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魔導戦記イクスギア  作者: 松秋葉夏
魔導戦記イクスギアRoute
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イクスギア《ルート》

 青より鮮やかな蒼い魔力の粒子が満身創痍の結城の体を包み込む。

 光の中で結城は言葉を無くしていた。


 ギアのブレスレットから溢れる輝きは目を奪うほど綺麗で。

 その輝きは何より折れかけた心を癒してくれる温もりがあった。


「な、なんだよ……これ」


 魔力による身体強化の影響で、怪我の痛みも引き、脳震盪が収まった結城は、身に起こった不可思議な現象にただ呆然とするばかり。


 硬直する結城を置き去りにして、起動認証を得たイクスギアが結城に合ったギアを形成し始める。


「え? え? お? おぉぉ……!」


 感嘆の声を上げながら、結城は両腕に目線を向ける。

 肘まで覆う籠手のような金属のグローブ。

 手の甲には水晶のような宝石がはめ込まれ、幾何学的な模様が描かれている。


 破けた服は粒子となって消滅し、その代わりに新しい服が結城の身を覆っていた。

 蒼を基調としたイクスジャケットは袖がなく胸元を隠すだけに留まり、結城の鍛えぬかれた腹筋を強調するデザイン。

 さらに腰回りを覆うように翻るのは蒼いコート。

 同じく蒼いボトムスとブーツを履いた姿へと変身していた。


(な、なんじゃこりゃああああああああああ!?)


 身に起こった変化につっ込む暇もなく、変身を終えた結城を解き放つように光の粒子が消えていく。


 《白世界》に戻った結城は、何度も拳を開いたり閉じたりして、身の変化を確かめた。


(……体の奥底から力が湧いてきやがる)


 今まで、結城はただ体内の魔力をがむしゃらに放出していただけ。

 魔力を相手にぶつけたり、纏っていた今までと違い、イクスギアを装着した今、魔力はより堅牢な武器と防具へと変化していた。


 それが、結城の両腕を覆うガントレット型の武器――『ルートグローブ』と強化されたイクスジャケットだ。


 結城の体を覆う魔力障壁もこれまで以上の強度を誇り、白亜の騎士に倒される前よりもパワーアップしているのは確実だった。


(これなら、もう負けねぇ! 負ける気がしねぇ!!)


 身の内から溢れ出す魔力を拳に込めると、手の甲の水晶が魔力の輝きを放つ。

 結城を照らす蒼い輝きに加え、《白世界》を圧迫するほどの巨大な魔力に白亜の騎士が怯えるマシロから結城へと視線を変えた。


「……なんだ、この魔力は……?」


 戦慄に表情を歪める白亜の騎士。

 それも当然だ。


 今もなお、結城から迸る魔力は、白亜の騎士を――否、その主である魔王の想像を超えるほど強大。

 ともすれば、異世界出身の召喚者に勝るとも劣らない魔力量だ。


 すでにイクスギアの魔力制御を離れ、結城の魔力が溢れかえっている。

 

 それでも結城が《魔人》化をしないのは、この世界でギアを纏ったからだろう。


 現実世界であれば、本来なら暴走し、体外へと放出することが出来ない程の魔力量だが、《白世界》は現実世界から隔離された世界。


 魔力による暴走の心配もなく、それ故に――


「……全力の魔力にもギアが耐えられているのか」


 魔力の暴走が起こらない以上、イクスギアの強制解除はまず起こらないだろう。

 要となるブレスレットを破壊するか、あのギアを纏った結城透を倒すまで、あの変身は解除されない。


「行くぜ!」


 戸惑う白亜の騎士の隙を突き、結城が魔力を爆発させ、一気に距離を詰める!


 見違える程の速度に白亜の騎士の動作がワンテンポ遅れた。

 その間隙を突き、結城の拳が白亜の騎士の顔面を打ち抜く!


「うぐぅッ!?」


 魔力障壁を全開にして、結城の攻撃に耐え抜く白亜の騎士。

 だが、その表情に一切の余裕はなく、障壁で攻撃を防いだにも関わらず、白亜の騎士の額が割れ、血が噴き出した。


「どうだッ!!」

「……見違えたよ。けど、倍速で動けるとわかれば、それに対応するまでだ!」


 白亜の騎士が二本の長剣を構える。

 結城もグローブを装着した拳を力強く握りしめ、一息で距離を殺し、拳のラッシュを見舞った。


「オラオラオラオラッ!」

「く……ッ!?」


 巧みな剣捌きによって、拳を防ぎながら、白亜の騎士は確信する。

 今の結城の力は自分に匹敵する力だと。


(俺のイクシードを使うべきか!? けど……あの力は!!)


