になろうとしていたんだ」

「はぁ……? バカじゃねぇの? なれるわけねぇだろ」

「結城みたいに単純なら、こんな戦い、もしかしたら起こらなかったかもな」

「……それ、俺の事馬鹿にしてるだろ?」

「してないよ。むしろ褒め言葉だ」

「褒められてる気がしねぇ!!」


 結城は頭を掻きむしりながら大仰に仰け反る。

 だが、本当に結城のように彼が単純だったならどれほどよかったか。


 異世界の存在に夢見るだけの総司のままでいられたなら、二つの世界を手に入れようとする野心がなければ、もしかしたら友達になれていたかもしれない。


 全ては、イクシードの力に魅了されてしまったが故の――

 二つの世界が交わってしまったが為に引き起された悲劇だ。


 だけど――


(もし、彼がここにいるなら、伝えないと――)


 彼が背負うべき罪。

 凛音が彼の代わりに背負った十字架を、彼も背負うべきなのだ。

 ただ、この世界から隠れて息を潜めているだけでは、償いにはならない。


 一騎はクレーターの中央へと向かいながら、空を見上げた。

 

 かつて、この空の上には青空を覆い隠す程の巨大な大穴が穿たれたいたのだ。

 深淵のように先の見えない漆黒の闇が、今もその場所にあるかのような威圧感を肌で感じる。

 無意識にゴクリと唾を飲み込む。

 額に滲んだ汗を拭いながら、一騎はクレーターの中央に立つ。


(息が、苦しい……)


 恐らく、あの時の戦いが原因なのだろう。

 戦いの時に放出された濃密な魔力が人体に影響を及ぼす悪害となってこの場所に今も尚、色濃く残っている。

 この魔力の残滓が、ある種の結界のように人を寄せ付けないのだ。


 だからこそ、一騎は周囲を憚る事なく、空を見上げ、吠えた。


「ここにいるんでしょ、総司さん!!」

「……誰もいねぇぞ?」


 突然、声を張り上げた一騎に結城は目をまん丸に見開きながらつっ込む。

 周囲に木霊するように拡散する一騎の呼び声。

 だが、その呼びかけに応える人は現れなかった。


 けれど、一騎は諦めない。

  

 芳乃総司がもし肉体を取り戻したなら、必ずここにいるはずだ。

 魔力が濃く残り、そして、異世界との痕跡を残すこの場所こそが、彼にとって最も馴染の深い場所。

 ここが彼の始まりの場所に他ならない。


 一騎は諦めず、枯れた喉を震わせた。


「いいんですか? このままだと、あなたの世界が壊される事になるんですよ? あなたはそれをただ黙って見ているんですか? ……か、神であるあなたが!!」


 最後の文句に関しては、渋い表情を浮かべていた一騎だったが、その一言が効いたのか――


『まったく、騒々しいな』


 どこからともなく、男性の声が響き、

 次の瞬間。


 世界が反転した――

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