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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
132/166

君を助ける為に

 魔力障壁が弾け飛び、変身を終えた一騎。

 一騎がギアを纏ったことにより、周囲の気温が一気に下がる。

 

 真夏の熱気が嘘のように掻き消え、真冬のような肌を刺す冷気が周囲を襲った。

 

 その原因は一騎が身に纏ったギアにある。

 ギアを纏った一騎は、まさに氷の狼といった姿だった。

 ギアのインナーを覆うように氷で創られた鎧が一騎の体を守っている。

 肘まで覆う氷のガントレットは五指が爪のように鋭い形状をしていた。

 さらに肘から突出した氷が鎌のように反り返った形をしている。

 《氷雪》のイクシードの持ち主であったユキノ=ヴァレンリの姿を引き継いでか、一騎のギアには氷で出来た獣耳と狼の尻尾が創造されていた。


 それだけはない。

 《氷雪》のイクシードの能力の一つ――氷を生み出す能力で一騎は失った片腕を一時的に氷の義手で補っていたのだ。

 

 一騎は白亜の騎士に視線を向ける。


「邪魔、するなよ」

「……」


 白亜の騎士は顔を俯かせ、沈黙する。

 どうやら、今ここで一騎を襲う事はなさそうだ。


 一騎も途中からギアを通して、この戦いのやり取りを聞いていた。

 白亜の騎士は、リア――マシロちゃんを助けたいはず。


 なら、ここで一騎の封印の邪魔をするような事はないだろう。

 危惧すべき相手は――


 ドパンッ!


 一騎がその相手へと視線を向けると同時。

 一発の銃声が鳴り響く。

 一騎は氷の腕で深紅の魔弾を防いでいた。

 だが、《火神の炎(イフリート)》と《氷雪》の相性は最悪だ。

一騎の創った氷の腕が火神の魔弾によって砕け散る。


「――ッ!?」


 一騎は次の攻撃に備え、即座に氷の腕を造り直す。

 銃声でパニックになった人たちが逃げ惑う中、凛音の銃口が一騎に狙いを定める。


 だが、その引き金を引く直前。


「やめろッ!!」


 喧騒を打ち消すような鋭い声が凛音を貫く。

 ビクリッと肩を震わせる凛音。

 

 睨みを効かせた視線を凛音は白亜の騎士へと向けた。

 怒気を孕んだ声音が漏れる。


「いいのかよ? あいつを倒すのが目的だろ?」

「いいんだ。今、彼を殺す事は俺が許さない」

「勝手だな、てめぇも。殺せって言ったり、殺すなって言ったりよ……忘れるなよ、アイツは――あたしのかたきなんだぞ」


 敵意以外の感情を削り落とした表情で凛音は一騎を睨みつける。

 その視線に胸を抉られるような痛みを覚える。


(やっぱり、凛音ちゃんはもう僕の事を……)


 迷いもなく一騎に向かって銃口を向けた時点で薄々感づいていた。

 

 今の凛音は一騎の事を覚えていないのだろう。

 

 一緒に笑ったこと、一緒に戦ったこと。

 仲間だったことも全てを忘れ、ただ敵として一騎を見つめている。


「凛音ちゃん……」


 一騎は嗚咽するように彼女の名前を囁く。

 だが、凛音は顔を僅かに歪め、嫌悪の表情を一騎に見せる。


「ずいぶんと馴れ馴れしいな、一ノ瀬一騎」

「……僕の事、覚えてないんだね」

「知らねぇよ、お前の事なんて」

「一緒に戦ったんだ」

「知らねぇ」

「仲間だったんだ」

「……知らねぇって」

「一緒に学校に行こうって!!」

「あたしが知るかッ! 勝手にあたしの過去をねつ造すんじゃねぇ!!」


 ドパンッと鳴り響く銃声。

 一騎はその一撃を氷の腕で受け止める。

 硬度を上げた氷の腕は砕けることなく、凛音の攻撃を受け流す。

 だが、一騎の表情は悲壮だった。


「いいか、一ノ瀬一騎!! あたしはお前を倒す為に戦場に来てんだよ! 無駄話をしに来てるんじゃねぇ!! あたしの両親を奪ったお前を仲間だって? ふざけんじゃねぇ!」

