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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
133/166

世界に嫌われても

「さて、どうする?」


 気を失ったマシロを白亜の騎士から庇いながら、一騎と結城は距離をとる。

 マシロは穏やかな寝息を立てており、《魔人》化による負傷はなさそうだ。

 だが、安心できる状態ではないだろう。


 今のマシロには魔力の暴走を《時間遡行クロノス》で巻き戻すほどの力がない。

 またいつ魔力が暴走するかわからない状態だ。


「戦うか?」


 《魔人》に関する知識は白亜の騎士も一騎と同じレベルとみるべきだろう。

 この状況がマシロにとって良くない事は白亜の騎士も重々承知しているはずだ。

 だというのに、白亜の騎士は腰に吊るした剣の柄を掴んでいた。


「……君のそれは脅しにならないよ。今、ここで《白世界ヴァイス・ヴェルト》を発動して、君を倒す事だって出来るんだ」

「だろうね」


 魔力を自在に使える固有結界を創り出す《白世界》

 あの世界を展開されたら優勢を保つ事は出来ないだろう。



 一騎一人では、だ――


「あの世界を展開すれば、僕は結城にギアを渡すよ」

「あぁ!? 俺にッ!?」

「君ならあの世界で戦えるだろ? 君の力と魔力は僕よりも上なんだからあの騎士と戦えるはずだ」

「え? そうなのか!? お前の方が強いんじゃねぇの?」

「弱いよ、僕は……だからギアを纏えるんだ」


 本来、ギアは魔力を封印する為の装備だ。

 鎧としてイクシードを纏うのは、魔力暴走をギアで抑え込むことが可能な低い魔力値の人間だけだ。


 一騎の魔力総量はギアの封印機能で抑え込める総量だが、恐らく、結城の魔力総量はギアの限界を超えている。

 ギアの封印機能だけでは本来、抑え込むことが出来ない魔力量だろう。


 それでも、これまで結城が暴走しなかったのは、ひとえに結城の魔力操作の技術力の高さにある。

 凛音の魔力操作技術に匹敵するレベルとみるべきだろう。


 だからこそ、彼はこれまで暴走することがなかった。


(けど、戦いになれば話は別だ)


 魔力を使えばその反動で暴走が速まる。

 マシロのアシストがなければ、本来なら戦う事すら出来ないのだろう。


《白世界》などの固有結界の中でなければ、結城はギアを纏えないと見るべきだ。

 だが、逆に結界の中でなら、結城はイクスギア《ルート》という一騎よりも強力なギアを纏うことが出来る。


「いいか? 白亜の騎士が結界を発動させたらすぐにギアを渡す。それで変身してくれ。さっきみたいにね」

「な、なんで、お前がそれ知ってんだよ!?」

「それはあとで説明するよ、出来るか?」

「……マシロを守る為なら」

「十分だ」


 結城はどこか納得できない表情を浮かべながらも、頷く。

 一騎は警戒心を弛めることなく、白亜の騎士を見つめる。


 膠着状態がしばらく続き――


 柄から手を離したのは白亜の騎士だった。


「……今は見逃してあげるよ」

「賢明な判断だな」


 白亜の騎士は踵を返し、一騎たちに背を向ける。

 その背を追うことなく睨み続ける一騎。


「いいかい? リアを傷つけたら、俺は君たちを許せなくなる」

「……傷つけたのは君たちだろ?」

「俺はッ! 俺たちはリアを救う為に、この世界に残された召喚者たちを助ける為に、戦っているんだ! 傷つけるつもりなんか……ッ!!」

「それが君たちの目的なのか?」

「――ッ!?」


 しまった!? という表情を浮かべ、白亜の騎士の足が止まる。

 動揺したその表情はこれまでの冷酷な姿からかけ離れ、年相応の少年らしい姿だった。


「……僕も疑問に思った事はあるよ。この世界に召喚された召喚者が本当に特派のみんな達だけなのか? って。マシロちゃん、君たちと出会ってその疑問は確信に変わった」


 この世界に取り残された召喚者たちは確かに存在する。

 これまで《魔人》化して一騎たちの前に現れなかったのは、恐らくマナフィールドのような魔力暴走を抑える場所にいるからだろう。

 

