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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
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さらなる強さを求めて

 トワイライトたちの目的を知ってから数日が経った。

 その間、彼らの襲撃があったわけでもなく、一騎たちは比較的平和な日常を謳歌していたと言えるだろう。


 今日も、『周防』の地下基地では二人の少年の怒号が響き渡っていた。


「おおおおおおおッ!!」

「ああああああああッ!!」


 堅牢な防壁によって四方を囲った訓練施設。

 そこにはギアを纏った一騎と結城の姿があった。


 結城は群青色のギア――《ルート》を身に纏い、一騎は不完全な《シルバリオン》を纏っている。


 《シルバリオン》の動作具合を確かめ、一騎な何度目になるか数えるの諦めたため息を漏らす。

 それも当然と言えるだろう。

 魔力が極端に少なくなった一騎は従来の方法では《シルバリオン》を纏う事が出来なくなった。

 今の一騎はほとんど魔力がない。

 ギアによる魔力の封印がなくとも、魔力暴走など起こらないレベルまで魔力が低下している。


 だが、一騎はイクスギアのブレスレットを装備し、不完全とはいえ、《シルバリオン》を纏えていた。


 それを可能としたのはひとえにアリスのアドバイスのおかげだった。

 

 アリスは疑似魔力炉と呼ばれる魔力炉から魔力を供給し、《錬成》を行う錬成師だ。

 アリス自身に魔力はなく、外部からの供給で魔力を得ている。

 外部から供給した魔力でイクシードを起動するため、魔力は使い捨て。そして暴走の心配もない。


 そんな魔力行使を行うアリスだからこそ気づけたのが、イクシードの疑似魔力炉化だ。

 

 本来、イクシードには同時に二つのイクシードを装備する事が可能となっている。

 それは、召喚者の魔力暴走を抑える為の疑似イクシード《人属性ヒューマン》のイクシードで魔力の制御を行いながら、別のイクシードを装備し、ギアを纏う事を前提とした機能だからだ。


 魔力の暴走を抑える為にイクシードを二つ装備できる形になっていたのだ。


 アリスの発想はまさにその真逆。

 魔力がないなら、イクシードを魔力の代わりとして代用すればいい――

 魔力を抑える《人属性》の代わりに魔力の塊であるイクシードを装備し、そのエネルギーで強引にギアを纏う。


 一騎がその疑似魔力炉として選んだのが《銀狼ライカン》のイクシード。

 かつて、《魔人》へと堕ちかけたイノリを救う為に、イノリから封印したイクシードの欠片。

 《魔人》へと堕ちきる前に封印した為か、《銀狼ライカン》のイクシードは他のイクシードに比べ、小さく、本来のイクシードの持ち主であるイノリしか装備する事が出来なかった。


 どうやらイノリの力が僅かに宿る一騎でも《銀狼ライカン》の力を起動させる事自体は可能なようだが、自前の魔力が少ない今、《銀狼ライカン》のギアを纏おうとすればイクシードの負荷を軽減しきれず、体に深刻なダメージを負ってしまう。


 恐らく、この負荷は他のイクシードを使っても同様――あるいは《銀狼ライカン》以上のダメージを受けていただろう。

 何せ、封印が不完全のイクシードでも昏倒するほどだ。

 他のイクシードなら命を落としかねない。


 そして、《銀狼ライカン》を疑似魔力炉に選んだ最大の理由は、一騎の中に宿る魔力の波形パターンと一致したのが《銀狼ライカン》だけだったからだ。


 これは、他のイクシードを疑似魔力炉として使ってみてわかった事なのだが、《シルバリオン》を纏うには魔力の波長――ともいうべき相性が必要になってくるのだ。


 そして、数あるイクシードの中で唯一、《シルバリオン》とのマッチングに成功したのが《銀狼ライカン》だった。


 他のイクシードではやはり何度試しても疑似魔力炉として使う事が出来なかったのだ。


 ギアを纏えるようになれはしたが、問題はまだある。

 それは、《銀狼ライカン》が不完全なイクシードである為に、纏った《シルバリオン》もまた不完全ということだ。


 今、一騎は《シルバリオン》に《流星ミーティア》のイクシードを鎧飾った姿をしている。

 

