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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
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過去の改変

「よそ見とは舐められたものだね!!」


 呆然と立ち尽くす結城に向かって白亜の騎士が駆ける。

 神速で振るわれた一閃が結城の意識を強引に戦闘へと引き戻す。

 咄嗟に装備した盾で防ぐが、衝撃を受け流しきれずに防御の上から軽々と吹き飛ばされてしまう。


「ぐおっ!?」


 腕が痺れる程の衝撃に苦悶の喘ぎ声が漏れる。

 だが、白亜の騎士の猛攻は止まらない。

 動きが止まった結城の隙を突く形で、二本の魔剣が結城の体を掠めていく。


「ちく……しょう!!」


 なぜ、もう一人の自分が存在するのか?

 なぜ、白亜の騎士が目の前にいるのか?

 

 現状を全く理解できない。

 そして、混乱に拍車をかけるのが、装備した仮面に表示された情報だった。


 視界の隅に表示された一本のゲージ。

 それが目まぐるしいスピードで減っていくのだ。


(なんだよ、これ……?)


 その疑問に答えるように、仮面に装備された通信機から《ルート》が説明を付け加えた。


『表示されたゲージは現在の魔力総量を表示しています』


(魔力総量だと?)


『はい。《クロノス》の力を維持するには魔力を必要とします。魔力が30%まで低下した時点で《クロノス》の力は停止し、現実へと強制送還されます』


(現実? って事は、これは夢なのか?)


 そう考えればこの不可思議な現象に説明がつく。

 だが、《ルート》は結城の答えを否定した。


『いいえ。この世界は《クロノス》の力により時間遡行した過去の世界です』


「過去ッ!?」


 驚きのあまり声を大にして叫んでしまった。

 

 白亜の騎士の攻撃を屈んで避けながら、結城は混乱する頭でどうにか現状を整理してみる。


(ちょっと待てよ!? アリスは《ルートクロノス》の力は過去を上書きする能力だって……)


 過去の平行世界を現実に上書きする能力――

 それが《ルートクロノス》の力ではなかったのか?


 結城の動揺を見抜いた白亜の騎士が防ぎにくい角度から結城に攻撃を仕掛ける。

 《ルート》との会話に思考を割かれていた結城はその攻撃に対応できず、直撃を受けてしまう。


 ギアの防護壁が激しい火花を散らす。

 それと同時に視界に表示されたゲージがグンッ――と二割ほど減ってしまった。


「ぐあああああッ!?」


 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた結城にトドメとばかりに白亜の騎士が剣を振り下ろす。

 だが、その間に割って入るように、槍を構えた一騎が白亜の騎士の一撃を受け止めた。


「大丈夫ですか!?」

「か、一騎ッ!?」

「大丈夫なら早く起き上がって! ……長くは、もたない!!」

 

 見れば一騎の装備した槍の柄に亀裂が入っていた。

 亀裂が槍全体に広がり、甲高い音をたて砕け散る。

 だが、その間に一騎と結城は安全圏まで退避しており、攻撃を避ける事が出来ていた。


「一騎、無事か!?」

「僕は大丈夫。君は?」

「俺も大丈夫だ!」


 一騎は再び魔力を束ね、メテオランスを握りしめる。

 だが、その顔色は相当悪い。

 当然だろう。

 結城のギアでも悲鳴を上げる程の攻撃を一騎は何度も受けてきたのだ。

 

 一騎の《シルバリオン》のスペックは結城の《ルート》に劣る。

 一騎のギアで白亜の騎士と戦うのは自殺行為に等しい。

 ここが過去の世界だとして、一騎の無謀を止める事が出来なければ、再び一騎は腕を失う未来を辿ることになってしまうのだろう。


(そんな事はさせねぇ!!)


 過去の世界に来た驚きはまだ拭えていないが、やる事は変わらない。

 一騎を守って、白亜の騎士を倒す。


 それが、この過去の世界で結城が求めるただ一つの未来だ。

 

 仮面に表示された魔力総量はすでに半分まで減ってしまっている。

 恐らく過去の世界にいるだけで大量の魔力を消費するのだろう。

 加えて強烈な一撃を受け、防御に回していた分の魔力も消費してしまっている。

 

 攻撃――《ルート》の力を使えば恐らく一気に全ての魔力を使ってしまう。

 そうなれば強制的に現実の世界へと引き戻され、一騎を助けられなくなる。


(ギアの力は使えねぇ……)


 なら、どうするか……

 答えは一つしかなかった。


「一騎……俺を信じてくれるか?」

「君はその仮面の下を僕に見せてくれるのか?」

「……今は無理だ。時間がねぇ」


 すぐ側に過去の結城がいる。

 未来から来た事を話している時間はない。

 こうしている間にも仮面に表示されたゲージは刻一刻と減っているのだ。

 正体不明の味方――で通しておいた方が無難だろう。


「けど、信じてくれ。俺は味方だ」

「……何度も助けられているんだ。今さら疑うものか」


 一騎は肩を竦めると結城の前に立ち、槍を構える。


「僕はもう君を信じてる。背中は預けるよ」

「――ッ、お、おうッ!!」


 結城は拳を打ち鳴らし、我流の構えをとると、一騎と同時に地面を蹴り上げ、《クロノス》の効力が切れる限界まで白亜の騎士と戦い続けたのだった。

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