 その場所こそが、恐らく異端技術研究会。

 アリスのいた研究所だ。

 イクシードを人為的に生み出し、不老不死の大願を成そうとした組織。

 そこになら、召喚者たちの暴走を防ぐマナフィールドがあってもおかしくない。


 けど、だからって……


「だからって、この世界の人たちを傷つけていい理由にはならないよ」


 異世界のこと、そして十年前の真相を暴露し、世界を混乱に陥れる。

 加えて、彼らの中に眠る惨劇の記憶を呼び覚まし、怒りを刺激するなど……


 そんなの、誰も望んでいない。


「誰も傷つけない方法はないのか? 僕たちは手を取り合えないのか?」

「……それは無理だ。俺たちは、この世界に反逆する。この世界を壊し、召喚者たちを助ける。だから、この世界の守護者である君とは相いれない」

「世界を壊さなくたって!!」

「方法があるって!? なら、教えてくれ、どうすればいい? どうすれば、俺たちは魔力の暴走が止められる? どうすれば召喚者の犠牲を出さずに済む!?」

「そ、それは……」


 そんなのすぐに答えられるわけがない。

 この十年、誰も見つけられなかった答えだ。


 元の世界に帰る以外のやり方で、魔力の暴走を抑え、この世界で召喚者が過ごせる……

 そんな世界を、一番に望んでいたのは他らなぬ一騎自身だ。


 この世界の理によって、大切な恋人と離れ離れになる運命を押し付けられた一騎だからこそ――

 その世界を心から欲した一騎だからこそ。


 この世界の誰も傷つけずに召喚者を助ける方法がないことを知っているのだ。


「だから、俺たちは君とは相いれない。大切な人との未来を捨て、世界を救った君とは、ね……」


 白亜の騎士はそう言い残し、魔力を足先から爆発。

 空高く舞い上がると、そのまま一騎の前から姿を消したのだった。



 ◆



「た、助かった……のか?」


 結城が掠れた声で呟く。

 マシロを抱きかかえ、白亜の騎士が飛び去った空を見つめ続けていた。


 呆然と立ち尽くす結城に、一騎が冷ややかな声を浴びせる。


「帰るぞ」

「え?」

「僕たちの家に帰るって言ったんだよ」

「でも、それは……」

「君が基地から飛び出した理由は何となく想像がつく。守ってくれる人がいなきゃ不安だもんな。でもこれで分かっただろ? 君一人じゃ彼らと戦う事は出来ないって」

「い、いや、俺たちはそんな理由で飛び出したわけじゃ……」

「じゃあなんだって言うんだよ? ギアを盗み出してまで逃げたのは、僕たちを見限ったからじゃないのか?」

「……マシロが言ったんだよ、俺たちがお前らの側にいたら迷惑をかけるって……お前には感謝してんだよ。何度も命を救われてるしな……けど、その度にお前はボロボロになって……

 俺たちのせいで、お前がボロボロになるが見てられないんだよ!!

 ボロボロになってまで戦ってほしくなかったんだよ!!」


 その言葉を聞いた一騎は――盛大に顔を顰めた。

 一騎の表情を見た結城は「え?」っと驚愕に目を見開いた。


「うわ~アリスちゃんや結奈と同じこと言われてるはずなのに、君から言われると鳥肌が凄い……気持ち悪ッ!!」

「て、てめぇ!? 人が心配してるってのに!!」

「けど……」


 一騎は結城の頭を小突くとぶっきらぼうに言い放つ。


「ありがとう。一応、礼は言っておく。けど、結城が心配する必要はないって。これが僕の決めた道だからな……」

「お前が決めた?」

「あぁ、みんなの笑顔を守る。そのために戦うって」

「……まるで正義のヒーローだな」

「かもね……」


 けど、だからこそ、今日まで一騎は戦ってこれた。

 イノリの笑顔を守る為に。

 そして、イノリと守ったこの世界の人たちの笑顔を守る為に。


 だから、この世界の人たちの嫌われても。

 

(僕は……戦う)


 一騎は周囲にいる人々の嫌悪の視線を感じながら、それでも戦う事を決意するのだった――

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