 だが、基本性能は以前の《シルバリオン》と比べれば雲泥の差。

 全ての機能が三か月前と比べ、大幅にグレードダウンしている。

 

 体感的な感覚は三割減と言ったところだろうか。

 しかも、ノーマル状態――いわゆる基本形態になる事が出来ないのだ。

 出来ない――と言えば語弊がある。


 基本形態――《シルバリオン》への換装は可能だ。

 だが、とても戦える装備じゃない。

 ただでさえ少なかった装甲――唯一の武器でもあった両腕のガントレットを含めた全ての武器が消失。

 ただイクスジャケットだけを装備した格好になってしまうのだ。

 

 そして、他のイクシードを纏ってギアを換装しても十分な装備とは言い難い。

 かつて《流星》を纏った時の姿は、全身にスラスターが組み込まれた鎧を纏い、高機動を実現させる武装だった。


 だが、今の一騎の装いは全くの別物だ。


 防御力が頼りないロングコートを纏った姿。

 ロングコートの生地裏には魔法陣――と言えばよいのか、幾何学的な模様の刺繍が施されており、その魔法陣が起動することで、高速移動が可能になっていた。

 だが、移動速度はスラスターを駆使した《流星》に比べればかなり劣る。

 しかも武装はロングコートと鎧に比べれば防御性能も頼りない。


 副武装の《メテオランス》も耐久力がかなり低下していた。

 耐久力を上げる為にランスの性能を下げ、ただの槍として使う方法もあるが、それだと速度を上げられない。

 結果として一騎が選んだのは――


「おおおおおおおッ!!」


 拳を握り、爆ぜるように動く。

 ロングコートが魔力の燐光で輝き、一瞬で結城との距離を詰める。

 鋭い踏み込む、さらに、目にもとまらぬ手突が結城の纏ったギアに直撃。

 衝撃にたたらを踏む結城の隙を突き、渾身のストレースを放つ。

 《メテオランス》を形成する為の魔力全てをロングコートの魔法陣を起動させる為の魔力として機能を底上げ、移動速度を向上させた一騎の拳闘は神速の域に達し、結城を刺し穿つ。


「ぐおっ!?」


 電光石火の攻撃に結城は吹き飛ばされ、フィールドの隅にまで追い込まれる。


 追い打ちをかけるように一騎は再度踏み込む。

 床が陥没するほどの衝撃。

 その爆発力は一気に二人の距離を詰め、苦しまぐれに放った結城の拳を掻い潜り、カウンターで結城の顔面を殴りつける。

 ひるんだ隙に、突き出した結城の腕を絡めとり、足を払って地面に叩きつける。


 一連の動作が一瞬で過ぎ去る。

 攻撃を受けた結城には一騎の動きが全く見えていなかった。

 それほどまでに速いのだ。


 武器を捨て、拳闘に切り替えた事で、ようやく機動力は及第点といったところか……

 だが――


(その代わり、攻撃力が低下したな……)