 対抗するには恐らくそれしかないだろう。

 魔王の血を体内に取り込むことで得た《白世界》の能力と魔剣。

 さらにネオイクスドライバーの性能をもってしても、今の結城を抑えるのは困難。

 なら、あとは魔法とイクシードしかない。

 だが、イクシードの力を今使うわけには……


 白亜の騎士は苦渋を浮かべ、手をかざす。


「鉄壁の守りよ、《イージス》!!」


 発動する魔法のイメージを思い描き、魔力を改変する詠唱を早口で紡ぐ。

 結城と白亜の騎士の前に楕円の魔力障壁が発現。


 初級魔法《イージス》が結城の攻撃を阻む!


「うおおおおおおおおおおおおッ!!」


 結城は裂帛の気合と共に《イージス》に拳を叩き込む。

 その直後。


『――イクシードの発動を確認しました』


 聞きなれない機械音が結城の耳に届いた。

 

(んだよ、突然!?)

『マスター、イクシードの発動を確認。実行しますか?』

(だから、なんだよ! イクシードって!! 知るか!)


 どうやら、この声の発生源は耳に装着していたヘッドホンのような機械から聞こえてくるみたいだ。

 感情のない機械音が戦いに水を差すような返答を繰り返す。


『実行しますか?』

(だから、知らねーって!! 勝手にしやがれ!!)

『マスターからの承諾を確認。イクシードを実行。これから起こりえる未来を投影します』


「うおッ!?」


《イージス》に拳をぶつけていた結城の声が裏返る。

 それも当然だった。


 脳に直接いくつもの映像が映し出されたからだ。

 

《イージス》の強度に負け、弾き飛ばされた瞬間、二本の刃によって叩き伏せられる姿。

《イージス》を砕くことに成功するも、拳を打ち抜いた直後の硬直を狙われ、斬られる姿。

《イージス》を砕き、攻撃を避けるが、再び膠着状態。

《イージス》を砕くことを諦め、撤退。

 ――

 ――――

 ――――――


《イージス》を打ち抜き、白亜の騎士に拳を叩き込む姿。


(な、なんじゃ、こりゃあああああああああああああああ!?)


 《イージス》に拳をぶつけた刹那の瞬間にありえない程の映像が結城の脳に焼き付き、パニックに陥る。

 まるで、これから起こる未来を暗示したかのようなビジョン。

 その中には白亜の騎士に負け、死ぬ姿すらあるのだ。


『現在アクセス可能な九つの平行世界に介入。マスター、選び取る世界を選択してください』

(いや、わけわかんねーって!!)


 混乱の極みに達した結城は狼狽しながら、心の中で叫んだ。

 幾分、呆れたような機械音が結城の知識不足を補う。


『マスターの固有イクシード《ルート》は、平行世界にアクセスし、世界を改変する力です。

 現在、介入できる世界は、この世界を含め、九つになります。

 マスター、選択をお願いします』

(だから、わけわかんねーって!!)


 能力の説明を聞いても、まったく理解できない。

 だが、選択しろ。と促されているのは間違いないだろう。

 

 なら――


(俺が死ぬ未来なんて選びたくねー……かといって逃げたくもねぇし、拳を当てる以外、選択肢なんてねぇだろ!!)


『了解しました。アクセス――改変成功。

 イクシード《ルート》を実行します』


 直後、結城の意思に反して、体が勝手に動き出した。

 地面を粉砕するほどの踏み込みに加え、魔力の制御能力が格段に上昇。

 拳に収束させた魔力があまりの密度にスパークを起こす。


「うおおおおおおおッ!?」


 それは、咆哮でありながら、悲鳴でもあった。

 己の意思に反して動く体。

 魔力すら勝手に操られ、まるで見えない何か――運命とも呼べる定められた結末へと向かう為に、決められた動作を機械的に行っているようで――。


 突然のことに結城は目の前の敵の事すら忘れ、ただただ混乱しながら、その刹那の交錯を駆け抜け――


 直後、《イージス》のガラスの砕けるような破砕音と共に。


「……がッ……!?」


 白亜の騎士を殴り飛ばす未来へと世界を繋げるのだった。

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