「僕が!?」

「そうだ! あのクソ親父にだけ全ての罪を背負わせたのにも納得いかねぇ! てめぇはあの三か月前の戦いでもクソ親父に罪を擦り付けて逃げやがった……!」

「……」


 言葉が出なかった。

 《魔王》に洗脳されているだろうとは思っていた。

 だが、向けれる感情も、喉を枯らして叫んだ言葉も嘘だとわかっているのに、一騎の心をがりがりと削っていくのだ。


 怒りの矛先を白亜の騎士へと向けていた。

 奥歯をぎりっと噛み、のどを震わせる。


「お前が……凛音ちゃんをッ!!」


 だが、一騎の怒りが爆発する事はなかった。

 背後で暴走した魔力が溢れかえり、《魔人》の咆哮が大気を震わせたからだ。


「マシロッ、しっかりしてくれ!!」


 結城の壮絶な叫びが一騎の怒りを幾分か下げる。


(……そうだ、マシロちゃんを……ッ)


 やるべき事を思い出した一騎は眉を寄せながらも、白亜の騎士に背を向ける。

 幸い、凛音ももう攻撃する意思はないのか、盛大に舌を鳴らし、踵を返す。


「あたしは帰る。ここにいれば間違ってあいつを撃っちまうからな」

「……わかった」


 白亜の騎士は渋々といった様子で頷く。

 凛音は深紅の拳銃にイクシードを装填しながら去り行く一騎の背中を睨んだ。


「一騎、次会ったら今度こそお前を殺すッ……」


 殺意を吐き捨てた凛音はイクシード《転移(ジャンプ)》の力を発動させ、この場から撤退するのだった。



 ◆



「どいてくれないか?」


 凛音を敵に奪われた怒りを押し殺しながら、《魔人》と堕ちたマシロに縋りつく結城に冷ややかな言葉を浴びせる。


「お前……」

「君が近くにいたんじゃ彼女を助けられないだろ?」

「助けられんのか!?」

「……当たり前だ」


《魔人》を助け、《魔人》による被害を食い止めるのが一騎の役目。

 戦うんじゃない。助けるための、その為のイクスギアだ。

 助けられないわけがない。


「今は僕を信じてくれ」

「でも、そんなボロボロで……」


 無理に動いた為か、氷の鎧の内側が赤く染まっていた。

 凛音の攻撃によるものじゃない。

 以前の戦いで受けた傷が開き、内側から鎧を血で染めていたのだ。


「それでも、僕しか彼女を助けられない」

「なんでだよ、なんで、そんなボロボロになってまで……」

「いいか、結城? 一度しか言わないからな。誰かを助けるのに理由なんていらないんだよ。手が届くなら助ける。それだけだ」

「……わかんねぇよ……お前は神様か勇者にでもなったつもりなのかよ……」

「そんな大層な物じゃないって。理由なんていらないだけだ。心が叫ぶんだよ、助けろって、だから――ッ!!」


 一騎は《魔人》化したマシロに手を当て、魔力を流し込む。

 《氷雪》のイクシード固有能力の一つ、《凍結》の力で暴走した魔力を凍らせたのだ。

 魔力の暴走が停止し、《魔人》化の進行が止まる。

 魔力の暴走が収まり、苦痛に喘いでいたマシロが言葉を詰まらせながら、結城の名前を囁いた。


「と、トー……ル?」


 虚ろな瞳が結城を見つめる。

 結城は必死になってマシロの手を掴み、マシロを励ます。


「あぁ、トールだ! 負けんな、マシロ!! そんな黒い魔力に負けんじゃねぇ!」

「トールの、声、聞くと……安心できる……頑張れるッ!」


 マシロの瞳に輝きが戻り、意識が戻る。

 今なら彼女の暴走した魔力も封印出来るだろう。


「マシロちゃん、よく聞いて。今から暴走した君のイクシードを封印する。痛みはないだろうけど……君の力は大きく制限されることになる。もう自由に外を歩けないかもしれない……」

「……大丈夫、トールがいれば、それだけで……」

「わかった……」


 マシロの意思をくみ取り、一騎がイクスギアの封印機能を起動させる。

 暴走した黒色の魔力がイクスギアに取り込まれ、制御を失ったイクシードの一部を吸収。

 結晶化して、イクスギアに格納した。


 一騎はマシロの《魔人》化を封印し、イクシード《時間遡行クロノス》を手にするのだった。

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