 顔面への攻撃を受けた結城は痛がりはしたが実際、大したダメージはないだろう。

 速度を乗せ、カウンターを合わせ、全力で放った一撃でも《ルート》の防御力を貫通出来る程の威力じゃなかった。

 さらに威力を上乗せする方法もあるにはある。

 かつてイノリが《反射リフレクト》の防御を突破する為に使った《飛翔雷槌》と同じように極限までスピードを上げ、全エネルギーを収束させる方法だ。

 だが、その方法は時間がかかりすぎる。

 さらに隙も多い。

 瞬発的な加速力で繰り出せる最大出力は今ので全力だ。


 機動力を活かせば、攻撃力が低下する。

 ならばと《メテオランス》を使い、攻撃力を上げれば機動力が犠牲になる。

 防御性能が低下している今、回避能力まで落とす危険性を侵してまで攻撃力を求めるのは、無謀だろう。


 問題は山積みだ。


 だが、それは一騎に限った話じゃない。


「今度はこっちの番だッ!!」


 勢いよく起き上がった結城は息を巻きながら、一騎に飛びかかる。

 全身から魔力が吹き荒れ、拳に収束していく。


 誰の目から見ても結城が固有能力――《ルート》を起動したのが丸わかりだ。

 一騎は全力で距離をとる。

 結城の振り抜いた拳が空を切り、


「なぁッ!? ま、またかよ!!」


 一瞬で距離を離した一騎に恨みがましい視線を向けてくる。

 それに対し、一騎は飄々とした態度で答える。


「当たり前だろ? その能力は強力だけど、欠点だらけなんだよ」

「だからって逃げる事ねぇだろ!? 当たれば一撃なんだ!」

「だから逃げるんだよ。訓練にならないだろ?」


 逃げるなと地団駄を踏む結城に一騎は眩暈を覚え、嘆息しながら煩わしく反論した。

 結城のギアの能力――《ルート》は強力だ。

 平行世界にアクセスし、未来を選択する力。

 だが、その能力には相応の魔力を消費する。

 連続して使えるのは十回程度。

 限界まで力を使えばギアが強制解除され、数時間はギアを纏えなくなる。


 さらに、《ルート》発動時は結城の全身から魔力が吹き荒れる。

 能力を発動した瞬間がわかりやすすぎる。

 《流星》の機動力があれば回避は容易い。

 一騎が回避したと同時に結城に限界が来たのか、纏っていた《ルート》が魔力の粒子となって掻き消えた。


「限界か?」

「う、うるせぇッ……」


 息も絶え絶えに結城は仰向けになって崩れ落ちる。

 今日の訓練はここまでだろう。


 一騎もギアを解除し、用意していたスポーツドリンクを飲みながら、今後の課題を列挙していく。


 一つはやはり《シルバリオン》の機能回復だろう。

 戦闘センスは結城との訓練で三か月前の状態に戻りつつある。

 体も思うように動くようになった。

 後は、魔力を回復する手段を見つけ、《シルバリオン》を完全な状態に戻す事だ。


 魔力を回復する当てが全くないのが問題だが……


 だが――と一騎は結城を見つめる。


(最大の問題は結城のギアだよな……)


 欠点がありすぎるのだ。

 最大の問題は、やはりギアを纏える状況が限られている事だろう。


 『周防』のようにマナフィールドが展開され、魔力の暴走が抑えられる環境や敵の《白世界》の中のみと纏える状況が限られているのが難点だ。


 能力を使える回数も少なければ、ギアを纏える状況も限られる。

 この前のように《ルート》の弱点を突かれ、《白世界》を解除――あるいは展開しない場合、正直な話、結城の力は戦力外だ。 


 さらに、凛音を助ける要である《ルートクロノス》にも問題がある。

 能力使用後はギアが強制解除されるばかりが、結城自身も深い眠りに堕ちるのだ。

 凛音を助け出した後も戦う事を考えれば、この問題は早急に解決すべき課題だ。


 だが、『周防』の設備にも限界がある。

 こうして訓練するのが限界だ。

 能力の研究ももちろん行っているが、イクスギアに関するのほとんどデータが今は使用出来ない状況だ。

 もともと《空中艦アステリア》の補助的な役割がメインで、データも《空中艦アステリア》帰還と共に異世界に戻ったせいで、そのほとんどが消失してしまった。

 アリスが持つ研究会の知識でもイクスギアの全てを網羅しているわけではないのだ。

 異能の力やギアに精通している人材が不足している――ギアの修理は出来ても、能力の制御や機能向上が現状は出来ないのだ――


 そんな現状を打開する為には、やはり……


「あの人の力が必要か……」


 幾重もの逡巡の末、一騎はついに彼への強力を決断するのだった。

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